似合うかじゃない、背負えるか。織戸茉彩と911 GT3、その始まりの物語

Porsche 911 GT3
Porsche 911 GT3全 50 枚

1000万円超えの額をフルローンにして、クルマを買った。その選択をしたのは、現在26歳のレーシングドライバー織戸茉彩(おりど・まあや)さんだ。そんな話を聞くと、多くの人は一瞬言葉を失って、それからこう続ける。

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「すごいね」か「大丈夫なの?!」か。そのどちらも、きっと間違ってはいない。でも、彼女の隣に立って感じたのは、そういう反応では捉えきれない静けさだった。

織戸茉彩 x Porsche 911 GT3織戸茉彩 x Porsche 911 GT3

浮ついた高揚でも、無理に背伸びした強さでもない。自分で選んだものを、自分で引き受ける――その前提が、すでに身体に馴染んでいるような落ち着き。そこには、言葉にしなくても伝わってくる強さがあった。

茉彩さんが選んだのは、ポルシェ『911 GT3』(TYPE 991.1)。似合うかどうかではなく、背負えるかどうかを真っ直ぐに問うクルマだと思う。その問いに対して、彼女は迷わず「はい」と答えた。

Porsche 911 GT3Porsche 911 GT3

自分の夢をひとつ叶えた”という表現ではどこか足りない。憧れを手にした、という物語でも終わらない。これは、茉彩さんが自分で選んだ未来から目を逸らさないと決めた、その始まりの物語だ。

レーシングドライバーになるなんて、思っていなかった

JAPAN CUPJAPAN CUP

織戸茉彩さんは、MAX ORIDOの愛称でファンから親しまれるレーシングドライバー織戸 学(おりど・まなぶ)の娘だ。小さな頃からレーシングドライバーを目指していたのかと思いきや、美容やファッションが大好きで、美容学校に通って美容師資格を取得したのだという。クルマの楽しさに目覚めたのは、自分が運転免許を取得してからのこと。少なからず父の影響もあったようだが、「まさかレーシングドライバーになるという未来は、そこまで考えていなかった」と、彼女は笑う。

レーシングドライバーとしてだけでなく、インフルエンサーとしても活躍の幅を広げているレーシングドライバーとしてだけでなく、インフルエンサーとしても活躍の幅を広げている

2021年にレーサーとしてのライセンスを取得した後は、ヤリスカップ、KYOJO CUPなど国内レースに参戦し、着実に力をつけてきた。今季はヒョンデブランドアンバサダーにも就任して、EV界にも活躍を広げている。5月にはGT4レース、JAPAN CUPにも初参戦を果たし、表彰台3位を飾った。モータースポーツだけでなく、国内外の様々なイベントに出席したり、ナビケーターを務めるなど、インフルエンサーとしても自らの言葉でクルマの魅力を伝えている。

順風満帆に見えるかもしれないが、彼女はけっして与えられたレールの上を走ってきたわけではない。むしろ、自分で道を探しながらその都度ハンドルを切ってきた。レーサーとして結果を出すことのプレッシャーもあれば、「見られる存在」としての重さもある。でも彼女は、持ち前のポジティブさであらゆることを前向きに受け止めて、ここまでやってきた。

だからこそ、この選択は「単なる勢い」でもなんでもない。むしろ、覚悟を持って挑み続けてきた彼女の、さらなる覚悟を問う決断だった。

「絶対に私がこのクルマを迎え入れたいと思った」

織戸茉彩 x Porsche 911 GT3織戸茉彩 x Porsche 911 GT3

茉彩さんが選んだのは、ただのスポーツカーではない。ポルシェ 911 GT3という存在は、ポルシェ好きも唸るほどの特別な意味を持つ一台だ。「いつか乗れたらいいな」そう憧れを持つ人は大勢いる。そして彼女自身も、その憧れを折に触れて口にしていた。

Porsche 911 GT3Porsche 911 GT3

「まさか、こんなに早く手に入れるとは正直思ってもいませんでした。でもこれだ!って、出会った瞬間にビビッと来てしまって。悩んでいる暇はありませんでした。他にも購入を検討している人がいると聞いて、絶対に私がこのクルマを迎え入れたいって思ったんです」

実際彼女は、見学に行ってその日のうちに購入を決断した。

織戸茉彩 x Porsche 911 GT3織戸茉彩 x Porsche 911 GT3

「正直、自分にとってはかなり身の丈を超えた買い物をしたと自覚しています。この先、仕事をめちゃくちゃ頑張らないといけない。でも、頑張る理由ができた。それは私にとってプラスに働くって確信できたから、決断したのだと思います」

そう話す彼女の表情からは、迷いは感じられなかった。

911 GT3は、ハイヒールのような存在

Porsche 911 GT3Porsche 911 GT3

ハンドルを握る茉彩さんの横に同乗して、東京の街を走った。車内に流れる音楽と、小気味よく唸る少し乾いたGT3エンジンの音が、シンクロして脳に響く。夕陽を反射して光る美しい赤色のボディが視界の先に見えて、それだけで高揚してくる。

織戸茉彩 x Porsche 911 GT3織戸茉彩 x Porsche 911 GT3

「やっぱり好きなクルマを運転してるとテンション上がる!」と満面の笑みを浮かべる彼女の等身大の姿に、私も笑みがこぼれた。

「他のクルマと何か違いは感じるのか?」という私の問いに、彼女は少し考えた後こう答えた。

織戸茉彩 x Porsche 911 GT3織戸茉彩 x Porsche 911 GT3

「背筋がスッと伸びるクルマですね。私はハチロク(GR86)も持っているんですが、それは気軽にあちこち連れ回せるような感覚なんです。でも、これは違う。乗るたびに、なんだかこちらの覚悟を試されるような感じがあります。特別な時にそっと連れ出す感じかな」例えて言うなら、ハチロクはスニーカー、911 GT3はハイヒールのような感覚なのだそうだ。

織戸茉彩 x Porsche 911 GT3織戸茉彩 x Porsche 911 GT3

自分だけの特別なハイヒール。

履いたことがない方には少し想像しづらいかもしれないが、ハイヒールには、不思議な力がある。履くだけで背筋が伸びて、視線が上がって、自分がほんの少し未来に近づけたような気持ちになる。

Porsche 911 GT3Porsche 911 GT3

911 GT3も、きっとそれに似ている。茉彩さんは今、自分だけの特別な一足を履いて、新しい景色へ向かおうとしている。

自分の人生のハンドルは、自分で握る

Porsche 911 GT3Porsche 911 GT3

クルマを買う、という行為は、誰にとっても少なからず人生の節目になる。ましてや、1000万円をこえる金額。しかもそれを25歳で、自分自身の責任で背負い始めた。その重さは、きっと本人が一番分かっている。

だからこそ私は、この911 GT3が、単なる“憧れの到達点”には見えなかった。むしろ逆だ。これは茉彩さんがこれから先、もっと遠くへ進むために、自分自身へ課した新しいスタートラインなのだと思う。

織戸茉彩 x Porsche 911 GT3織戸茉彩 x Porsche 911 GT3

好きだから乗る。憧れていたから手に入れる。もちろん、それもひとつの理由だろう。でも彼女の場合、その奥にあるのは「このクルマに見合う自分でありたい」という、静かな意志だった。

夢を叶えた瞬間、人は安心する。けれど彼女は、安心する代わりに、自分をさらに前へ進める選択をした。

Porsche 911 GT3Porsche 911 GT3

夕陽に照らされた赤いGT3の横で笑うその姿は、とても自然で、でもどこか凛として見えた。きっと彼女はこれからも自分で選んだ未来へ向かって、時には迷いながら、それでもアクセルを踏み続けていくのだろう。

自分の人生のハンドルは自分で握る。

そんな当たり前で、でも難しいことを、彼女は真っ直ぐに体現していた。

《上之園真以》

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