【井元康一郎のビフォーアフター】次世代車戦略、自動車産業の枠を越えた人選を

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パールホワイトに塗り替えられた燃料電池自動車FCXクラリティ
パールホワイトに塗り替えられた燃料電池自動車FCXクラリティ 全 8 枚 拡大写真

EV(電気自動車)の普及促進策やインフラ整備に関するビッグニュースが日々世界を駆け巡る中、経済産業省は11月4日、次世代自動車戦略研究会の初会合を開いた。

環境分野を成長戦略のエンジンの主力としたいという民主党・直嶋正行経産大臣の意向を反映したと考えられるこの研究会。来年1月には中間報告を出すというかなりタイトなスケジュールが組まれていることからも、経済運営力を何とか見せつけたい民主党の心情がうかがえる。

が、政府系の研究会といえば、会合の回数を重ねた挙げ句、誰でも思いつくような無難で凡庸な結論しか出てこないというケースがあまりにも多い。次世代自動車戦略研究会から、日本の有効な将来ビジョンが生まれ得るのだろうか。

会のメンバーは14名だが、内訳を見ると、自工会会長を務めるホンダの青木哲会長、トヨタ自動車の渡辺捷昭副会長、三菱自動車の益子修社長、日産自動車の志賀俊之・最高執行責任者など、9名が自動車業界。うち、8人は開発系ではなく事務系、もしくは技術担当でも生産系であったりと、先端科学とは縁遠い部門出身。唯一、開発系の出である日野自動車の白井芳夫社長もすでに61歳で、今日の先端分野と直接の接点はない。

石油業界、電力業界、電池業界の業界団体も加わるが、あくまで“従”という扱い。結局、高度に科学的な見地から意見を述べられるのは、京都大学元教授でリチウムイオン電池や燃料電池など電気化学のエキスパートである小久見善八博士、やはり電気関連の基礎技術となる金属化学を専門とする東京工業大学の石谷治準教授の2人くらいのものだ。

未来のモータリゼーションのビジョン策定という重要なテーマを扱うというのに、旧来の序列主義から企業のトップを適当に招聘し、意見交換を行うというのは、はなはだパワー不足の感が否めない。楽しめるクルマ作りを茶飲み話程度に物語るための会ではなく、日本の国際競争力を高めるための戦略を話し合う会なのだ。

世界各国の政府が突然、次世代車の開発や普及に血眼になった大きな理由として、資源・エネルギー分野の革新機運の高まりがある。ここ数年で急速に進んだ原油・資源高騰を契機に、クルマが単に個人の便利な乗り物であるというスタンドアロンの商品であるということにとどまらず、軍事、食料と並ぶ国の安全保障の三要素、資源・エネルギー分野の革新に関わる一大事であることが明らかになったからだ。

こと自動車関連の技術では、EVや燃料電池を含め、日本陣営は今のところ世界のトップランナーである。その一方で、どういう次世代の交通システムを築いていくべきかという世界基準作りへの影響力行使という点では、日本は決定的に遅れている。

エネルギーソリューションと一口に言っても、どのようなシステムを作れば効率化を図れるかは、地形、気候、資源埋蔵量、都市の密集度など、国それぞれの事情によって大きく異なる。グローバル経済の中では、国ごとに最適化したシステムを別個に作ることは現実的ではないため、ある程度の共通化が自ずと図られる。そのすり合わせが今日、世界の国際会議で盛んに行われている。

日本はその場で技術に見合う存在感を発揮できていない。ほうっておけば、世界の主流技術が日本の国情に合わないものになるという恐れもある。日本の自動車分野の競争力強化は、既存の自動車業界の枠組みにとらわれず、化学、資源・エネルギーをはじめ、次世代の社会基盤のありよう全体を見ながら進めるべきなのだ。もちろん、その正当性を世界に認めさせるには、外交力の投入も欠かせない。

この会をオーガナイズしているのは、経産省の自動車課。あくまで自分のテリトリーは自動車であって、それ以外の分野はオブザーバー、あるいは競争相手としか見ていない部署である。

社会基盤全体の中で次世代のクルマの競争力強化を図らなければならないというのに、クルマとクルマ社会のすべてに精通しているわけではない自動車メーカーの首脳を集めて意見交換を行うという官庁の様式を踏襲した研究会から、何か素晴らしいビジョンが飛び出すことはまずない。

省資源、脱石油へ向かうための革新的テクノロジーを世界に示し、それをデファクトスタンダードにしていくための方向性を明確にするためにも、経産省の課の縦割りや自動車産業の枠を越えた人選による、国家戦略の立案にふさわしい別の諮問機関を、上位に設けるべきであろう。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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