【池原照雄の単眼複眼】スズキVW連合、まずは「環境」より「スケールメリット」

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成果をいち早く引き出したい

昨年末に衝撃的な包括提携を発表したスズキと独VW(フォルクスワーゲン)の共同戦線が年明けとともに動き始めた。中期的にはハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)といった環境技術での成果が注目される。だが当面は、部品の共通化や生産の相互委託による「大量生産の効果」(鈴木修スズキ会長兼社長)にこそ、この提携の成否がかかる。

両社は年明け早々、それぞれの本社に駐在事務所を開設、まず具体的な提携案件の洗い出しに着手する。スズキは1日付で本社内に「VW業務室」も設置し、技術、営業、総務、法務といった担当者を張り付けた。30年近くに及んだ米GM(ゼネラルモーターズ)との提携経験を生かし、必要な組織をスピーディに立ち上げた。新たなパートナーとの連携効果をいち早く引き出したいと、ヤル気満々である。

スズキとVWの提携は、マスメディアではほぼ一様に「環境」と「新興市場」という2つのキーワードで説明される。確かに膨大な投資を要するエコカー技術での相乗りは、とりわけスズキには重要なテーマではある。一方の新興市場ではインドと中国で、両社はそれぞれトップシェアを確保している。

◆800万台超の規模を生かす

両社のノウハウを持ち寄れば2010年代の新車需要の“宝庫”ともいえる中国、インドでの市場開拓の相乗効果は大きい。ただ、鈴木会長が指摘するように、提携によってスズキがVWグループの新たなブランドになるわけでもなく、競争関係は続く。

それぞれのマーケットは、両社にとって金城湯池の構えでトップシェアを守りたいところ。双方がどこまでこれらの市場で協力関係に踏み込めるか、提携を深化させるうえでの試金石となろう。

ライバルメーカーにとってスズキ・VW提携の脅威は、将来の環境技術よりもむしろ、既存の製品ラインナップだけでも大きなコスト低減効果が見込めるというところにある。両社の世界販売は800万台を超えており、足元の数字ではトヨタ自動車を上回るスケールだ。

◆客観的尺度で部品共通化を推進

しかもかつてのスズキとGMの組み合わせとは決定的に異なる点がある。それは、お互い「同じような小さなクルマを造っている」(鈴木会長)ということだ。その分、販売の第一線では競合しやすくなるが、部品の共通化や受委託生産による生産性向上など、規模のメリットを追求する機会は広がる。

鈴木会長は部品共通化などによるコストダウン効果は「大きなものになる」と自信を示す。もっとも、部品や資材調達の協業化を進めるのは容易ではない。スズキとGMは2002年にいすゞ自動車、富士重工業を加えた共同購買チームを結成したものの、大きな成果は出し得なかった。共同調達は総論で賛成しても、個々の企業の設計変更が伴う各論に落とし込むのは難しい。

鈴木会長は最早、それぞれの企業の技術者が「わがままを言う時代ではない」としたうえで、「品質、コスト、生産性をもとに客観的に決めていくべき」と強調する。そうしたスズキのペースに、規模が大きくプライドも高いパートナーをどう巻き込むか---鈴木会長の腕の見せ所であり、提携効果の行方を左右する。

《池原照雄》

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