【BMW 5シリーズ 発表】デザイン秘話…時間ではなく手間をかける

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5シリーズ 新型
5シリーズ 新型 全 10 枚 拡大写真

3月25日に都内で行われた新型『5シリーズ』の報道発表会のために、BMW本社のデザイン部門からエクステリアデザイナーのヤチェック・フレーリッヒ氏が来日。30分余りにわたってデザインのプロセスや特徴をじっくり説明した。

BMWではデザイン開発の最初に「キャラクター・ワークショップ」という段階を取り入れている。マーケティング担当者と一緒に市場調査したり、建築やさまざまなプロダクトの写真、あるいは音楽などを使ってユーザーのライフスタイルを視覚的・感覚的に表現したりしながら議論を繰り返し、これから開発するデザインが持つべきキャラクターを定義。それをいくつかのキーワードに集約するという段階だ。今回の5シリーズでは

・エレガンス
・ナチュラル・スポーティネス
・バランス
・モダニティ

の4つのキーワードを定めた。ちなみに『7シリーズ』ではアリストクラティック(貴族的な)、ディグニティ(威厳)、プレゼンス(存在感)など、やはり5シリーズとは違う言葉が選ばれていたという。

次にそれらのキーワードをクルマのカタチに翻訳すべくアイデアスケッチを展開。この段階では、原則的にすべてのデザイナーが参加する。BMWには25人のエクステリアデザイナーがおり、今回は約20人がスケッチでアイデアを出し合ったという。大雑把に言ってデザイナーの人数はトヨタの10分の1。車種の数を勘案しても少数精鋭で、だからこそ全員参加なのだ。

3 - 4週間ごとにアイデア選択のミーティングがあり、ここで各デザイナーがスケッチを見せ合い、良いところ・悪いところを議論。前述のキーワードが善し悪しの判断基準だ。これを3か月かけて繰り返した後、BMWブランドのチーフデザイナーであるファン・ホーイドンクが、誰の案を「1分の1クレイモデル」にするかを選ぶ。

「誰の案」というのがひとつのポイント。日本メーカーではチームワークを重視してチームで複数の案を進めるのに対し、BMWはスケッチからクレイモデルまで一貫して個人ベース。自分の案が選ばれなかったらプロジェクトから去る、という厳しさがある一方、ひとりのセンスでデザイン全体をまとめることができ、個性明快なデザインを生み出すことができる。

今回の5シリーズでは5案の=5人の提案が1分の1クレイモデルに進んだ。日本メーカーでは1分の1モデルはせいぜい2案だから、手間もコストもかかる1分の1モデルを5案も作るのは「さすが」と言うしかない。10か月かけて5案を熟成した後、会社のトップに対してプレゼンテーション。そこでフレーリッヒ氏の1分の1モデルがウィナーに選ばれたわけだ。

なお、スケッチ開始から1分の1モデルで1案に決まるまで13か月というのは、日本メーカーのデザインプロセスと比べても、けっして長いわけではない。時間ではなく手間をかけるところに、BMWデザインの強さの源泉があるのかも---フレーリッヒ氏のプレゼンテーションを聞きながら、そう思った。

《千葉匠》

千葉匠

千葉匠|デザインジャーナリスト デザインの視点でクルマを斬るジャーナリスト。1954年生まれ。千葉大学工業意匠学科卒業。商用車のデザイナー、カーデザイン専門誌の編集次長を経て88年末よりフリー。「千葉匠」はペンネームで、本名は有元正存(ありもと・まさつぐ)。日本自動車ジャーナリスト協会=AJAJ会員。日本ファッション協会主催のオートカラーアウォードでは11年前から審査委員長を務めている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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