【スバルの先進安全技術インタビュー】普及させたいという強い思い

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スバル技術本部電子技術部担当部長の野沢良昭氏
スバル技術本部電子技術部担当部長の野沢良昭氏 全 12 枚 拡大写真

富士重工業は4月22日、ステレオカメラを利用し完全停止可能な自動ブレーキ機能や、全車速追従機能付クルーズコントロールを搭載した第2世代となる新型『EyeSight(アイサイト)』を発表した。

新型は、従来から大幅に機能性を向上したにも関わらず、システム価格は従来の約半額となる。この価格設定の裏には、先進的な安全技術をとにかく普及させたい、というスバルの思いがあった。新型アイサイト開発の経緯、安全技術に対するスバルの姿勢について、スバル技術本部電子技術部担当部長の野沢良昭氏にお話を伺った。

◆機能とコスト両面に優れるステレオカメラ

----:アイサイトの研究はかなり昔から始めていたそうですが。

野沢氏:ステレオカメラの研究を始めたのが1980年代後半でした。99年にADAとして市販化したわけですから、発売にいたるまで10数年間かけていたことになります。ただADAは販売台数が数百台だったので、目立たなかったかもしれません。プリクラッシュブレーキは、センサーとして制御ができることはわかっていました。止める側の技術がクリアできたので、アイサイトとして機能を追加したのです。

----:ステレオカメラという発想はどこから生まれたのでしょう。

野沢氏:クルマを運転しているのは人間で、目で捉えた情報をもとに操作しているので、目の動きにいちばん近いセンサーということで研究を始めたのです。視差を分析することで距離が判明できるので、単眼で分析するより楽です。しかもカメラはレーザーより安い。コスト面も考えた結果なのです。

----:実用化まで10年以上掛かった理由は。

野沢氏:距離を計測するにはズレを見なければいけないんですが、開発当初はカメラの画素数が少なく、距離精度を出すのに苦労していました。いまはかなり気軽に使えるようになりました。技術の進歩が実用化につながったといえるでしょう。画素数は30万です。たったそれだけと思われるかもしれませんが、モノクロだし、モノがわかればいい。それよりも感度が重要でした。画素数を追い求めるだけではダメなのです。

----:2つのカメラの距離は最初から決まっていたのですか。

野沢氏:本当はもっと距離をとったほうが、遠方の分析がやりやすいのですが、離してしまうとカメラの位置決めがむずかしいのです。その結果現在の35cmぐらいに落ち着きました。

◆VDC制御導入でより繊細な減速コントロールを実現

----:新型アイサイトは、従来型と比べてどこにトピックがあるのでしょうか。

野沢氏:いちばんのポイントは、プリクラッシュで衝突の回避、あるいは衝突被害の軽減ができるようになったことです。そのためには、距離系統の処理精度を高めなければいけませんでした。またブレーキは、従来はマスターバックに電磁バルブで負圧導入していましたが、今回はVDCで制御しています。液圧のフィードバックが得られるので、コントロールが微妙にできるようになりました。

----:従来型に続いてAT誤発進抑制制御も搭載していますが。

野沢氏:この制御は、先代レガシィのプロジェクトゼネラルマネージャーを務めていた増田の実体験に基づくものです。出張中、コンビニで買い物をしていたら突然クルマが突っ込んできた。クルマの側で認識していれば避けられるのではないかという考えから、検討してみたら?と投げかけられたのです。

----:クルーズコントロールについての変更点は。

野沢氏:今回は減速度を従来型の1.6倍まで高めることが可能になりました。首都高速を走っていると、少し強めのブレーキを踏む機会に多く遭遇します。そういった場合でも追従できるようになった。従来は警報を鳴らして警告している領域でした。

----:停止後の再発進が自動ではなく、アクセルかリジュームスイッチを操作しないと発進しないのは、意識的な設計なのでしょうか。

野沢氏:追従クルコンだと自動運転に近い動きをするので、運転していることを忘れてしまうケースがあるので、発進については必ず自身の意志でやっていただくことにしました。それが安全につながるのです。

◆30km/h以下なら追突回避

----:プリクラッシュでの衝突の回避、あるいは衝突被害の軽減は、すでにボルボのシティセーフティが30km/h以下で作動、15km/h以下で停止という形で実用化しています。スバルの優位点はどこにあるのでしょう。

野沢氏:アイサイトは100km/h以下であれば使え、30km/h以下なら可能です。それだけステレオカメラのポテンシャルが高いといえるかもしれません。

----:こうなると他の機能にも期待したくなるのですが。

野沢氏:車線逸脱のとき警報だけではなくてステアリングを微妙に操作する機能は有効だと思います。車線情報の処理は行っているし、電動パワーステアリングなので、技術的には可能だと考えています。ただし、まだ検討段階です。

----:一部の高級車が搭載している夜間の歩行者認識はどうでしょう。

野沢氏:あれは赤外線カメラを使い、赤外線投光機で照射をしないといけない。カメラやセンサーの性能を上げていけば機能を増やせますが、価格もどんどん上がっていく。われわれはまず、普及させたいのです。世の中に認めていただかないと発展していかないですから。

----:新型はデザインがスマートになりましたが、これも研究の成果でしょうか。

野沢氏:従来型は張り出しが大きくて圧迫感がありました。そこで余計な出っ張りを消し、なめらかな曲線をつけたのです。ハードウェアは従来と同じものを使いつつ、寸法をmm単位で削ってカバーを作りました。

◆普及させたいという思いが強かった

----:システム価格が約20万円から約10万円とほぼ半額になったことも驚きですが、その秘密は。

野沢氏:コスト低減に努めたこともありますが、それ以前に普及させたいという思いが強かったのです。お客様に買っていただける価格がどのぐらいかを考え、営業サイドとの話し合いを経て、落ち着きました。数が出ればコストが下がるという期待もあります。

----:モデルチェンジのタイミングで出せなかったのはどうしてでしょうか。

野沢氏:結果的には年次改良にとっておいた形になりましたが、アイサイトはエンジンやトランスミッションの制御と密接なので、ベースのクルマが完成していないと適合の作業ができないのです。また実車を使い、公道でデータを取ったりしなければいけないという理由もありました。ただ社内的には、今後はモデルチェンジと同時に搭載するように努力していきたいと思います。

----:ところで最近、ABSの作動やロールオーバー問題など、国内外でユーザーの安全性に対する目が厳しくなってきています。スバルとしてはどのような姿勢でこのような先進安全技術の開発を進めていくお考えですか。

野沢氏:アイサイトは、前身となるADAを商品化してから10年間、改良を重ねてきました。フェイルセーフの機能や診断機能に万全を期しています。仮に機器が故障した場合は、すべてシステムの作動を“停止”させるように、フェイルセーフを掛けています。お客様のブレーキ操作を最優先としている点も安全重視の思想の現れです。

----:海外展開は考えているのでしょうか。

野沢氏:検討はしていますが、現地の交通環境を調査しないと展開はできません。たとえばアメリカではセンターラインがマーカーだけになったりする。それらを読み込めなければなりません。ただしアメリカでは現在、ロールオーバーとの関係で、車線逸脱警報が注目されていて、NCAPの評価項目にもなると発表されています。また保険機関のIIHSはプリクラッシュ評価を始めるそうです。このように今後数年間で先進安全技術の分野が動き始めるようなので、将来的には出していきたいと考えています。

《森口将之》

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