新設の経営企画室が基本方針を練る
東日本大震災によって国内自動車工場の大半が生産停止を余儀なくされるなか、新しい決算期となる2011年度が幕開けした。自動車メーカー各社では意思決定の迅速化を狙いとする役員体制の刷新や開発の強化策などが動き始めた。
現下の最優先課題は、生産の本格回復など大震災からの復興であるのは間違いないが、小さな扱いのニュースにも未来の大きな布石となるものが少なくない。近い将来のトップ交代をにらんだスズキの機構改革もそのひとつだ。
同社は4月1日付で「経営企画室」を新設した。取締役4人による経営企画委員が、重要経営課題に対しスピード感をもって基本方針を調整・立案するというものだ。
企画委員メンバーは、国内営業本部長の田村実専務、4輪技術本部長の本田治取締役、事業開発本部長の原山保人取締役、および経営企画室長を兼ねる鈴木俊宏取締役だ。3月まで原山氏は提携推進本部長として独VW(フォルクスワーゲン)との協業プロジェクトを担当、鈴木氏は海外営業本部長と、いずれもカナメのポストに在った4人を起用した。
◆相次ぐ危機でバトンを渡せず
スズキは1978年の社長就任以来、33年にわたって経営トップの座にある鈴木修会長兼社長の強力なリーダーシップで業容を拡大するとともに、幾度もの危機を乗り越えてきた。
在任30年の08年は節目とみられたものの、金融危機や米GM(ゼネラルモーターズ)との提携解消とVWとの提携、昨年夏以降の急激な円高、さらに今回の大震災と、後進へのバトンタッチを逡巡させる事態が相次いで起きてきた。
大震災からの復興については陣頭指揮に当たっているものの、こうも危機的状況が続くと、いつまでたってもバトンは渡せず、将来に禍根を残すと判断したようだ。
◆次期集団指導体制にも配慮
経営企画室が経営の基本方針を決める組織であるにも拘わらず、鈴木会長自らはそこに加わらないのは、同社にこれまでなかった「権限委譲」と見ることができる。経営企画室は言ってみれば、鈴木会長の諮問機関であり、その答申は自ずと重みを増すからだ。
諮問委員長に相当する室長に、鈴木会長の長男で次期社長の最有力候補である俊宏氏が就いたのは、ややあからさまだが妥当な配置だ。方針決定を合議制で行うという仕組みにしたのも、脱ワンマンの集団指導体制となるのが確実な次期経営体制をにらんだ鈴木会長の配慮がにじんでいる。
しっかりした答申が相次いで出ることになれば、1年後のトップ交代も見えてくる。