品質と量産コストを両立させたLEDヘッドランプの生産技術…市光工業

エコカー EV
市光工業 生産技術開発部の中居達郎氏(右)と山松徹氏
市光工業 生産技術開発部の中居達郎氏(右)と山松徹氏 全 12 枚 拡大写真

熱対策はLEDヘッドランプの重要な解決課題

日産『リーフ』に搭載されたLEDヘッドランプは、プロジェクター型と反射型の特徴を組み合わせたレンズ構造をもっている。また、普及型の電気自動車(EV)を意識した、量産およびコスト体系など、生産技術におけるいくつかのチャレンジの結果も集約されている。地味な存在だが、EVの基本性能にも影響するヘッドランプは重要なパーツなのだ。

では、そのLEDヘッドランプの量産化にあたってどのような課題があったのか。リーフのLEDヘッドランプの開発・製造を担当する市光工業 生産技術開発部 EDP課の中居達郎氏、山松徹氏に話を聞いた。

LEDというと、その効率の高さから熱を発しないという印象があるが、けっしてそうではない。中居氏は次のように説明する。「まず、光源に使うようなエネルギー密度の高いLED全般にいえることですが、開発や製品化において熱対策は重要なファクターでした。LEDはご存じのように半導体製品です。パソコンのCPUが稼働中に高熱になるように高出力のLEDは発熱します。しかし半導体製品は熱に弱く、ほっておくと電流がどんどん流れるようになり、最終的には半導体の接合面が焼き切れてしまいます。そのためヒートシンクや冷却機構による効果的な温度管理が不可欠なのです。」

発熱を抑えるには、LEDの発光効率を上げることが効果的だが、これはLEDメーカーの技術開発に依存する部分が多い。ランプメーカーとしては最適なヒートシンクの形状やヘッドライトアッセンブリ全体の設計で対応することになる。

◆高効率ゆえの配光の難しさ

前述したように、リーフのLEDヘッドランプはレクサスやプリウスで採用されているプロジェクター型の要素を取り入れた反射型であるのも特徴のひとつである。これについては「反射型を採用したのは、配光パターンを細かく制御でき、部品点数を減らすことができるからです。プロジェクター型は単一な形状の配光パターンになりますが、反射型はリフレクターの形で横へ広げたり左右非対称な複雑なパターンも実現できます。AFSなどとの組み合わせも効果的になるでしょう。反射型は、対向車が直接光源を見ないですむというメリットもあります。(中居氏)」とその理由を説明してくれた。

部品点数が少なくなったことは生産ラインでも工程を減らすことができ、品質管理やコストの面でメリットがあるが、一方で、光源の位置や角度、リフレクターの工作精度を高めないと明るさを有効に利用できないという新たな課題も生みだしたという。

第一に挙げるのがリフレクターの成形。「反射効率を落とさないため反射面表面の精度は通常のヘッドランプのリフレクターの精度ではだめでした。成形パラメータは試行錯誤の上、最適なものを導いています。また、表面精度を上げるため、アルミ蒸着のための下地塗装もなくしました。」

「ハイビーム用のハロゲンランプのリフレクターと比較すると、表面の映り込みの具合で精度の高さがわかると思います。そして、LED本体はヒートシンクに直接取り付けられるわけですが、この位置の誤差も抑える必要があります。LED、リフレクターの取り付け位置が定まらないと、明るさや配光パターンも設計どおりにはなりませんので、金型の加工や製品検査でも高い精度の管理を行っています。(中居氏)」と述べる。

◆品質と精度向上のために新技術を導入

また、細かいところでは、LEDチップをヒートシンクに取り付ける際にマウント部に塗布するシリコングリースの塗布方法も工夫を要したという。

「既存のラインでは最適な分量の制御に対応できないため、新しい技術を導入しました。LEDチップ自体が小さいため、数ミリグラムという少量のグリースでよいのですが、通常の製品向けの注油ラインが使えませんでした。(山松氏)」。

「そこで、少量の注油を制御できるようなラインの改造とその品質を保証するため、部品管理のためのバーコード(QRコード)システムを導入しました。バーコードにはロット番号や製造年月日、どこ向けの部品なのかといった情報が記録され、製品に印刷されます。これらのデータは蓄積され、問題が確認されたときのトラッキングに活用されます。これまでもRFIDを使ったトレーサビリティシステムは活用していますが、新しい分野の製品なので、新しいデータを蓄積することで今後の品質向上にも役立てたいと思っています。(山松氏)」

このように、リーフのLEDヘッドランプは、量産品でありながら従来品より高い精度で生産する必要があった。

ここまでこだわって投資したのは、LEDヘッドランプが今後の主流になることを見据えてのことだ。新しいコンセプトでのヘッドランプ本体の開発作業もさることながら、開発部からの機能や品質要件に対して、量産品でありラインで稼働させるという条件と、既存の設備の変更とそれに伴うコスト上昇を最小限に抑えるというミッションを、生産技術開発部はクリアしたということだろう。

リーフのLEDヘッドランプは、開発エンジニアのこだわりと、それを実現する生産・ものづくりのプロの技によって成り立っている。

《中尾真二》

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