スズキ『アルトエコ』を見て、室内に乗り込んで最初に感じたのは、「既存のアルトとどこが違うのかわからない」ということだった。
外観はホイールのデザインと、バンパー形状がちょっとだけ変わり、「ALTO ECO」というエンブレムになった程度。インテリアにいたっては、『ミライース』のように凝ったグラフィックメーターなどの演出もなく、違いは見当たらない。
でも走りだして最初に感じたのは、「既存のアルトとぜんぜん違う!」ということだった。
アクセルひと踏み目から想像以上に軽くなめらかに加速していくし、タイヤの空気圧設定が高い割には安定感があって乗り心地もいい。これは、かなり細かいところまで煮詰めているはず、と思ったらやはり、足まわりのパーツまで変えてチューニングしてあるという。
そして試乗直後、開発者の方々に伝えたのは「どうしてもっと、特別なフロントグリルにするとか、インテリアやメーターに凝るとか、燃費王者らしい演出をしなかったのか」という疑問だった。
担当者は「その方が良かったですかねぇ?」と答えてくれたが、その後さらに試乗しているうちに、私の意見は間違いだと感じた。
アルトエコ最大の魅力は、“普通であること”、“今まで通りであること”。燃費の良さに惹かれて、アルトエコを買う人もいるだろう。でもより大切なのは、ずっとアルトに乗ってきた人が何も知らずにアルトエコに乗り換えた時に、違和感なく安心して乗れて、自然と燃費もよくなっていること。
デザインを変えたことでコストが増えて割高になってしまうくらいなら、何もしない方がユーザー想いだということだ。だからアルトエコに乗っても、現時点でガソリン車の燃費王者だというのに、そのトキメキや優越感はまったくない。ないけれども、“真面目に良くできたクルマ”であることは確かだ。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★★
オススメ度:★★★★★
まるも亜希子/カーライフ・ジャーナリスト
映画声優、自動車雑誌『ティーポ(Tipo)』編集者を経て、カーライフ・ジャーナリストとして独立。現在は雑誌・ウェブサイト・ラジオ・トークショーなどに出演・寄稿する他、セーフティ&エコドライブのインストラクターも務める。04年・05年にはサハラ砂漠ラリーに参戦、完走。日本カー・オブ・ザ・イヤー(2005-2011等)選考委員、AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。公式ブログ『運転席DEナマトーク!』他アップ中。