2005年に初代『CLS』が発表されたとき、その衝撃的スタイリングは、普段メルセデスのラインアップにあまり興味を持たなかった私にも強烈に映った。メルセデスでもここまでやるか!というのが正直な印象だった。
◆改善された乗降性
全長5mに達する巨体を、一筆書きのような思い切ったストロークで一つの彫刻のようにまとめあげる、デザイナーの力量にも感服したが、同時にその使い勝手が大いに気になっていた。それは流れるようなルーフラインが後方で屋根を圧迫し、同時にリアドアの開口部をかなり狭めてしまっていることが、後席の乗り降りにどんな影響を及ぼすか、であった。
クーペスタイルとはいっても豪華なシートを4つ備えているのだから、後席の居住性についても抜かりないとは思うが、これでは乗り降りがエレガントに出来ない。
ドアを開けたらお尻をまず室内に向け、ゆっくりとそれをシートに落として、後に両足を揃えて(わずかに微笑みながら)車内に引き込む。これが(特にレディにとって)メルセデスに相応しいエレガントな乗り方だ。
しかしこの狭い開口部と後ろ向きに尖ったリアドアでは、それは難しく、結局頭から潜り込むようにして乗るしかない。かがみ込んで無防備なお尻を衆目にさらすなどは、少なくともメルセデスに乗る女性のたしなみではない。その点を除けば、この初代CLSはメルセデスの長い歴史の中でも傑出した作品である。
さて2代目となる今度のCLSはどうか。今回発表されたのは、新たに登場した「シューティングブレーク」というモデルで、いわばノッチバックではないワゴン車なのでルーフが後方に伸びカーゴルームを形作る。そのおかげでリアドアの開口部が若干縦方向に伸びたので出入りはかなり楽になった。
◆2代目が登場して改めて思い知る初代のデザイン性
それにしてもメルセデス・チームのデザイン力はこの2代目のCLSでも遺憾なく発揮され、クルマの回りをグルッと巡ってもメルセデスのCLSとしての一貫した印象が破綻しない。
ただ、初代の見事なシンプリシティはやや影を潜めて、意味不明のクリースがサイドに加わったり、Sクラスから継承したような、ホイールアーチを誇張するようなフェンダーの盛り上がりなどが付加されてしまった。
初代は前輪のホイールアーチから立ち上がって、テールエンドまで伸びる、シンプルな一本のアーチラインで引き締めていたが、今回のモデルチェンジでは、そのような付加物によって、確立されたCLSモデルとしてのインパクトはやや薄れた。一般に、一度完璧なものを作ってしまうと、そのあとのモデルチェンジは容易ではないが、今度のCLSもその例に漏れず、初代のモデルに対してスタイリングで一歩を譲る。
2005年に発表された初代のCLSが全世界で17万台も売れたという事実が、そのデザインが社会に良好で美的なインパクトを与えた事の証左だろう。2代目にして複数のボディバリエーションを持つに至ったCLSがどのように評価されるのか、興味深い。
白井順二|建築家/アーバンデザイナー
1938年生まれ、アメリカに30年居住、その間インドに1年、サウジアラビアに2年、大学で教鞭をとる。赤坂のアークヒルズ外構設計、シンガポール高島屋設計担当、大阪梅田北ヤードコンペ優勝、海外での環境問題の講演多数。クルマのメカニズムや運転が趣味で『カーグラフィック』誌などに寄稿多数。A級国内競技ライセンス所持。クルマでの北米大陸、インド、ヨーロッパ全域のドライブ数万キロ。