【中田徹の沸騰アジア】自動車市場大国の憂鬱…成長機会とリスク、連立方程式の解は

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日本国内のPM2.5速報値
日本国内のPM2.5速報値 全 3 枚 拡大写真

スケールメリットという果実は、甘いだけではないようだ。

11億を超える人口を抱える中国とインド。需要(潜在性を含む)の大きさを武器に、自動車市場は着々と拡大し、自動車産業は目覚しい発展を遂げている。そして成長は今後も続くと期待されている。しかし、自動車保有台数(その国の路上を走る車両の数)の増大に伴って石油燃料の安定供給などを巡る問題が顕在化。大きな成長機会と様々なリスクが複雑に絡み合う連立方程式を前に、これらの国は頭を悩ませている。

中国ではPM2.5や燃料問題が顕在化

中国の新車市場は2012年に2000万台弱に拡大。言い換えれば、中国大陸を走るクルマの数が1年間で約2000万台増加した、ということになる。そして2000万台を超え、3000万台に達するのも時間の問題とされている。しかし、世界1位の自動車市場という肩書きの裏側にある懸念が膨らみ続けている。

中国の中央政府は、車両保有台数が拡大を続ければ石油燃料の供給が逼迫するとの危機感から、自動車の電動化を進めたい考えである。既に電動二輪車の普及が進んでいるが、四輪車の場合、ハイブリッド車(HV)・プラグインハイブリッド(PHV)・電気自動車(EV)の販売規模はごく少量にとどまる。電動化に積極的な中国系メーカーには技術不足が指摘される一方、反日感情を背景にHV技術で先行する日本車の売れ行きが低迷しており、このことが電動化の機運が全体的に高まっていない理由のひとつかもしれない(また、欧米系などはダウンサイジングエンジンを主軸としている)。

そして、政府の思惑通り電動化が進まなければ、燃料問題に対する解決策は保有台数の抑制(=新車販売の抑制)、という具合になるのかもしれない。

大気汚染も深刻だ。世界的にみれば新しい問題ではないが、最近、北京などでは健康への影響が懸念される微小粒子状物質PM2.5が街を覆っており、大きな社会問題に発展している。直接的な原因は自動車の排気ガスと工場からの排煙だと言われ、現地自動車メーカーなどは弁明に追われている。また、クオリティの低い燃料の利用も課題となっている。健康被害がさらに拡大・深刻化し、中央や地方の政府が何らかの対策に動けば、自動車市場の失速につながる可能性がある。

インドでも燃料問題に危機感、電動化政策を導入

四輪車4000万台、二輪車1億台が走るインド。石油消費量の7割程度を輸入に依存している。

中国政府同様、エネルギー安全保障を重大な国内問題として認識し始めたインド政府は、安定的な燃料供給体制の確保に向けた対策のひとつとして、2013年1月に『電動モビリティミッションプラン2020』を正式発表。2020年のHV・PHV・EVの販売目標を600万~700万台(内訳:二輪車500万台程度、四輪車100万台以上)に設定した。1200億ルピーを超える車両購入補助金の給付や500億~600億ルピーのインフラ投資を進める考えだが、実際に電動車の普及が進むかは未知数である。

また、インド政府は、社会状況に合わせて燃料補助金を拠出しディーゼル燃料(軽油)などの価格安定を図っているが、車両保有台数の増加に伴う燃料消費量の増大などが燃料補助金(=インド政府による財政負担)を増大させている。しかし、補助金を削減すればインフレ(金利高)や自動車市場の低迷につながりかねないため、政府は経済政策と財政問題という難問の板ばさみ状態となっている。

電動化が解か?

自動車市場の育成(経済発展)、石油確保、財政負担の適正化、環境対策といった問題をどうバランスさせるのか。中国やインドといった自動車市場大国は複雑な連立方程式に直面している。石油燃料供給の問題に対するひとつの解が電動化となる可能性はある。しかし、HVやEVの普及には財政面での支援が不可欠であり、需要の大きさは未知数である。つまり、電動化に次ぐ第2、第3の処方箋が必要ということになるが、それが何なのか判然としていない。

スケールメリットという果実は、実に厄介な果実なのかもしれない。

《中田徹》

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