【ITS世界会議 13】GPS、グロナス、ガリレオ…衛星測位を使った通行料金徴収 各国の現状

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JAXA準天頂衛星システムプロジェクトチームの小暮聡主任開発員
JAXA準天頂衛星システムプロジェクトチームの小暮聡主任開発員 全 13 枚 拡大写真

ITS世界会議 10月17日のエグゼクティブセッションでは、欧州を中心に需要が高まる道路通行料金の徴収システムに、GNSS(Global Navigation Satellite System)を利用する各国の取り組みが紹介された。

GNSSとは、米GPS、露GLONASS(グロナス)、欧州Galileo(ガリレオ)、中Beidou(北斗)など全地球測位衛星システムのこと。日本のQZSS(みちびき)、インドIRNSSなどの地域測位衛星を含むこともある。セッションでは、JAXA準天頂衛星システムプロジェクトチームの小暮聡主任開発員をモデレーターに、オーストラリア、アメリカ、欧州全体、フランスの事情がそれぞれ紹介された。

◆広い国土に少ない人口での交通最適化…オーストラリア

オーストラリアは、国土面積は日本のおよそ200倍、人口はおよそ1/6と少ない人口で広大な国土を維持している。人口は都市部に集中し、航空機離発着を2030年までに倍増させる計画が持たれている。しかし交通政策で何も手を打たない場合、輸送手段は自動車へ偏りが起き、18年間で走行する車の4台に1台はトラックになるといった予測があるという。こうした自動車への集中を低減し、過積載などの不適切な使用を防ぐ輸送手段の適正化が必要になる。

登壇者のChris Koniditsiotis氏は、2005年に連邦政府が輸送適正化に向けて設立 した『Transport Certification Australia』機関のCEO。TCAは現在、IAPと呼ばれる試験的なプログラムを実施している。自動車輸送に対して衛星測位情報などを元に、コンディションの適切な経路を通って走行するデータを提供する。代わりに料金を徴収し、インフラ維持のために役立てる。そのための機器は欧州のものを導入して試験的に行っており、まだ始まったばかりの取り組みといえる。

◆“ポスト・ハイウェイトラスト”政策が急務の米国

アメリカからはYgomi LLCからT. Russell Shields氏が登壇。アメリカでは現在、ガソリン燃料にかけられた税金から"ハイウェイトラスト”に支払われる歳入で高速道路のインフラ整備が行われている。しかし、代替燃料や低燃費車の導入からこの税金を元にした歳入と道路維持費用とのバランスは崩れる傾向にあり、ハイウェイトラストの会計は2015年ごろから赤字になる予測があるという。

燃料税に依存しない新たな歳入のビジネスモデルが必要とされており、道路通行料金の徴収もそのひとつだ。オクラホマ州は2006年から2007年、2012年から2013年の2回、GPSを利用した地域での通行状況の把握と料金徴収の試験プログラムを実施している。第2回のパイロットプログラムは4カ月間実施され、88人の参加者は走行距離1マイル当たり1.56セントの通行料金を支払った。

これは1ガロン当たり19マイル走行する場合のガソリン税に相当し、参加者は同等のガソリン税支払い済み証明を受け取れる。走行距離は自動車に搭載したGPS機器やスマートフォンアプリで記録する。ただし、GPS機器を使用せずに、走行距離計のみで距離を算出する、距離の算出は行わず月額の定額料金を支払うオプションも用意された。その理由についてShields氏は「誰もがテクノロジーフリークなわけではないので」と説明する。

ガソリン税という消費者がなじんだ方法から、新しい機器を使ったビジネスモデルに移行するにあたって抵抗感を払拭するための準備が必要となるようだ。また、こうした積極的な取り組みはオクラホマ州など一部の州に留まっており、他の地域が続々と追随するという状況でもないようだ。

◆観光・安全視点の衛星測位システム整備で先陣切る欧州連合

もともと、全地球測位衛星網『Galileo(ガリレオ)』の目的として道路通行料金の徴収を挙げていた欧州は、この分野で最も先行し取り組んでいる地域だ。欧州GNSS機関(GSA)のFiammetta Diani氏は、GNSSを利用したビジネスの見通しについて解説した。

現在、ガリレオ測位衛星は4機が打ち上げられ、2014年第1四半期から測位信号の提供サービスがスタートする。26機までの衛星打ち上げはすでに衛星メーカーと確約しており、順次利用できる衛星の追加が行われる予定だ。ガリレオ衛星を利用して2015年からスタートする『eCall』サービスは、2億台の車両に自動車事故を検知するセンサーと衛星測位機器を搭載して、事故の際に自動的に緊急通報を行うしくみだ。運転者が自身では通報できない状態でも緊急通報が可能で、衛星測位情報を活用し緊急車両が迅速に現場に到達できるようにする。

欧州はこうしたユーザーに利益のあるサービスを提供して自動車への衛星測位機器搭載を進め、一方で通行料金徴収に向けた準備を行っている状況だ。2013年10月の時点で、フランスやドイツをはじめ6カ国がGNSSを利用した通行料金徴収の制度を整えつつあり、ほかにもハンガリーでは衛星測位機器の20パーセントが静止軌道からGNSSを補強する『EGNOS』衛星への対応を終えているという。

環境税の一環として、2014年に通行料金の徴収がスタートするフランスの事例を紹介したのは、フランス環境省でITSタスクフォースのメンバーRoger Pagny氏。

対象となる車両は3.5トン以上の大型の輸送車両だ。フランス全土1万5000キロの道路が環境税の対象となっており、3000程の有料通行区間に分割されている。車両に搭載されたOBU(オンボードユニット)は、測位衛星信号と携帯電話網からの位置情報を使って有料通行区間の通過情報を積算し、携帯電話網を通じてセンターに集約する。徴収される料金は欧州排出基準をもとに算定された金額となる。

現在のフランス国内でのトラック通行実績から考えると、年間12億ユーロの税収となり、うち15パーセントが徴収コストとなるため8億8000万ユーロの歳入が見込まれるという。対象となる車両は3/4にあたるおよそ60万台がフランス国内の輸送業者、1/4にあたるおよそ20万台がフランス国外の輸送業者のものと考えらえる。また、輸送業者は荷主への料金明細に環境税額を明記することが義務付けられる。この制度のスタート時点2014年では、ガリレオ衛星網は初期サービスの段階にあるため、衛星網が完成しているGPS、グロナス、EGNOSを利用する。

2015年にはeCallなどの緊急サービスがスタート、2018年にはガリレオ衛星網の完成と全サービスの提供開始という段階を踏み、通行料金徴収制度も足並みをそろえていくという。

税収額の試算はあるものの、歳入の確保がこの制度の目的ではない。むしろ自動車通行量を適正化して排出物を削減し、ゆるやかに鉄道などへの輸送手段の転換、"モーダルシフト"を促していくことが目的だという。Pagny氏は「道路はあまりにも使いやすく、アクセスしやすい手段であるため、掛け声だけで簡単にモーダルシフトは起きない」と説明している。

◆欧州の自動車ビジネス参入にはGNSS対応が必須に

ITS世界会議展示会場では、古野電気がGPS、グロナス、SBAS、QZSS(みちびき)に対応したGNSS受信チップ、ユニットを展示。ガリレオにもソフトウェアアップデートで対応できるようになっている。

欧州では、衛星測位を取り入れた通行料金徴収制度などのために複数の測位衛星(GNSS)に対応した受信機への対応が進みつつある。eCallのサービスにはシーメンスなどがパートナーとして参加しており、欧州産業の利益につなげるねらいもある。日本からは輸出車への登載などの面から、GNSS市場への対応を迫られることになるかもしれない。

《秋山 文野》

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