初めてそのキャビンに乗り込んだ人は、誰しもがまず「大型ディスプレイだけになったメーターパネル」に驚かされるであろう新しい『Sクラス』。
『S550 ロング』で走り始めて次に驚かされたのは、パーキングスピードでステアリングが”すこぶる軽く”、そしてそのギア比が”極めて早い”ことだった。それゆえに、感覚的な取り回し性が妙に優れている。「大柄なのに扱い易い」のは、まずは大きなセールスポイントだ。
アクセルペダルを踏み込むと、”ほとんど無音”という感覚のままに速度がグングンと高まる。2トン超という重さを忘れさせるこの「軽やかさ」も、このモデルの魅惑のポイントだ。普通ならば速度に比例して高まる風切り音も、一切気にならない。
一方で、”死角”もある。その最たるものは、日本仕様には無理矢理履かされた(?)ランフラット・タイヤがもたらす影響だ。そんなタイヤとの付き合いが長きに及ぶBMW車には、ハンディキャップをほとんど克服したと実感するものも見受けられる。が、昨今装着車が目立ち始めたメルセデスでは、端的に言ってそのいずれもが「まだ履きこなせていない」と感じさせられるものばかりだ。
それはSクラスとて例外でない。時に「脚は良く動いているのに吸収しきれないショック」を意識させられるし、フロア振動が即座に収まらないというメルセデス車らしからぬ感覚も認められる。
もう一点、”らしからぬ”という点では、ナビの案内音声にやや人工的なイントネーションが混じるのも気になった。確かに凄い!が、だからといってまだパーフェクトとは言えない…フラッグシップだからこそ、そう評価したくなるSクラスだ。
●パッケージング:★★★
●インテリア/居住性:★★★★
●パワーソース:★★★★
●フットワーク:★★★
●オススメ度:★★★★
河村康彦|モータージャーナリスト
自動車専門誌編集部員を経て、1985年よりフリーランス活動を開始。現所有車はポルシェ『ケイマンS』、スマート『フォーツー』、そしてVW『ルポGTI』(ただしドイツ置き去り)。