グローバル化に成功した自動車業界…成長要因と今後の課題

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早稲田大学理工学術院教授 工学博士 大野高裕氏
早稲田大学理工学術院教授 工学博士 大野高裕氏 全 10 枚 拡大写真

アクセンチュアは3月12日、日本企業のグローバル化ランキングを発表、上位10社中3社を自動車メーカーが占め、部品メーカーも合わせると約半数が自動車関連企業が名を連ねた。自動車メーカーがグローバル化に成功しているのはなぜか。他産業と比較しながらその要因を探りたい。

ランキングの指標化と算出を担当した早稲田大学理工学部経営システム工学科の大野高裕教授が「グローバル化が最も進んでいるのは自動車業界である」と説明するように、自動車産業の世界進出は他産業に比べても顕著だ。

海外での売上高でみても、調査対象となった産業の中で最も大きく、平均して2兆4410億円。大野教授によれば、他産業に比して大きな海外投資が見られるという。固定資産の海外比率も、平均して34.5%に登り、どの産業よりも高いという。また海外投資のうち96%超が“新規市場、新規分野”へ行われているという。

ヤマハ発動機「金のネックレス キャンペーン」に学ぶ 現地消費文化への気づき

では、日本の自動車・部品メーカーがグローバル化のパイオニアとなれたのはなぜか。

「海外固定資産のような一朝一夕であがるものではない指標においても高い数値をうちだしていることからもわかるように、他産業よりも早い段階からグローバル化してきた」という時期的な差がまず指摘された(アクセンチュアマネジングディレクター石川雅崇氏)。このような早い段階からのグローバル化が、海外市場での豊富な経営知見に繋がったのだという。

その知見の具体例として、自動車部門で5位にランクインしたヤマハ発動機の戦略が挙げられた。

ヤマハ発動機は新興市場にて製品開発を行う際、「市場ごとの成長トレンドと新興市場の消費者からのニーズに基づく製品ローカライズができている」(大野氏)。たとえばインドではコストに敏感な大衆向け市場をターゲットとし、2013年にインドにR&Dハブを開設。そこで現地市場向けに500ドルのローコストオートバイ開発を計画している。同計画では中国、アフリカへの投入も視野にあるという。

また、海外投入する際に 現地の“消費文化”にあわせている点も学ぶべき点として指摘された。例えばタイでのマーケティング事例。Finoバイク購入者に金のネックレスをプレゼントするキャンペーンを実施し、結果Finoの販売台数は49万台に。この台数は過去10年を通じて最高記録となった。

その他にもトヨタ自動車が2013年11月に中国市場において予想されるトレンド(排ガス規制の強化、持続可能性への関心の高まり)に合わせた製品開発のため中国に新しいR&D施設を開設した例も挙げられた。

1位日産の成功要因は? 「成長市場での価格優位性を確保すること」

また、アクセンチュアマネジングディレクター石川雅崇氏は、ランキング上位企業の成功要因を4つに整理した上で、その具体例として自動車メーカーの取組みを説明した。

石川氏によると、4つの成功要因とは
1. イノベーション能力のグローバル化
2. 顧客リーチを高めること
3. 事業のポートフォリオ化
4. 全体最適による効率化
に整理されるという。

1.のイノベーション能力のグローバル化の例には本田技研工業が挙げられた。

同社が「製品開発拠点を新興国に設け、現地市場のニーズに合った新規モデルの迅速な開発・生産を実施している。」ことを指摘。2013年にオープンしたインドのテクノロジーセンター、中国のテクノロジーハブ、ブラジルの研究センターなどに見られるような研究開発のグローバル化によって、現地市場導入までの時間短縮を達成しているという。

また、4.の全体最適による効率化については1位に輝いた日産自動車の戦略が取り上げられた。

「日産はインドにおいてダットサンを生産したり、中国においてリーフを地域ブランドで展開することを発表したりなど、成長市場で現地市場のニーズにあった競争力のある製品を提供している」(石川氏)。インドのダットサンでは、100以上の現地サプライヤーから部品を調達するような取組みを推進している。このような取組みが日産の大きな成功要因だという。

◆さらなるグローバル化に直面する自動車業界の課題

このように、いち早くグローバル化への対応に成功した自動車業界だが、今後は必ずしも楽観視できない、と大野氏教授は警鐘を鳴らす。

韓国など新興グローバル企業や各国の強力な生産者(Chery、Tata Motors、Bajaj Auto)などの新たな競争に直面し、消費者の好みの変化、付加価値機能、安全性、持続可能性をより重視しなければならないようになるという点や、コストに敏感な新興市場の消費者からの需要も増大するため、コスト押し下げの圧力に対応することが急務となるといった点を大野教授は指摘。

ASEANや中東ではかなりのシェアを得ている日本企業だが、その他の地域では欧米や韓国メーカーの先行を許している新興市場もあり、今後はいかに巻き返しを図っていくかが課題になりそうだ。

《北原 梨津子》

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