JAXA、「ひさき」による観測で高温の電子が木星側に流れている証拠を確認

宇宙 科学
「ひさき」が観測したイオプラズマトーラスの極端紫外スペクトル(出典:JAXA)
「ひさき」が観測したイオプラズマトーラスの極端紫外スペクトル(出典:JAXA) 全 2 枚 拡大写真

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、木星の強力な磁場に取り囲まれた領域で、高温の電子が木星側に向かって流れているという証拠を「ひさき」の観測によって世界で初めて捉えた。

木星は地球の1000倍以上の強い磁場を持ち、磁力線は木星周辺の宇宙空間を満たし、木星磁気圏を形作っている。木星磁気圏は、太陽系における最大の粒子加速器として知られており、木星本体に近い内部磁気圏には、放射線帯と呼ばれる高エネルギー電子が詰まった領域がある。しかし、この領域での電子加速のメカニズムは統一的に理解されておらず、太陽系プラズマ物理における論争が続いていた。

「ひさき」による観測では、内部磁気圏に存在する「イオプラズマトーラス」をスクリーンとして利用した。木星の衛星のひとつであるイオは、木星の中心から約6木星半径だけ離れた軌道上を周回している。イオには活火山があり、ガスを宇宙空間に放出している。火山ガス、は宇宙空間でイオン化して木星の磁場に捉えられ、イオの軌道に沿ってドーナツ状に分布する。このトーラスを構成するイオン(硫黄、酸素)は、周囲の高温電子との衝突励起によって複数の輝線で発光する。逆に、これらの輝線の様子を調べることで、励起源である高温電子の温度や密度を知ることができる。

この解析手法はスペクトル診断と呼ばれ、遠隔観測から大局的な電子温度や密度を導出する画期的な方法となる。

イオプラズマトーラスが発する輝線の大部分は、極端紫外(EUV)と呼ばれる波長領域にある。9月14日にイプシロンロケット試験機によって打ち上げられた「ひさき」には、EUV波長域の観測に関して、高波長・空間分解能、高検出効率を実現、惑星専用の宇宙望遠鏡として継続的に惑星観測を続けられる。観測の結果、イオプラズマトーラスに関して、これまでにない高精度なスペクトル診断が可能になった。

今回の研究では、2013年11月に、「ひさき」が取得した木星磁気圏のEUVデータに対してスペクトル診断を適用した。その結果、イオプラズマトーラスには、外部磁気圏起源の高温電子が数%の割合で存在することが明らかになった。

さらに、その空間分布から磁気圏の外側から内側に向けて高効率な電子の輸送が起きていることも突き止めた。これは、木星放射線帯の形成・維持に必要な高温電子輸送の証拠を世界で初めて捉えた、ということ。

今回の観測はイオプラズマトーラスをスクリーンとして活用して得た結果から、JAXAでは、イオプラズマトーラスがあるからこそ高効率の輸送が駆動され、そのことが木星を太陽系最強の粒子加速器たらしめているのではないかと考えられる。

《レスポンス編集部》

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