【土井正己のMove the World】2015年、「地方から世界へ」の元年に

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広島から世界へ マツダ ロードスター
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2015年1月、新たな1年が始まった。新聞を見ると「戦後70年」というのが最も大きなイベントのようだ。日本の経済もこの70年で大きく変化していった。

1960~70年代の高度成長期から、85年の「プラザ合意」による円高時代到来とグローバル化進展、90年代のバブル崩壊、2011年の「東日本大震災」。そして、現在は、「失われた20年の挽回」、また「デフレからの脱却」を狙いとして、安倍政権が大胆な経済対策を打ちつつある。いろいろとあったが、総じていえば、日本はこの70年、世界の平和・安定のお蔭で成長と豊かさを享受してきたと言える。

◆戦後70年を振り返る…電機は一時後退、自動車はトップ維持

産業別に見ると、日本の独断場であった家電産業や半導体産業などにおいては、近年、韓国、台湾、中国にその座を譲ることになった。しかし、まだ勝負があったというわけではなく、「後発者のメリット」を新興国が得ただけであり、これらの国ではこれから人件費が上がり、為替も切り上がってくる。競争条件がイコールになったところで、発想次第で逆転のチャンスはまだまだある。日本は、サーボモーターやセンサーの技術など、要素技術では世界トップクラスのものが豊富にあるので、勝負はこれからだろう。

一方、日本の自動車は、戦後70年で世界のトップとなり、その地位は他に譲ってはいない。日本の全自動車メーカーの世界販売シェアは約30%と世界トップの座を維持している。この理由としては、自動車はITとは違って「モジュール化」や「オープン化」が難しいというのが定説だが、私は、それだけではないと思う。自動車は、イノベーション競争に勝ってきたことに大きな意味がある。

例えば、1970年に自動車の環境基準を定めた「マスキー法」(提唱者である米国上院議員の名前)が導入されると米国の競合を差し置いて、基準達成を宣言したのは、ホンダの「CVCCエンジン」であった。その後、2回のオイルショックを経て、燃費・環境性能に優れた日本車が世界のメインストリームに踊り出た。1997年には、トヨタが世界初の量産ハイブリッドカーを発売、さらに量産電気自動車として2006年に三菱が『i-MiEV』、2009年に日産が『リーフ』を発売、そして、昨年、トヨタが量産ベースで世界初となる燃料電池車を発売した。日本のイノベーション技術は、確実に世界の自動車産業を牽引していると言える。

◆2015年は「地方からイノベーションを引き起こす年」

では、2015年はどういう年になるのだろうか。一言でいうと、「地方から、中小企業がボトムアップでイノベーションを引き起こす年」となって欲しい。

年末年始の経済紙面やTV番組で、よく出てきた言葉が、「トリクル・ダウン」(富の流れ落ち)だ。「アベノミクス」が、大企業にばかり恩恵があり、中小企業には及んでいないことから、「政府はトリクル・ダウンを加速しなければならない」という論である。しかし、この議論はいかがなものか。

政府の役割というのは、企業の競争条件を他国とイコールにすることだ。為替の「超円高」、国際水準より大幅に高い「法人税」や「電気料金」など、これらを国際水準並みにして、日本企業の競争力にハンデを課さないというのが政府の役割であろう。

◆「トリクル・ダウン」は待つのでなく取りに行くもの

「アベノミクス」により、「超円高」が是正され、輸出企業が息を吹き返した。イコール条件であれば、世界トップの競争力を持つ自動車産業は、記録的収益を挙げることができた。中小企業は、国内取引が中心であれば、もともと「超円高」の困難もなかったわけなので、「円安の恩恵」もない。(円安だと輸入物価が上昇するが、原油価格が下落しているので相殺されている面が多い。)

つまり、中小企業は「トリクル・ダウン」を待つのではなく、こちらから取りに行く発想力と活力が必要である。今こそ、品質や技術面での新たなイノベーションを大企業に提案し、実行につなげる時期である。大企業は、内部留保を十分蓄えてきているので、投資先を求めている。将来に繋がる、先見性に満ちたアイデアであれば、大企業は飛びつくであろう。

「地方創生」というのも同じである。中央の経済成長の「トリクル・ダウン」(おこぼれ)を地方が待っているということではこれまでと何も変わらない。地方が、イノベーションを提案し、それを中央(政府や大企業)が後押しすればいい。また、そのイノベーションの提案先は、世界であって欲しい。

日本は少子高齢化が進み、これ以上の消費を大きく期待するのは無理である。一方、世界には、日本の技術を欲しているマーケットが散在している。特に、アジアの環境問題は、これから世界規模で大きな社会課題となり、日本の技術が必要とされている分野である。また、日本酒や和食器、さらには日本的伝統工芸なども、これからビジネスチャンスは世界に広がるだろう。「地方から世界標準を見定めて、グローバルに打ち出す」ことが、地方経済に必要とされているイノベーションだ。

◆求む “グローバル感を持ってマネジメントができる人材”

問題は、これらを実現するマネジメント人材が不足していることだ。私は山形大学で、そういう人材育成の一旦を担っているが、これは長期施策である。短期施策としては、商社や大企業のOBなど、世界で活躍してきた人材に「地方のグローバル化」をお手伝い頂ければありがたい。政府や大企業がそういうグローバル・シニア人材の流動化をサポートしてはどうだろうか。2015年は、日本の各地からイノベーションが起こり、世界に打って出る「地方から世界へ」元年となることを心から期待したい。

<土井正己 プロフィール>
クレアブ・ギャビン・アンダーソン副社長。2013年末まで、トヨタ自動車に31年間勤務。主に広報分野、グローバル・マーケティング(宣伝)分野、海外 営業分野で活躍。2000年から2004年までチェコのプラハに駐在。帰国後、グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2010年の トヨタのグローバル品質問題や2011年の震災対応などいくつもの危機を対応。2014年より、グローバル・コミュニケーションを専門とする国際コンサル ティング・ファームであるクレアブ・ギャビン・アンダーソンで、政府や企業のコンサルタント業務に従事。山形大学工学部 客員教授。

《土井 正己》

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