【フォード マスタング 試乗】欧州車のように洗練されたスタイルと走り…石井昌道
試乗記
輸入車

あれから50年の時を経て6代目となったマスタングは、アメリカを代表するスペシャリティカー、スポーティカーであることに変わりはないが、従来は北米に置いていた軸足を世界に向けることになった。欧州に中国、ロシアなどビッグマーケットを含む120カ国で展開。その戦略にも沿ったからだろう、心臓部にV8やV6だけではなく、直列4気筒2.3リットル直噴ターボの「エコブースト」エンジンが採用されるのもトピックだ。
グローバル化に舵を切ったことはスタイリングにも表れている。ライバルのシボレー『カマロ』は、水平にドーンと伸びるルーフや、全体的にカクカクとしたマッチョ系デザインがいかにもアメリカ人好みだが、マスタングは欧州のクーペを思わせるような流麗なフォルムを身に纏っている。
ロングノーズ・ショートデッキという伝統は守り、フロントマスクは明らかにマスタングだが、鼻につくような癖はない。世界中の誰がみても美しいと感じるデザインなのだ。
コクピットに収まってみると、自然なドライビング・ポジションをとることができ、シートのフィット感も良好。クーペとしては開けた視界が確保されていることに感心させられたが、これはそもそもフォードが人間中心の考え方を持っているからだ。
試乗車は直4のエコブースト。新たに採用されたパワースタートボタンを押して始動してみると、V6やV8とは明らかに音色が違うものの、思いのほか低音が効いている。直4と聞いてやや高めの薄っぺらい音になるんじゃないかと心配していたが、それはまったくの杞憂だった。
エコブーストだからトルクは十二分。従来のV6を大きく凌ぎ、低回転域ならばV8にも肩を並べるぐらいだ。だから、発進時から力強く加速していくのだが、面白いのは高回転まで引っ張っても楽しめることだった。
直噴ターボは低回転・大トルクを重視する傾向にあり、相対的に高回転域の活発さが失われることもあるが、エコブーストは絶妙なバランスを持っていて、頼もしさと回す楽しみが同居している。スポーティなマスタングにはピッタリの特性だ。新たに装備されたパドルシフトを積極的に使いたくなる。
また、そういった際のエンジンのサウンドやフィーリングはユニーク。回り方はスムーズなのだが、ブロロッというビート感もあり、アメリカンな雰囲気が入り交じる。アクティブ・ノイズ・コントロールによって強調されているのだろうが、従来のファンに寄せたチューニングになっている。
リアサスペンションはリジットから、このクラスのグローバルスタンダードと言っていいマルチリンクへと変更されことで、シャシーも大いに洗練された。アメリカ車らしいユッタリとした乗り心地は残っているが、路面が荒れたところでの突き上げやバタツキが少なく、スッキリとしている。
コーナーへ向けてステアリングを切り込んでいくと、間髪いれずにノーズが反応。フロント・サスペンションにダブルボールジョイントが採用されたことでレスポンスがいいことにくわえ、リアのスタビリティが上がったことでシャープさを増すことも可能になったのだろう。高速クルージングでみせるユッタリ感から一変して、軽快なFRスポーツになるのだ。
リアの限界もグッと高まっているが、アクセルを強く踏んでいくとそれなりにパワフルなだけにテールをジリジリと振り出していく。アドバンストラック(ESC、ABS、TSCを統合制御)が装備されているので姿勢は制御されるが、ウェットなど路面状況が悪いと、「Normal」「Sport+」「Sport」「Snow/Wet」と用意されるセレクタブル・ドライブ・スイッチを「Normal」にしておいても意外や介入は遅いのでヒヤリとすることもある。ハイパワーFRの醍醐味を味わわせるべく自由度を持たせているということだが、雨が降ったら素直に「Snow/Wet」にするのがオススメだ。
今回試乗したのは、いま日本で手に入れることができる唯一の新型マスタングの50周年記念限定車。アドバンストラックのセッティングが攻め気味で、シャシーチューニングもスペシャルだ。今年後半に導入されるスタンダード・モデルは味付けが少し違うことだろう。だが、グローバル化に向けて洗練されているのは間違いない。アメリカ車らしいユッタリとした雰囲気と、欧州的なスポーティさが程よくブレンドされているのだ。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★
石井昌道|モータージャーナリスト
自動車専門誌の編集部員を経てモータージャーナリストへ。国産車、輸入車、それぞれをメインとする雑誌の編集に携わってきたため知識は幅広く、現在もジャンルを問わない執筆活動を展開。また、ワンメイク・レース等への参戦も豊富。ドライビング・テクニックとともに、クルマの楽しさを学んできた。最近ではメディアの仕事のかたわら、エコドライブの研究、および一般ドライバーへ広く普及させるため精力的に活動中。
《石井昌道》
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