「プロトタイプはUXの疑似体験」…社内オープンイノベーションは「砂場」で生まれる

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博報堂ブランド・イノベーションデザイン局ストラテジックプラニングディレクター岩嵜博論氏
博報堂ブランド・イノベーションデザイン局ストラテジックプラニングディレクター岩嵜博論氏 全 4 枚 拡大写真

4月22日、博報堂にてマーケティング・イノベーター研究会が開催された。研究会テーマは「新しい発想を生み出すためのイノベーティブマネージメント 創造的編集と場づくりのノウハウを探る」。

同研究会のセッション2「場」では博報堂ブランド・イノベーションデザイン局ストラテジックプラニングディレクター岩嵜博論氏が登壇。「プロトタイプスペースを活用した社内オープンイノベーションの実践」をテーマに講演を行った。

◆イリノイ工科大学での気づき 「プロトタイプはUXの疑似体験」

博報堂社内に、プロトタイプスペースを作っているという岩嵜氏。その経緯と背景について、次のように説明する。

研修出向制度をつかって2010年から11年に米イリノイ工科大学へ通ったという岩嵜氏は、その印象について「デザイン思考を体系的に教えているデザインスクールで、ストラテジックデザインというものに注力したところだった」と語る。そこではプロトタイピングが重視されながらデザインが進められ、製品のみならず、経験や体験のプロトタイピングを通じて、いまではUXという言葉で理解されているような体験を疑似的に再現していたのだという。

「エンドオブイヤー賞といって、学年の一番最後にそれぞれがつくったものを発表する機会があるのですが、そこではスチレンボードでつくったものが発表されます。(写真を指しながら)これは乗車体験をシュミレートするもの。そこで発表される成果はファイナルプロダクトではなく、ある種のハリボテのようなものでした。また、ショッピング体験を学校の中で再現したりもしました。一見お遊びにみえるものですが、UXという言葉で知られるようなった体験というものを疑似的に再現するための役割を果たしているとおもいます。」(岩嵜氏)

◆“Low Fidelity, Early Failure.”を取り込みたい

また同大学では「Low Fidelity, Early Failure.(低い精度でつくって、早い段階で失敗(学習)する)」ように何度もいわれたのだという。

「低精度で早くつくって改善ポイントを見つけ、そこから学習することがいわれたが、よく考えると多くの日本の大企業でされていることは全く逆で、時間をかけて精度をキッチリ作り込んで、そしてドンと市場に出したときにうまくいけば問題がないですが、時としてそれが大きな失敗となっていることもあると思います。(スライドでは「High Fidelity, Late Failure.」(時間をかけて精度を上げて、結果失敗する)と表す)」

そこで、日本に帰って来て社内のプロトタイプスペースを通じてLow Fidelity, Early Failure.をワークスタイルとして取り込みたいと思ったのだ、と説明した。

◆イノベーションを生むオフィスの4要件

岩嵜氏は続いて「企業の中でイノベーションを起こすための場の要件」について説明。プロトタイプの場を設けることは新しいものに目を向けたり新しいものをつくることと関連するそうだ。

百年前の日本のオフィスの写真を見せながら、日本のいわゆるホワイトカラーの仕事場はずっと変わっていないことを示す。「百年前のこの写真とわれわれが普段いるオフィスは機能的にはなにも変わらない。机が列のようにならんでいてみんなが同じ方向をむいてこじんまりと仕事をしている。こういったオフィスは事務処理の効率をあげるためのオフィス。しかし新しいものをつくったり見つけるにはこれとは違った“間の文法”が必要なのではないか」。

米国のデザインスクールに通っていた際、現地のイノベーションコンサルでインターンをしていた岩嵜氏は、その社屋で一番日の当たりがよくていいところがキッチンだったことを話す。「みんなが集まって昼ご飯を食べて、なんとなく、たまたま出会った人がたまたま話をするきっかけがうまくアレンジされていました」(岩嵜氏)

そして、社内オープンイノベーションを生むための要件を次のように列挙した。

1. オープン(空間が外部に開いていること、アクセス性が高いこと)
2. フレキシブル(組織や機能から自由であること)
3. インフォーマル(フォーマルな組織から離れ、偶発的な対話を生み出す仕組みがうめこまれていること)
4. プロトタイプ(思いついたことをカタチにできる環境)

上記4要件のうち2.のフレキシブルについて話す際にはロッキードマーチンによる航空機製造のエピソードが挙げられた。

「スカンクワークス(革新的な製品・技術などを開発するために既存の研究組織とは別に設置される独立型研究開発チーム)によるステルス戦闘機の開発は、既存の組織に収まらないチームが成果をあげた代表的な事例といえる」。

また、3.インフォーマルについては博報堂社内でも実際に、別々のチームに所属している人同士が偶発的に出会ってイノベーションをおこした例があったことを挙げた。

また、岩嵜氏は昨年スペインバルセロナで開催されたファブラボ国際会議で見聞きしたことをもとにしながら、現在海外の“大企業”がこういった取り組みを受け入れ始めている動きについても紹介した。

「従来のやり方と違うプロトタイプ的なものづくりの導入が進んでいる。例えばエアバス社は、社内に、エアバスプロトスペースをもうけて、既存の重厚な研究開発をしつつも、もっとライトでカジュアルな発想をすぐ形にできるようなプロセスを開発している。フランスのルノーにもこういうスペースがあると聞きました、さらに社内のこういったプロトタイプスペースでの情報も積極的に公開している」

◆砂場で行われているプロトタイプ的なものづくり

最後に岩嵜氏は“既存のオフィス空間にはない文法をもったスペース”を“砂場”と例えて表現。こういった既存のオフィス空間にはない文法をもったスペースがイノベーティブな人材を集め、そこで緩いつながりの中で偶発的な出逢いのもと新しいものごとが生まれるとまとめた。

「砂場はオープンだし、フレキシブルだし、別にどこに所属している人しかこの砂場を使えないというわけではない。ここで遊んでいる子どもたちはもくもくと一人で遊ぶときもあれば、なんとなく隣にいる子どもとおもちゃを貸しあったりする偶発的な出逢いが生まれるかもしれない。砂場で行われていることというのはまさにプロトタイプ的なものづくりだといえる」(岩嵜氏)。

《北原 梨津子》

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