【ルマン24時間 2015】日本勢苦闘、底力を見せつけた耐久王ポルシェ

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総合の表彰台はドイツ勢が独占。ポルシェ1-2、アウディが3位だった。
総合の表彰台はドイツ勢が独占。ポルシェ1-2、アウディが3位だった。 全 16 枚 拡大写真

13~14日に決勝が行なわれた第83回ルマン24時間耐久レース。総合優勝争いはポルシェとアウディによって展開され、ポルシェが17回目の勝利を1-2で飾った。苦闘した日本勢、トヨタと日産にとっては、耐久王の底力を見せつけられたレースでもあった。

LMP1初陣の日産はテスト参戦の域…完走認定ならず

現在のルマン24時間は、2012年から再生された世界耐久選手権=WECの一戦(今季第3戦)だが、ルマンはルマンであり、1923年に始まった伝統の耐久レースの価値は世界選手権タイトルにも勝る。WECの最高峰クラスで、ルマン総合優勝を争うLMP1クラスが近年、本格的にハイブリッドも取り込んだ技術規定(車両規定)へと移行してくるなか、日独の自動車メーカーが続々とワークス参戦に踏み切り、今年はアウディ、ポルシェ、トヨタ、日産の4社が勢揃い。1990年代後半以来のメーカー戦争活況期が到来している。

しかし、1999年以来のワークス復帰で“LMP1ルーキー”の日産は、このルマンが「GT-R LM NISMO」の実戦デビューの場になってしまい、主に空力的自由度を狙ってのFF化という異例のコンセプトで生み出されたマシンは真価発揮にほど遠い状態。来年以降へのデータ取りのためのテスト参戦というのが実情で、ラップタイム的にはLMP1上位勢から約20秒遅かった(ポールタイムは#18 ポルシェの3分16秒887、日産勢の予選ベストは#22の3分36秒995)。

決勝でもタイム的な状況は予選と大きくは変わらず、日産勢はトラブルに次々見舞われる。3台中1台(#22)が最後まで走るも、完走規定を満たすことはできず「順位なし」の扱いだった。優勝した#19 ポルシェの395周に対して153周マイナスの242周、これは真価発揮にほど遠い状態というより、これが真価だったら困る、というのが日産ファンの正直な心境だと思うが、さて来年以降に向けてどう取り組むか。場合によっては、やはり他陣営同様のミッドシップ化を考える必要も出てくるかもしれない。

◆前年WEC王者が大苦戦…ドイツ勢に追い越されたトヨタ

トヨタにとっても厳しいルマンだった。昨年WECの王座を獲得し、1年前のルマンでも初の総合優勝が濃厚な流れのなか、トラブルで大魚を逸していただけに、今季はまさに大願成就が期待された。しかしWECの序盤2戦でアウディとポルシェに対する今季の苦戦状況が明確なものとなり、ルマンでもそれを覆すことは叶わなかった(最終結果は#2が総合6位、#1が同8位)。

LMP1の技術規定が大きく変わった昨年、そこで高いマシンパフォーマンスをいち早く確立できたのがトヨタだった。それに対し、アウディとポルシェは時間こそかかったものの、今季はしっかり仕上げてきた、というのが今の状況だろう。トヨタも進化はしているが、初期到達度の高さが裏目に出たというべきか、大きく追い越されてしまった。

トヨタの現行車「TS040 ハイブリッド」にどれくらいの伸びしろが残っているかも、昨季の成功があるだけに微妙な問題。現在のLMP1の技術規定は多岐多様で、「ハイブリッド」とひとくちに言っても各車でその内容は大きく異なるが、やはり来季以降に向けては抜本的な対策、何か技術的に別の道を採るような判断も求められるかもしれない。

いずれにしても、のちのち「2014年がルマン制覇の最大のチャンスだった」と振り返るようなことにはならないためにも、トヨタには捲土重来を期待したい。他陣営同様、ルマンでは3台に体制を拡大することも必須なのではないだろうか。

◆ポルシェ、復帰2年目にしてアウディとの名門対決を制す

今年のルマン決勝は昨年のように天候に大きく左右されることもなく、比較的アクシデント率も低い展開に終始したが、そのなかでポルシェとアウディの先陣争いはポルシェ優勢のまま推移していった。

昨年からLMP1にワークス参戦してきたポルシェは、速さを見せつつも安定感ではアウディ(や昨年のトヨタ)に及ばない、という戦いを続けてきていたが、それでも昨季のうちにWECで1勝、2年目のルマンにピタリ照準を合わせた格好で、レースウイークをほぼ完全支配しての勝利だった。優勝した#19 ポルシェがほとんどノートラブルだったのに対し、アウディ勢にはスピードの余裕がポルシェほどない分、中小のトラブルやペナルティが嵩み、追いすがることができなかった(アウディは最終的に総合3-4-7位。ポルシェが同1-2-5位)。

ポルシェのルマン総合優勝は1998年以来で、通算17回目。歴代最多の数字だが、彼らがルマンのトップクラスへのワークス参戦をしていない間に、アウディが初優勝の2000年から昨年までの15回で13勝という超ハイペースで急追している状況下、牙城を守るためもあって昨年からポルシェは戻ってきた。そして2年目できっちり答えを出して4勝差に突き放したあたりが、耐久王の異名を取る所以である。技術規定が変わっても、ルマンというレースの本質自体はおそらく不変。長く最前線から遠ざかっていても、ルマンを知り尽くした伝統がポルシェのなかで確実に引き継がれているからこその芸当だろう。

当面WECの他レースはさておき、「ルマンに絞って」仕上げてきたようなしたたかさ、あるいは潔さもポルシェには感じられるところだ。アウディも今季は大幅に戦闘力を上げているが、“ルマン適性”の部分でポルシェに負けたように思われる。ルマンほど直線の比率が高くない他のコースに行けば、おそらくはアウディが互角以上の戦闘力を発揮するはずで、今季のWEC王座争いという意味では開幕2連勝のアウディが今後も有利かもしれない(もちろん、今後ポルシェが他コースへの適性を上げてくれば話は別だが)。

◆2016年のルマンはさらに厳しい戦いに

1970年の総合初優勝から29年間で16勝したポルシェと、前記したように2000年の初優勝から15年間で13勝した新旧の王者が直接的に優勝を争い、ポルシェが17年ぶりの17勝目を挙げた今年のルマン。高速化(=走破周回数増加)の傾向も顕著で、来季以降の戦いはさらに厳しくなるものと予想される。そのなかでドイツ両雄の覇権争いがどう推移していくか、そしてトヨタと日産がどう存在感を示し、悲願の総合初優勝をどう目指していくのか。

日本メーカーの総合優勝は過去にマツダが1回(1991年)達成しているのみ。一方のドイツ勢はポルシェとアウディだけで30勝、他にもメルセデスやBMWに総合優勝経験がある。直近20年でドイツ勢は18勝もしているが、当面は日独対決の構図が続きそうなだけに、トヨタと日産にはドイツ勢勝利寡占状態を打破する活躍を演じてもらいたいものだ。

《遠藤俊幸》

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