大河原邦男インタビュー…『機動戦士ガンダム』が36年愛される理由

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7月18日から東京・六本木の森アーツセンターギャラリーで「機動戦士ガンダム展 THE ART OF GUNDAM」 が始まった。1979年にテレビ放送が始まった『機動戦士ガンダム』の魅力を制作資料を中心に振り返るものだ。9月27日まで続く展覧会では、富野由悠季総監督、美術の中村光毅氏、キャラクターデザインの安彦良和氏らスタッフによる1000点にも及ぶ資料が展示されている。
メカニックデザイナーの大河原邦男氏の仕事もその大きな部分を占めている。大河原氏が生み出した数々のモビルスーツは、ガンダムの世界観を作り上げる重要なパーツだ。会場では多くのメカニックのデザイン画を見ることが出来る。
一方、東京・上野の森美術館では、8月8日から9月27日まで「メカニックデザイナー 大河原邦男展」が開催される。こちらは1972年の『科学忍者隊ガッチャマン』以来、40余年にわたる大河原邦男氏のメカニックデザイナーの仕事を一望するものだ。
日本のメカニックデザイナーの先駆者、そしてガンダムという金字塔をデザインした大河原邦男氏に、ガンダム、そしてアニメのメカニックデザインについてお話を伺った。
[取材・構成=数土直志]

□ 「機動戦士ガンダム展 THE ART OF GUNDAM」
2015年7月18日(土)-9月27日(日) 森アーツセンターギャラリー
□ 「メカニックデザイナー 大河原邦男展」
2015年8月8日(土)-9月27日(日) 上野の森美術館

■ 『機動戦士ガンダム』誕生の頃 

―― 7月18日から東京・六本木の森アーツセンターギャラリーでガンダム展が始まりました。大河原邦男さんは、ガンダムのメカニックデザインで大きな役割を果たされました。最初に今年で36年目を迎えたガンダムが、なぜこんなに愛され続けているのかを伺わせてください。

大河原邦男氏(以下、大河原)
作品の世界観と、やはりロボットの魅力もあります。皆さんロボットに対する憧れがものすごく強いんじゃないかな。36年前のガンダムの視聴者がいま企業に勤めて、重機ロボットや災害救助ロボットを開発したりしています。それと人口が増え過ぎたら宇宙に住まなきければいけないというコンセプトを絵空事じゃないと皆さんが感じて、それをエンタテインメントとして見ていただいている。

―― そんなガンダムに大河原さんが携わるきっかけはどういったものだったのでしょうか?

大河原
富野(由悠季)監督とは1972年頃には知り合っていました。私がタツノコを辞めて、日本サンライズ(現サンライズ)の仕事を始めた最初からです。日本サンライズの作品のザンボット3、ダイターン3で富野さんと一緒に仕事をすることになったんです。
その頃のサンライズは虫プロから離れた方たちが作った小さい会社で、まだ資金力がなく、スタッフもそれほど豊富ではありません。ガンダムも、ダイターン3からの持ちあがりのスタッフでした。キャラクターとアニメーションディレクターはザンボットをやっていた安彦さん、本当に限られた人材で作るなかでガンダムに巡り合っています。

―― ガンダムが画期的だった理由のひとつにロボットのリアル感があったと思います。デザインにリアル感を取り入れようとしたのはどうしてなのでしょう。例えばザンボット3やダイターン3は、よりおもちゃ的なデザインです。

大河原
ガンダムもそうですよ。富野さんは本当はRX-78を全部白にしたかったんです。けれども白だけでおもちゃにすると、ショーケースではカラフルなおもちゃにどうしても負けちゃうんです。子どもが手を出すのはやっぱりカラフルなほうなので、それでおもちゃによく使われる色にしたというのが実感です。富野さんは後にエルガイムで全身白の主人公メカを作っています。

―― 逆に言うと、シンプルに作ったザクがおもちゃとしても大ヒットしました。

大河原
普通はザクみたいに曲面が多いとおもちゃは作りづらいんですよ。プリミティブな形の組み合わせのほうが作りやすい。そのほうがアニメーターのかたも形を理解しやすいんです。ガンダムは平らな組み合わせです。
ザクの場合はアニメーターごとに違う理解をして、背や足の太さや太ももが違って描かれてしまう場合があります。ただ当時は敵に関してかなり自由度があって、そのなかでザクを作りました。

―― デザインをしたときにアニメーターの方々に「こうしたほうがいいよ」といった話はされるのですか。

大河原
私はしないですね。プロの集まりですから。監督のもと皆さん団結するわけですから、それはおこがましいです。
ただ、たまにはありますよ。レイズナーではコックピットのサイズから逆算すれば頭の大きさ分かるのですが、頭が小さいほうがかっこいいからと、どうしても頭を小さく描くんですよね。
あとはダグラムがずっとトラックの上に乗せられているので、監督に「いつまで寝かせとくの」って言ったことあります。(笑)

■ リアルロボットとは、リアルだと感じてもらうこと

―― ちょうどダグラムとレイズナーの話が出たのですが、ガンダムを起点にしたいわゆるリアルロボット路線が80年代の初めに生まれたのですが、それは意識されていたのですか。

大河原
ないですね。リアルロボットも実際には全部が嘘なんです。それを見る人にいかにリアルに感じてもらうかのテクニックなんです。私の場合はリアルに見えるように、いろいろなものを取り入れて、それで錯覚してもらうようにしています。ですから私自身は「リアル」とは言わないんです。リアルに感じてもらうだけです。

―― 逆に絵空事をリアルに感じてもらうのは、むしろ難しいですよね。

大河原
これはシナリオも演出も含めて、全ての力が合わせられないと感じてもらえないです。ガンダムはそれが出来ているんですね。

―― 大河原さんの作品は、そうしたリアルを感じさせるロボットと、一方でちょっと奇抜で面白いかたちのコミカルなメカも多数デザインされます。

大河原
奇抜なデザインは文句を言える人がいないので楽しいですね。おおらかで自分のチャレンジを入れてみたりできるんです。あれこそ一番勉強になりますね。

―― メカニックのアイディアはどこから生まれるのですか?

大河原
今まで見聞きしたいろんなもの、そこからのアイディアが頭の中にあります。そこからすっと出ていく感じですね。43年間やっていて悩むことはないです。

―― 例えば影響を受けたものはありますか?

大河原
コンピュータ関連の新しい機械があったりすると興味を持つし、買って試してみるのは人よりは多いかもしれないですね。
あとは本ですよね。私の仕事にぴったりという本はないので、兵器だったり、車だったりいろいろな本を見ています。そうした全てからヒントを得ていると思います。

■ ガンダムシリーズのターニングポイントだった『Gガンダム』

―― 経験から得たアイディアは、ガンダムについても活かされていますか?

大河原
例えばGガンダムだと、いろんな国をモチーフにしたロボットが登場します。そこでロシアだったら自分の主観で「これがロシアだ」を出しちゃう。自分の頭の中にあるロシアのイメージです。ガンダムF91ではコスモバビロニアという国が出てくるので、「じゃあバビロニア文明の彫刻を参考にして」と作り上げていきます。
ガンダムの敵のモビルスーツは、モノアイが代名詞になったのですけど、「敵のデザインコンセプトをください」と言われた時に、ゴーグルや防毒マスクとかちょっと主役にはなれない記号をいっぱい入れました。

―― 『機動武闘伝 Gガンダム』とファーストガンダムとは世界観が大きく違います。それでもどれもガンダムと分かります。ガンダムをガンダムとして成り立たせる要素は何なのでしょうか。

大河原
Vアンテナとカラーリングを守ることです。Gガンダムの監督(今川泰宏監督)は偉かったですね。多分Gガンダムは、これまでとあまりに違うので当初はファーストガンダム世代の人に拒否感があったはずです。

―― そうですね。ところがその後にすごく人気が出ました。

大河原
当時、監督がその風当たりを引き受けたから、その次のガンダムウィングがあり、今のGのレコンギスタまでつながります。私はガンダムのシリーズの中であれを一番評価しているんです。あそこがいろいろな監督が自分なりのガンダムを発信できるターニングポイントになりました。あの作品があったからです。そうでないと36年は続かないです。
いまでも来年のガンダムは何にしようかという余地があるのは、Gガンダムがあったからだと思います。ガンダムを見て育った人が、今度は自分が作り手になり次々にガンダムを発信できる。多分ずっと続くんじゃないですかね。

■ 機能的なメカは全て恰好いい

―― これはガンダムに限らないのですが大河原さんにとってかっこいいメカはそもそもどういったものですか。

大河原
機能を満たすための形になっているメカはすべてどれもかっこいいんですよ。例えば航空機は飛ぶための結晶があの形になっている。コスチュームが違うだけで、基本的な構造はみんな一緒なんです。そうなるとあとは着せかただけの差で、実際にあるメカはすべて美しいですよね。

―― 機能的であるが故にですか。

大河原
ええ、「こんなにきれいなんだ」って感じるメカはいっぱいありますよね。道具にしても工作機械にしても全てです。でもアニメでは、実際にはあり得ないものが、デザインできてしまいます。

―― 機能をあまり考えなくてもいい、絵空事であるからこその恰好よさもありますか。

大河原
私みたいにメカが好きなメカデザイナーは、絵が好きなメカデザイナーと違うんです。絵が好きなメカデザイナーは立体というものよりも、美しさをどんどん追求するわけです。私は基本的にはそれがおもちゃになる、立体になる、ということを特徴にしています。ここはこうして変形する。そして総合的に考えたときに魅力的な形になればいいと思うんです。
監督が何を欲しているのか感じて、それに近いものを出す。これは年には関係ない。演出家の求めているものをいかに出せるかの訓練をしていくと、70歳でも若い監督と仕事ができる。これは大事なことかなと思います。

―― 7月18日からガンダム展が東京で始まりましたが、特に見てもらいたい部分はありますか。

大河原
いまアジアでガンダム関係のイベントに出ることが多くて。そうすると日本だけでなくて、世界中でガンプラも作っているんですよね。アフリカでも作っているんです。ほんとにボーダレスで、これは何だろうって不思議に思うぐらいです。
今回の六本木のガンダム展は、ちょうど夏休みの時期で他のイベントも多いですから、海外からもいっぱい人が来ると思います。日本はもちろんですが、ガンダムや日本のサブカルチャーに興味ある海外の人にも楽しんで欲しいですね。

―― 上野の森美術館でも8月8日から「メカニックデザイナー大河原邦男展」が開催されます。こちらはどういった内容ですか。

大河原
あちらは私が1972年、ガッチャマンでメカデザイナーになってからの仕事です。これまでスポットが当たってなかった部分を年代ごとに全部まとめています。今まで世の中に出回っていないものがものすごく多いですね。実際にアニメ化に至らなかった作品ものもあります。そういう設定も全部並べます。
来ていただける方は子どもの時代に戻れるんじゃないかなって思います。イベント的な構成なのでとても楽しめます。六本木のガンダム展と上野、1日じゃ回れないかなって感じです。

―― でも両方見てほしいですね。

大河原
そうですね。ガンダムも、ガンダム以外も、どちらも話題としてはいっぱいだと思います。

―― どうもありがとうございました。

大河原邦男氏インタビュー いま振り返る「機動戦士ガンダム」の仕事

《animeanime》

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