【東京モーターショー15】「引き算のデザインに命を宿す」…マツダ 前田デザイン本部長 インタビュー

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マツダの前田育男デザイン本部長
マツダの前田育男デザイン本部長 全 12 枚 拡大写真

東京モーターショー15で、ひときわ来場者の視線を集めるマツダの『RX-Vision』。「ロータリー・スポーツの復活」を期待させるコンセプトカーだが、同時にそれはマツダの「魂動のデザイン」の新たな方向性を体現したものでもある。

「魂動のデザイン」を牽引する前田育男デザイン本部長によれば、次世代に向けたキーワードは「引き算のデザイン」。引き算とは何か? なぜ引き算なのか? マツダの前田育男デザイン本部長に話を聞いた。

----:『CX-3』ですでに、線の要素を減らすという引き算を始めていましたよね。さらに『ロードスター』では、ボディサイドにキャラクターラインが一切ない。RX-Visionを見てからロードスターを振り返ると、ロードスターが次世代の「魂動」に向けた架け橋の役割を果たしているように思えるのですが…。

前田デザイン本部長(以下敬称略):その通りです。

----:つまり線を減らすことが、引き算のデザインなのですか?

前田:それもひとつですが、今回のRX-Visionではさらに上下動のリズムを引き算しました。これまでの『魂動のデザイン』は上下に抑揚するリズムでフォルムを構成してきたけれど、もうそれはやらない。動きを感じさせるのは、前後方向のスピード感だけにしたんです。

----:ロードスターを発表したとき、「引き算のデザインは難しい」とおっしゃっていましたよね。

前田:あのときに「これからは引き算でやる」と公言しましたが、やはり引いていくと失うものがある。キャラクターが薄まるというより、カタチの意味が消えることがあるんです。何を表現したいのかが見えなくなってしまう。極限まで引き算をやってみようとトライしたら、まったくダメでした。

----:ダメというのは、どうなってしまったのですか?

前田:「魂動のデザイン」の定義は、生命感のある動きを表現すること。カタチに命を与えるテーマなのに、引き算をやりすぎると命まで消えてしまう。「あぁ、死んじゃったね」というのを経験して、引き算の難しさを実感しました。命の灯火や活き活きとした感じは絶対に引いてはいけない。それと、要素を引き算するために、逆に加えなくていけないことがあるということに気付きました。そこで光の変化を加えていったんです。

----:光の変化というのは、ボディの映り込みで表現されるものですね。ショー会場ではなかなか見えにくいのですが、ボディサイドの映り込みがZ字を描くのがひとつの特徴的だと思います。

前田:映り込みで生命感を表現しています。

----:ターンテーブルで回っているところを見ると、映り込みがどんどんダイナミックに変化する。これは感動的でした。

前田:光に対して、非常に敏感に反応するカタチなんです。具体的に言うと、ボディサイドの肩口のところは前輪から後輪まで真上から見てネガのカーブでつないでいて…。

----:プランカーブ(真上から見たボディサイドのライン)は紡錘形の凸カーブにするのが常識なのに対して、RX-Visionはそこを凹のカーブにしているわけですね。

前田 しかも、サイドシルは肩口とは逆に凸のカーブでつないでいる。普通なら絶対にやらない立体構成ですが、そうやることによって光の変化に面白い効果が出ることを発見しました。

----:スポーツカーの場合、前輪からキャビンまでの紡錘形にもうひとつ後輪を包む紡錘形を組み合わせる例が多いと思いますが…。

前田:それはいわゆるコークボトル・シェイプで、いくらシンプルにしても「どこかで見たね」というカタチになってしまう。そうではない驚きを生もうとすると…、要素を足せば驚いてもらえるだろうけれど、引き算でやると難しい。ものすごく悩んで、普通の発想で作ったら驚きは生まれないだろう、と。モデラーに「やってはいけないことだけで作ってくれ」と頼みました。

----:大胆だなぁ(笑)。

前田:ネガのプランカーブなんて、普通は絶対にやってはいけない。ボディが痩せて見えますからね。そこでボディ断面でカタマリ感を見せながら、プランカーブは上をネガ、下をポジにしてZ字の映り込みが出るという構成にトライしたところ、これは行けそうだという手応えがありました。

----:そこから順調に進んだ?

前田:いやいや、同じテーマでクレイモデルを何台も作って並べました。スケッチに描いたら、どれも同じですけどね。そこにかなり時間をかけた。これだけ映り込みを3次元的に変化させて、それを繊細にコントロールするというのは日本人のモデラーにしかできない。その繊細な感性が日本の美意識につながる、と思っています。

----:ところで、かなりロングノーズのプロポーションですよね。ロータリーエンジンはコンパクトさが特徴のひとつなのに、どうしてこんなにボンネットが長いのか、という疑問の声もあるようです。

前田:当初は前輪からAピラーまでがこれより100mm短かったんです。そのパッケージングでデザインを始めたのですが、途中で延ばしました。「長過ぎじゃない?」というのも、ひとつのサプライズ。ただバランスよくまとめるだけでは面白くないですから。

----:今度のロータリーは4ローターなのか、と想像する人もいて…。

前田:そういう議論を呼ぶのも狙いです。

----:純粋にデザイン視点で、ボンネットを100mm延ばす必然性は? ロングノーズのプロポーションに見せたかった? それともボディサイドの映り込みをドラマチックに見せるために、その長さが欲しかった?

前田:両方ですが、やはり引き算をやるとフォルムの動きが減ってくるので、プロポーションで前後方向の動きを強調しよう、と。バランスのよいところにキャビンを置くと、スタティックになってしまうんです。だからそこも、引き算の難しさのなかで加えたところですね。要素を減らしながら、光の変化と前後の動きの強調を加えて生命感のある動きを表現しています。

《千葉匠》

千葉匠

千葉匠|デザインジャーナリスト デザインの視点でクルマを斬るジャーナリスト。1954年生まれ。千葉大学工業意匠学科卒業。商用車のデザイナー、カーデザイン専門誌の編集次長を経て88年末よりフリー。「千葉匠」はペンネームで、本名は有元正存(ありもと・まさつぐ)。日本自動車ジャーナリスト協会=AJAJ会員。日本ファッション協会主催のオートカラーアウォードでは11年前から審査委員長を務めている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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