【土井正己のMove the World】ダイハツの完全子会社化、緩まぬトヨタの危機意識

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共同会見で握手をするトヨタ豊田章夫社長とダイハツ三井正則社長
共同会見で握手をするトヨタ豊田章夫社長とダイハツ三井正則社長 全 3 枚 拡大写真

先週、トヨタがダイハツを完全子会社化すると発表した。発表文では、「新興国市場においては、それぞれの事業基盤を活用しあい、ダイハツが主体となって、開発・調達・生産といったモノづくりをスピーディーかつ効率的に推進」と書かれており、新興市場のクルマづくりは、ダイハツが主体となることとしている。これは、トヨタの“危機意識の表れ”と私は見ている。

◆トヨタの最大のリスクは米国市場と原油高

トヨタは、2009年のリーマンショックで初の赤字を計上して以降、原価低減努力などにより、1ドル80円でも利益が出せる体制へと体質強化に成功してきた。2014年以降は、営業利益で連続して史上最高益をたたき出している。しかし、そんな順風満帆に見えるトヨタにも不安がある。それは、米国市場だ。

リーマンショックで、それまで1600万台レベルであった米国の年間自動車販売台数は、一挙に1100万台レベルまで落ち込んだ。同年にトヨタが赤字となったものそれが一番の理由である。現在では、米国の景気回復とともに自動車市場は持ち直し、昨年の市場は1747万台とリーマン前を大きく超えてきている。しかも、採算性の高い大型SUVが飛ぶように売れており、これがトヨタの最高収益にダイレクトに繋がっている。その理由は、ひとえに「原油安」である。この「原油安」が「原油高」に転じたらどうなるか。米国の市場は再び落ち込むことになるだろう。しかも、利益率の高い大型車は売れなくなる。

◆新興国は不調が顕在化

リーマンショック時の赤字脱出に貢献したのは新興国であり、資源国(産油国)である。ところが、その新興国において、トヨタの販売は、ここのところ不調である。インドに満を持して投入した『エティオス』も成功とは言えない状況だ。「インド人によるインド人のためのクルマ」としたはずなのだが価格が高くなってしまい、中途半端な位置づけになったことが理由と考えられる。トヨタには、たとえ新興国向けの商品であっても、素材や品質、乗り心地へのこだわりがあり、「割り切れない」文化があるからであろう。一方、それがトヨタらしさでもあり、トヨタブランドを高く保てている理由でもある。

◆ダイハツの開発思想

昨年末にダイハツの『ミライース』に一か月ほどお世話になった。燃費が、35.2km/リットルとノーマル車としては、ずば抜けている。また価格は、76.6万円からと、こちらもずば抜けている。しかし、エンジンが走行中でも低速に入るとストップする。「eco IDLE」機能で燃費を良くするわけだが、「エンストをして大丈夫か」と最初は不安が走る。アクセルを踏むとエンジンが再スタートするが、その時にはスターターの音で若干の振動も発生する。「燃費のためにここまでするのか」と徹底した割り切りを感じた。しかし、慣れてしまえば特に問題はなく、この価格と燃費に納得してしまう。こうした開発の「割り切り」は、トヨタにはできないと思う。(ただし、トヨタが販売するダイハツOEMの軽自動車には「eco IDLE」を導入している)

◆ダイハツの「割り切り力」に任せられるか

トヨタのダイハツ完全小会社化は、「米国依存が過剰」というリスク対策だと考える。原油が安く、米国が好調な間に新興国への戦略を確実にしておくということだろう。この戦略の成功は、トヨタがダイハツに新興国車の開発において全権委任ができるかどうかにかかっていると思う。トヨタらしさを求めるとダイハツの「割り切り力」は損なわれ、再び中途半端なものになりかねない。

また、ダイハツの開発陣は時々「我々のライバルはトヨタ」ということを口にする。「eco IDLE」にしても、如何にしてノーマルエンジンでハイブリッド燃費を上回るかを考えたのだろう。トヨタの完全子会になっても、そういう反骨精神は失わないで頂きたい。

<土井正己 プロフィール>
グローバル・コミュニケーションを専門とする国際コンサル ティング・ファームである「クレアブ」代表取締役社長。山形大学 特任教授。2013年末まで、トヨタ自動車に31年間勤務。主に広報分野、グローバル・マーケティング(宣伝)分野で活躍。2000年から2004年まで チェコのプラハに駐在。帰国後、グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2014年より、「クレアブ」で、官公庁や企業のコンサルタント業務に従事。

《土井 正己》

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