広がる宇宙ビジネスは中小企業のフロンティア…グローバル・ブレイン

宇宙 企業動向
グローバル・ブレイン 宇宙エバンジェリスト 青木英剛氏
グローバル・ブレイン 宇宙エバンジェリスト 青木英剛氏 全 2 枚 拡大写真

 小説・ドラマでヒットした「下町ロケット」では、町工場の部品が国産ロケット開発の要のひとつなっていた。このような話は、決してフィクションの夢物語ではない。

 航空・宇宙、そして先端医療機器の分野では、既存のグローバル大企業が、積極的に中小企業やベンチャーの高い技術・製品を採用することが増えているという。そう語るのは、ライフロボティクスやカブクなどユニークなベンチャー企業に投資するだけでなく、宇宙ビジネスへの投資にも力を入れているグローバル・ブレイン 宇宙エバンジェリスト 青木英剛氏だ。

 日本を代表する宇宙ビジネスの専門家である青木氏に、宇宙ビジネスの現状と、中小企業にとっての宇宙産業への参入のアプローチなどを聞いた。

■宇宙ビジネスを牽引する2つの流れ
 宇宙ビジネスの市場規模は約24兆円ともいわれ、この10年で2倍の規模に膨れ上がっている。10年前、宇宙というと、月探査や気象観測衛星、軍事衛星など民間ビジネスとは程遠い存在だった。しかし近年、この状況は大きく変わりつつある。

「現在の宇宙ビジネスを牽引しているのは、新興国によるロケット、人工衛星ニーズとスペースXに代表されるベンチャー企業による市場の拡大です。例えば、中東では、衛星放送が普及しており、比較的古くから通信や放送用の人工衛星を保有しています。自前でロケット技術を持たないこれらの国は、衛星の打ち上げを宇宙先進国(米国、ロシア、欧州、日本など)に依頼しなければなりません。通信衛星に関わらず、観測衛星なども自国で開発したいという需要が高まっています。東南アジアではインドネシア、マレーシア、シンガポール、タイ、ベトナムなどが衛星保有国となっていますが、それ以外のASEAN諸国も衛星の保有を検討しています。ASEANの宇宙市場は、政府主導ではありますが、森林保全、洪水などの災害対策のための観測衛星のニーズが高いのです。もちろん、通信インフラなどの充実も課題であるため、通信衛星、GPSなどの需要も広がっています。」(青木氏:以下同)

 新興国の宇宙開発は国策プロジェクトが絡むものが多いが、そもそも、1機200億円といわれる人工衛星、1機100億円という打ち上げコストが必要なため、ODAや投資銀行などの力を借りなければ、新興国はなかなか自国の人工衛星など持てない。青木氏によれば、このような市場ニーズを受けて、超小型ロケット、超小型衛星(質量100kg以下)の市場が広がりつつあるという。

「ベンチャー企業の中には、宇宙旅行、月探査、あるいは火星移住まで見据えたプランを持っているものもありますが、超小型衛星や新興国に広がる宇宙ビジネスが、多くの民間企業の参入を促しています。ホリエモンこと堀江貴文氏が創業したインターステラテクノロジズは、超小型衛星ビジネスのための超小型ロケットを開発しています。アクセルスペースのように超小型衛星を大量に打ち上げて、地球の画像を毎日更新するといった新しいビジネスを考えているベンチャーもあります。」

■日本の立ち位置と戦略
 宇宙開発技術は、日本のような先進国の社会やビジネスにも欠かせないものとなっている。最新の技術を搭載した気象衛星により高度な天気予報が可能になり、インターネット技術との組み合わせにより、異常気象、ゲリラ豪雨の予想にも役立っている。GPSはカーナビ以外にもさまざまなサービスに利用されている。青木氏のいうベンチャー企業の台頭により、宇宙関連の技術や産業は、われわれのビジネスにも身近なものとなりつつある。

 現在、宇宙ビジネスでは6カ国が業界を牽引している。規模でいうと、次のような状況だ。

「1位はアメリカ、2位はEUです。3位はロシアになります。ほぼ同率4位で日本と中国、6位にインドが続いています。しかし、中国はすでに有人ロケットを飛ばし、自前のGPS衛星を20機以上も打ち上げています。正確な数字は公表されていませんが、中国は既に日本を追い抜いているとも言われています。」

 日本の宇宙開発の予算規模は2,000億から3,000億円といわれている。ここ10年以上に渡り、予算額はほとんど変わっていないという。JAXAの予算はむしろ減っている。政府はこれを5,000億円規模に拡大したい考えだが、そのためには民間ビジネスの参入が不可欠としている。ちなみに、アメリカの予算規模は日本の20倍、EUで2倍といわれているそうだ(青木氏)。

 金のかかる宇宙ビジネスは、予算が多いことに越したことはないが、少ない予算で効率よく開発、打ち上げができることは競争ビジネスにおいて強みにもなる。

「度重なる障害を克服しJAXAが成功させた「はやぶさ」の本体の開発費用は200億円を切っています。同じことをアメリカがやるとその2倍以上はかかったといわれています。日本の宇宙開発は高度な技術を持ちながら、非常に効率がよいことは世界も認めています。」

 日本の宇宙産業の技術の高さと効率の良さを、影で支えているのが実は中小企業だ。日本は潤沢な国家予算、軍事予算を期待することはできない。宇宙ビジネスにおいては、競争力も問われている現在、三菱重工や三菱電機といった大企業にとって、ロケットや人工衛星の開発に必要な特殊素材、高度な加工技術について、中小企業とのパートナーシップ戦略は欠かせないものとなっている。特殊な部品や少量多品種の開発や製造となると、大企業は規模の大きさがデメリットとなる。町工場でも信頼できるパートナーが求められている。

「科学の最先端というイメージがあるロケットや人工衛星ですが、じつは枯れた技術の集合体なのです。必要なのは、尖ったスペックではなく、安定した品質とそれに裏付けられた信頼性です。」

■中小企業の参入アプローチ
 では、そのような技術や製品を持った中小企業が、宇宙ビジネスに参入しようと思った場合、どのようなアプローチがあるのだろうか。

「宇宙業界の企業と接点を持ち、情報収集することがまず重要です。したがって、情報が集まる場に積極的に参加する必要があります。例えば、内閣府はS-NET(スペース・ニューエコノミー創造ネットワーク)という新しい取り組みを始めています。S-NETはオープンな宇宙ビジネスのネットワークの場として、ベンチャー、中小企業、大企業、団体による新たな産業エコシステムの確立を目指して、2016年3月の正式発足にむけて、各地で準備会合などを開催しているところです。」

 これらのネットワークを活用することで、新たな取組みへのきっかけにもなるだろう。前述したように大企業側も、単なる下請け探しではなくパートナーとなる企業を探すため、S-NETに参画し、この仕組みを活用するようになってきている。

 しかし、注意点もある。最後に青木氏はこれからの中小企業の考え方について次のように方ってくれた。

「大企業が、下請けではなくパートナーを探すという考え方ならば、参加する中小企業側も、独自の技術やビジョンがあるかどうかが問われます。例えば、スーパーレジン工業のように炭素繊維などの高度な成型技術を持ち、大企業と対等な立場でビジネスを行うという、経営者としてのスタンスも重要となります。」

《HANJO HANJO編集部》

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