【川崎大輔の流通大陸】“成熟市場”タイの自動車アクセサリー事情

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ARRK CORPORATION(THAILAND)Ltd.は、1989年にタイに進出。現地法人のデザインアドバイザーを務める新興国向けデザイン、及び商品開発経験20年のキャリアを持つ上村清貴氏にタイにおける自動車のエアロを含むアクセサリー市場の課題と今後の展望について話を聞いた。

◆タイのアクセサリー市場の現状

ARRK CORPORATION(THAILAND)Ltd.は、1989年にタイに現地法人を設立。試作事業からビジネスをスタートし、2006年には自動車関連の量産工場を稼働させた。現在の従業員数は341名で、(1)開発(企画/デザイン/設計/3D意匠データ作成)、(2)試作(板金を含む)、(3)小ロット生産(自動車用アクセサリーが中心)、と大きくは3つのビジネスの核を持っている。それによって自動車アクセサリーのデザインから企画・設計、試作、量産を一気通貫で行うことができる東南アジアで唯一の企業となった。高い品質にこだわりながら独自のデザインを開発することができる。

そのためタイにある外資を含めた自動車メーカーの純正アクセサリー、特に工場装着される特別仕様の対応が多い。タイにおけるエアロを含むアクセサリー市場は、「売っている車種が少ないため選択肢が限られる。より個性的な自分らしさを求める顧客に対して、エアロパーツなど外装アクセサリーを装着することでオリジナリティーを出していく土壌が大きい。」と上村氏は指摘する。

一方で、タイにおけるエアロを含む純正アクセサリー市場のトレンドは、品質よりもコスト重視の廉価な製品が増えてきているようだ。ARRKではこのような市場動向に合わせデザインや設計の自由度の高い射出成型を用いながらも極力イニシャルコストを下げる工法を考案し、高付加価値商品をリーズナブルなコストで提供しているという。

◆自動車販売台数に連動しやすい市場

2015年のタイ国内の新車販売台数は前年比9.3%減の79万9,594台で、3年連続で前年実績を下回った。自動車の販売台数そのものが落ちてきているのがアクセサリー市場(エアロを含む)の大きな課題である。2011年の洪水以降に一気に需要が爆発し反動で急激な落ち込みとなったが、その持ち直しが遅れている。また、コピー品の市場流通も1つの課題となっている。

◆ARRK CORPORATION(THAILAND)の強み

ARRKのビジネスモデルである一気通貫が大きな強みとなっている。「例えばアクセサリーが作りたいといえば最初から最後まで対応させていいただく。デザインから開発、量産まで可能でこのように一気通貫できているところはない。オンリーワンの存在である」と上村氏はいう。

ARRKに一言いえば、製品が出来上がる。それによってリードタイムの減少と、品質向上が実現すれば依頼顧客としては大きなメリットとなるだろう。一般的に他企業との連携やフィードバックをし合うというのが難しい。他企業の開発部門と量産部門が打ち合わせなどを行う場合は、依頼顧客が打ち合わせ設定やフィードバックを行う必要がある。そのため時間がと手間がかかってしまう。品質面も1つのところでやることで良いものが作りやすくなる。量産の担当者とも親密にコミュニケーションが取れ、問題をすぐに解決できるためだ。

ARRKの高い品質、独自のデザイン、真似のできない製法を、一気通貫で得られる。そのことはアセアンにある自動車メーカーにとって、大きい安心感とメリットを得ることができる。

◆これからのタイ市場の方向性

前述のようにエアロを含むアクセサリー市場は自動車の販売台数に影響される。販売台数が持ち直してくれば当然増えてくる市場である。一方で、今後のタイの自動車市場がうなぎのぼりに成長するかといえば、必ずしもそうではない。ある程度成熟をしているためだ。上村氏は「このような成熟市場の中で恐らくは、高品質高付加価値のある製品と安かろう悪かろうの製品の2極化が起こってくるのではないか。つまりタイでのARRKの成長も高付加価値のものがどれだけ伸びるかで拡大性が異なる」と考えている。

昨今の自動車はエコカーやコンパクトカーなどの低価格な自動車が増え多様化の時代に入った。つまりそういった車の低価格化からアクセサリーもリーズナブルなものがたくさん出てアクセサリー市場は一気に拡大した。しかし、今後は再び高品質なものが見直されてくる可能性があるという。結局安い低品質のものはローカル企業で作れてしまう。高品質高付加価値の部分をARRKのような企業がサポートをしていくこととなる。

今後のビジネスの展望としては、「タイが多くの自動車メーカーにとって重要輸出拠点になっている点は見逃せない。これまで開発・生産したアクセサリーの多くはタイ国内向けであったが、今後は輸出仕向け地のニーズに合わせてアクセサリーをタイで開発・生産する。それを工場で車体に組み付けた状態で輸出する新しいビジネススタイルも出てくるだろう。

また大メーカーだけでなく、東南アジアでビジネスを行いたい中小企業に対してもサポートを行っていきたい。同時に長期的な視野では、高級中古車にアクセサリーをつけ付加価値を上げていく。それが大きな市場のトレンドになれば面白いかもしれない。」と上村氏は語ってくれた。

日系企業は日本人自身が思っている以上に高い信頼をタイで持たれている。特に日本の製品・技術などには大きな信頼が寄せられている。個人的には、タイを中心にベトナム・カンボジア、ミャンマーなどへの潜在的市場へのアプローチを積極的行い、日系企業の信頼を更に周辺諸国へ広めていってほしいという期待を持っている。

<川崎大輔 プロフィール>
大手中古車販売会社の海外事業部でインド、タイの自動車事業立ち上げを担当。2015年半ばより「日本とアジアの架け橋代行人」として、Asean Plus Consulting LLCにてアセアン諸国に進出をしたい日系自動車企業様の海外進出サポートを行う。アジア各国の市場に精通している。経済学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア経済研究センター外部研究員。

《川崎 大輔》

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