マツダ「G-VECTORING CONTROL」、派手ではないがこだわりつまった新技術

自動車 ビジネス 国内マーケット
マツダ 新技術マツダ「G-VECTORING CONTROL」説明会
マツダ 新技術マツダ「G-VECTORING CONTROL」説明会 全 10 枚 拡大写真

マツダは、この5月の自動車技術会で学会発表をするという新しい技術の試乗・説明会を開催した。マツダが唱える「人馬一体」を人間中心の考え方でさらに進化させた新しいコンセプトである「SKYACTIV-VEHICLE DYNAMICS」と、その最初の実装技術となる「G-VECTORING CONTROL(ジーベクタリングコントロール、GVC)」である。

【画像全10枚】

マツダは、これまでSKYACTIVシリーズの技術として、エンジン、トランスミッション、シャシー、ボディなどの新機軸を打ち出してきている。しかし、「これらはユニットごとの技術であり、いわば要素技術による部分最適に過ぎない。これを統合制御することで全体最適へと機能を高め、マツダが追い求める人馬一体を、より人間中心へと進化させる」と、マツダ 専務執行役員 藤原清志氏は「SKYACTIV-VEHICLE DYNAMICSコンセプト」を発表した。その第1弾が、エンジン制御によってシャシー性能を向上させる「G-VECTORING CONTROL」技術だ。

どういうことかというと、ドライバーのステアリング操作に応じて、エンジンのトルクを瞬間的かつ微妙な範囲での制御を行うことで、走行中の4輪の設置荷重を細かく最適化する。それによって発進時から加速、高速クルージングまで、あるいはコーナリング中、砂利道や凍結路など、あらゆる走行条件のステアリングの応答性、走行安定性を向上させるというものだ。

コーナリング中や雨、凍結路などでトルク制御を行う技術は、とくに目新しいものには見えないが、ポイントは、この制御をスリップしたときなど限定的な制御ではなく、発進したときからすぐに制御が有効になり、制御のための入力情報は、車速とステアリングの舵角のみだ。トルク制御は常に有効なため、その制御は非常に小さく、人間の知覚しきい値以下の細かい制御でもある。

カメラもジャイロセンサーも使わずトルク制御だけ? となると、ますます大したものではないのではと疑問に思うかもしれない。藤原氏もプレゼンでは「でもマツダなので地味です」と自虐的に語るくらいだ。

しかし、マツダの技術は地味なほど注目したほうがよい。SKYACTIVエンジンでも、当時のガソリンエンジン設計の本流ではない高圧縮比、しかもディーゼルでは低圧縮比という、すべて逆張り技術で競合エンジンより高環境性能、低燃費性能を実現している。

では、このような制御がどのような効果をもたらすのか。人馬一体とどのような関係があるのか。

まず、運転中のステアリング操作が最小限になり、応答性とリニアリティが向上する。結果として余分な修正操舵を低減させ、通常のコーナリング、緊急回避のレーンチェンジの横Gの発生をなめらかにし、不快な揺れを抑えてくれる。無駄な操作や車の動きを抑えてくれるため、燃費もよくなる可能性があり、運転中のストレスを低減してくれる。

Gの発生や荷重移動がスムースになるということは、ドライバーの負担だけでなく同乗者の負担、ストレスも低減させ、乗り物酔いしにくい車にもなる。

どのような制御をしているかというと、例えばコーナリング中、タイヤの荷重は、ターンインでフロントのアウト側が最大となるこれによってコーナリングフォースが生まれる。そして他のタイヤは、フロント・イン、リア・アウト、リア・インの順で荷重は低くなる。定常旋回中は、アウト側の前後のタイヤの荷重が高く、ターンアウト時に加速すると、リア・アウト、フロント・アウト、リア・イン、フロント・インの順で荷重が下がっていく。

ステアリング角度によって適切なトルク制御を行うことで、このような動きをより安定方向に向かわせる。直進時の細かいステアリング操作(路面の状況などで無意識のうち操作が発生している)、悪路での修正操作に対しても、同様な制御を行う。しかも、制御は5ミリ秒単位と、通常のトルク制御の間隔より短く、制御するトルクの精度も細かいもので、人間が制御の介入を感じることはない。藤原氏のいう人馬一体とはこのことだそうだ。

実は、このような制御は、運転のうまい人は自然に行っている。運転のうまい人は、アクセルコントロールで車の向きを変えられることを知っており、ハンドルやブレーキ操作だけで曲がっているわけではない。つまり、コーナーや路面に合わせ、微妙なアクセルコントロールによって、ステアリングだけによる車の動きを、よりスムースになるように(悪路ならば、スリップしたりグリップが抜けないように)意識しないレベルで制御している。

G-VECTORING CONTROLでは、このようなベテランドライバーの操作を、5ミリ秒という人間技以上の領域で実現しているといえる。

と、ここまで聞いても「そんな制御なら他のメーカー、車両でもできそうだ。なぜこれまで実現していなかったのか」という疑問が残るかもしれない。

その理由は、「これまでのエンジンのトルク制御の精度では、0.05Gといった微妙な加速度の制御はできなかった。SKYACTIVエンジンだから、くわえてその微妙な制御にしっかり反応するSKYACTIVシャシーがそろって初めて実現できた」(車両開発本部 シニアスペシャリスト 梅津大輔氏)からだという。

G-VECTORING CONTROLの市販車への投入だが、量産体制は整っているとし「それほど待たない近い将来」(藤原氏)とのことだ。

今回の発表は、テストコースでの試乗も行われた。インプレッションは別記事に詳細を譲るが、比較試乗すると、なめらかなG、悪路での運転のしやすさ、レーンチェンジのしやすさなど実感できた。実車投入が楽しみな技術だといえる。

《中尾真二》

テクノロジージャーナリスト・ライター  中尾真二

アスキー(現KADOKAWA)、オライリー・ジャパンの技術書籍の企画・編集を経て独立。現在はWebメディアを中心に取材・執筆活動を展開。インターネットは、商用解放される前の学術ネットワークの時代から利用し、ネットワーク、プログラミング、セキュリティについては企業研修講師もこなす。エレクトロニクス、コンピュータのバックグラウンドを活かし、自動車業界についてもテクノロジーを中心に取材活動を行う。

+ 続きを読む

【注目の記事】[PR]

ピックアップ

レスポンス公式TikTok

教えて!はじめてEV

アクセスランキング

  1. ホンダ23車種、ガソリンが漏れるおそれ…6月掲載のリコール記事まとめ
  2. スズキ『カプチーノ』復活の可能性!…軽規格を維持、FRレイアウトも継承か
  3. ホンダ23車種・3364台をリコール 低圧燃料ポンプ交換作業に不備
  4. 三菱『パジェロ』新型のデザインはこうなる! 公式発表は2026年秋予定
  5. ヤマハの原付電動スクーター『JOG E』全国発売へ、本体のみなら約16万円で買える
ランキングをもっと見る

ブックマークランキング

  1. セキュア開発における脅威分析【自動車セキュリティ解説 第2回】
  2. 次世代圧電材料向け、「多能性中間膜」の量産化をJSTが支援…Gaianixxが開発
  3. BMW工場にヒューマノイド「Figure 03」導入…フィジカルAIで全身協調制御
  4. BYD12万人の技術力と日本市場への本気度、補助金逆風下「ラッコ」の戦略とは…BYD Auto Japan 東福寺厚樹 代表取締役社長[インタビュー]
  5. バックミラーは「銀座4丁目」だった…電子ミラー最大手「ジェンテックス」が握る車内センシングの主導権
ランキングをもっと見る