【テスラ モデルX 試乗】世界のSUVが真っ青になっているに違いない…桂伸一

試乗記 輸入車
テスラ モデルX P90D ルーディクラス
テスラ モデルX P90D ルーディクラス 全 16 枚 拡大写真

バッテリーを床全面に敷き詰めた低重心の極みというべき、テスラの走行特性だから、全高が上に伸びた初のSUV、『モデルX』で重心高が多少変わろうが何のネガにもならない。という確証を得た。

モデルXの魅力の一つがコレになるかは不明だが、2.5トンの巨漢SUVをテスラが造るとこうなる。と示した一例は超絶な瞬発力である。世界のSUVが真っ青になっているに違いない。

今日試乗したモデルX は“P90DL”。DはAWDの意味。モデルXはAWD専用である。Lはオプションの「Ludicrous=ルーディクラス」を持つ90kwhバッテリーを搭載する中の最強仕様。「馬鹿げた」とか「冷笑」を意味するルーディクラスは、インセイン(狂気、正気じゃない)のさらに上を行くロケットダッシュモードである。この装備が必要か否か、日本では判らない。要人警護のために必要な瞬発力なのかも知れない。

◆0-100km/h加速3.4秒

ウエット路面とこの直後にも試乗する組が控えていることから、無駄な電力消費を抑える必要が…と建前はあるが、軽くフル加速。頭がガクッと後ろにもって行かれる状況。過日、セダンの『モデルS P90DL』に2名で乗り込みルーディクラスモードを選び、不用意にアクセルを床まで全開!! 瞬間、ふたりして大音量の叫び声とともに首に強烈なストレスと頭も体もシートバックにめり込む勢いに恐れおののき、即フルブレーキング。事なきを得る!? という経験をしたばかりだ。

フロントに262ps、リアに539psのパワーを発生するモーターの威力は、0-100km/h加速が3.4秒!! 0-400m加速11.7秒を誇るスーパーSUVである。ゼロスタートで起動した瞬間に最大の967lb-ft(1311Nm)のトルクを生む驚愕の速度のノリに驚くと同時に、おいそれとは使ってはいけない事も知る。ちなみに満充電での航続距離は467km。

大型SUVの大きくて重い動き。スポーツカーメーカーが作るSUVはフットワーク軽快な運動性を持つものも多くあるが、一方で燃料消費や内燃機間の音や熱が大きくのしかかる。

モデルXの乗車定員は7名。そのシートに3名が乗車して都内から箱根を目指す。クルマ側にすれば空荷のようなモノか!? アクセルひと踏みの車速のノリの軽快さときたらない。このクルマだけ急坂を下るような、少しのアクセル開度で転がる転がる。と、思うとアクセルを戻した瞬間に回生による強い減速に入る。モーター充電による減速Gが見事にブレーキの役目をはたして、フットブレーキの頻度がテスラでは少ない。加速で放電し、減速で充電を繰り返しながらの高速移動でのバッテリー消費は思いのほか少ない。 

◆ステア操作は潔いオートパイロット

高速移動で試したオートパイロットは基本、ステアリングを保舵する必要がある。ドライバーが正常な状態か否かを判定する基準にもなるためだ。カメラとレーダーと超音波センサーが車輌前方と全方位を監視している。

天候は微かに水煙が上がるウエット状態。ダッシュパネルの例の特大モニターに“バイクのシルエット”が浮かび上がった時は心底ドキッとした。ドライバーの肉眼では捉えていなかったのだから!! ウインカーレバーを操作すると、人間が見落としていた存在をクルマ側は確認しながら、移る側の車線と車輌その他の存在と車間と速度から演算。移動可能と決まると、潔くステア操作に移るその切れ味は鋭い。

ヒトの操作を安全安心確実に行う制御であることを確認できた。ただし、制御をキャンセルする場合もあり、その時は中断した事を正確に伝えてくるが、目視には慣れは必要。

◆舵角通りに駆け抜ける

雨は箱根の山・坂道に水溜りと川を造る。その中を4輪が路面を確実に捉えたドシっと重厚な安定感があり、AWD故に操作に忠実に安定姿勢で曲がり、自然に抑え込まれたロール感もテスラ流。

コーナー旋回中に敢えてアクセルを床まで踏み込む!! 瞬間に前方に押し出されるアンダーステアの挙動を示すが、ESP=車輌安定装置に含まれる4輪独立のブレーキ制御と、駆動力制御が、ESPが働いたとは感じさせない緻密で繊細な制御で姿勢をイン側に向けて、何事もなかったかのように舵角通りに駆け抜ける。

そうしてみると、つまりセダンのモデルSとSUVのモデルXで操縦感覚に大きな違いはない。ただし巨体である。例えば箱根の山道でUターンという場合。やはりボディサイズ感は感じる。

◆SUVとミニバンを合わせた室内のゆとり

モデルXの最大の特徴であるファルコンウイングドアは屋外であれば、隣との幅(30cm以上)、隙間に注意すれば、大きく羽ばたかせて問題はない。しかし天地の低い日本の車庫、屋内駐車場では細心の注意が必要だ。高さと開く量はセンサーが目を光らせてはいるが、特に天井の高さが限られた場所での乗降には苦労しそう。

フロントウインドウがそのままルーフになる関係から、室内への自然光は十分に入り明るく開放感に溢れている。室内空間の広がりはSUVとミニバンを合わせたゆとりも感じさせる。優雅な着座姿勢が得られるのは2列目で、足元のゆとりから、姿勢の自由度からもそう思う。3列目は2列目の前後固定位置次第で居住性は決まる。

フロントのフードはオープンのみだが、その他のドアというドアは全てパワーアシストによる開閉が手元のキーからでも行える。EVだから全てモーター仕掛け。ヒトに優しく楽しく、脅威も感じさせる乗り物が、より多くのファミリーに向けて展開されて今後のEVの行方がさてどうなるのか、実に興味深い。

■5つ星評価
パッケージング ★★★
インテリア居住性 ★★★★
パワーソース ★★★★★
フットワーク ★★★★★
おすすめ度 ★★★★

桂 伸一|モータージャーナリスト/レーシングドライバー
1982年より自動車雑誌編集部にてレポーター活動を開始。幼少期から憧れだったレース活動を編集部時代に開始、「走れて」「書ける」はもちろんのこと、 読者目線で見た誰にでも判りやすいレポートを心掛けている。レーサーとしての活動は自動車開発の聖地、ニュルブルクリンク24時間レースにアストンマー ティン・ワークスから参戦。08年クラス優勝、09年クラス2位。11年クラス5位、13年は世界初の水素/ガソリンハイブリッドでクラス優勝。15年は、限定100台のGT12で出場するも初のリタイア。と、年一レーサー業も続行中。

《桂伸一》

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