【マツダ アテンザ 試乗】まさに長足の進化、だがまだまだ磨ける…井元康一郎

試乗記 国産車
マツダ アテンザ 改良新型
マツダ アテンザ 改良新型 全 16 枚 拡大写真

マツダのDセグメントセダン&ステーションワゴン『アテンザ』が8月に改良を受けた。その改良モデルを短距離ながら運転する機会があった。

◆プレミアムブランドへの挑戦

改良メニューはディーゼルエンジンの静音化と出力制御の精密化、オンザレール感覚で走れるようにクルマを積極コントロールする「G-ベクタリングコントロール」を『アクセラ』改良版に続いて採用、内装のグレードアップ、NVH(騒音・振動・突き上げ)の軽減、新色「マシングレー」の採用、歩行者検知機能付き先進安全システム実装等々、多岐にわたる。

試乗車はワゴン、2.2リットルターボディーゼルのトップグレード。試乗ルートは神奈川の子安にあるマツダの横浜研究所を起点に横浜界隈を一般道、高速道を交えて走り回るというもの。市場条件は路面ドライ、気温30度、エアコンAUTO、2名乗車。

マツダはリーマンショックで財務悪化、フォードグループからの離脱など危機的な状況に陥ったが、その苦境の中で自らの生きる道として選んだのが、良いクルマを作り、顧客にその価値を認めてもらうことで販売価格を上げていくという、いわゆる高付加価値路線だ。もちろん一足飛びにプレミアムブランドになれるわけはないが、チャレンジしなければその道は永久にひらけないということで、戦略の大前提となる良いクルマ作りに懸命に取り組んでいる最中である。モデルライフ途中の改良で改良メニューを大盤振る舞いで盛り込んでくるのも、ケチっている場合ではないという意識の表れと言える。

◆大きく変わったパワートレイン

実際にドライブしてみて、最も大きく変わったと感じられたのはパワートレイン。従来の2.2リットルターボディーゼルは2000rpm以下の低回転域でクルーズしている時にもノック音がかなり威勢よく聞こえてくるという弱点があったが、今回、1.5リットルディーゼルに使われているノック音低減機構「ナチュラルサウンドスムーザー」が仕込まれた。その効果はかなり高く、加速時やクルーズ時のカラカラ音はかなり小さくなった。

良くなったのはエンジン騒音の低減だけではない。ターボ過給の制御を精密化したというエンジンが生む加速フィールの向上は、旧型との比較でというレベルではなく、エンジンを換装したのではないかというくらいに良くなっていた。

停止状態や低速走行から加速するさい、スロットルペダルの踏み込み量にきっちり正比例するようにパワーが出る。また、3速、4速とシフトアップしていくときも、変速のたびにトルクが変動して前後Gが出るようなことがなく、一直線に速度が乗っていくという、BMWのターボディーゼルのようなフィールを持たせることに成功していた。スロットル操作に対するリニアリティが上がるだけで、クルマの切れ味がこうも違ってくるものなのかと感心させられた一方、エンジン側でこういう味付けができるのであれば、ATの段数もいっそ6速ではなく8速に進化させたほうがいいのではないかとも思った。

G-ベクタリングコントロールもなかなかの効能を示した。今回の試乗では高Gでコーナリングするようなシーンはなかったが、たとえば首都高速横浜線の緩やかなカーブを曲がるときなど、旧型との違いを明確に感じられるくらいのフィール差があった。うねりのきつい老朽化した路面のカーブでも、目標地点まで放物線を描くようなスムーズなラインをいとも簡単にトレースできるのだ。これは単体ではなかなか恩恵がわからないものだが、実際にクルマをそういう味に仕立てるのはものすごく難しいことで、旧アテンザもそこを煮詰め切れていなかった。それを思うと、まさしく長足の進化と言えよう。

◆「見かけ倒し」と思われないために

これら2点については、現時点でプレミアムセグメントの世界に片足を突っ込んでいると言ってもいいレベルであったが、それ以外の部分についてはまだまだという感が強かった。エンジンのノック音は削減されたが、ボディ側の遮音はあまり進歩しておらず、Dセグメントとしてはややノイジー。同様にロードノイズの遮音も依然として良いレベルとは言えなかった。

乗り心地もさらなる改善が必要。首都高速高架線の段差の乗り越えは、突き上げ側は以前に比べて若干良くなったようにも感じられたが、落ち側の受け止めは良くなく、ドスンという衝撃が出てしまう。ノンプレミアムなら別にこれでもいい。が、高付加価値を狙うという戦略を取ると表明している以上、微小さなピッチでも落ちる卵をふわりと受け止めるような動きを、あくまでブッシュの柔らかさに頼らずサスペンションの動きを良くすることで作ってほしいところだ。

マツダは2011年の『CX-5』以降、「魂動デザイン」と称する新しいデザイン文法を新型車に統一して盛り込んできたが、その中でもアテンザはDセグメントの中でもかなり長い全長を持っていることもあって、流麗さ、伸びやかさをことさら強く感じさせるエクステリアデザインに仕上がっている。そのフォルムを見て、これは凡庸なクルマだという第一印象を持つ顧客は少数派だろう。が、それはクルマに対する事前の期待を押し上げるということでもある。いわば、自分でハードルを上げているようなもので、いざ乗ったときに“ちょっといいね”くらいでは許されなくなってしまう。

その厳しい道を選んだマツダの悩みは、プレミアムセグメントで厳しい戦いを強いられているトヨタのレクサスの悩みと似ている。見掛け倒しかよと思われないためにも、今はまだノンプレミアムだからという言い訳をしたりせず、さらに各所に磨きをかけて高みを目指してほしいところだ。ただ、これまでのアテンザに比べていろいろなところが明らかに良くなっているので、アテンザを考えながら今まで買っていなかったという顧客にとってはかなりおトク感が上がっているのも確かだ。

なお、今回は短距離試乗であるため、長時間乗ったときのフィールは確認できていない。機会があればいずれ試して、ロングドライブにおけるフィールもお届けしたいところである。

■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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