【日産 リーフ 1200km試乗 前編】EVをより普通のクルマらしく運用できるようになった…井元康一郎

試乗記 国産車
日産リーフ。福島・喜多方の山間部にて。
日産リーフ。福島・喜多方の山間部にて。 全 17 枚 拡大写真

日産自動車が今から1年あまり前の2015年秋、電気自動車の『LEAF(リーフ)』に航続距離拡大モデルを追加ラインナップした。バッテリー搭載量が24kWhから30kWhへと6kWh増え、JC08モード走行時の航続距離も228kmから280kmに延伸された。そのリーフ30kWh版(以下リーフ30)で東北エリアを1200kmほどロングツーリングしてみたので、リポートをお届けする。

試乗したのは最上級グレードの「G」にBOSEのオーディオシステム、本革シートなどのオプションを加えた豪華版。ドライブルートは横浜の日産グローバル本社を出発後、福島の喜多方、山形の米沢、秋田の横手を経由して岩手の花巻郊外にある宮沢賢治記念館へ。帰路は国道4号および東北自動車道の通る福島“中通り”経由で日産グローバル本社に帰着するというもので、総走行距離は1237.2km。道路の内訳はおおむね市街地3、郊外路5、高速道路2の割合。路面コンディションはドライ4、ウェットおよびヘビーウェット6。エアコンは一部区間を除き、デフロスター暖房を常時使用した。

◆安心感が大幅にアップした

まずはツーリングを通じて得られたトータルの印象から。バッテリー搭載量が25%増量された恩恵は大きく、EVとしての使い勝手、安心感は24kWh時代に比べて大幅にアップした。航続距離の落ちる冬季において充電率20-80%、すなわちバッテリーの6割の能力を使って走る場合、航続距離の伸長分はせいぜい20km程度にすぎないが、実際のドライブにおいてはその小さな余裕が充電のインターバルや充電スポット選びの自由度を格段に高めてくれた。

ドライブフィールは基本的に24kWh版と変わらず。パワートレインのウルトラスムーズネス、低重心パッケージによる操縦安定性の高さなどはCセグメントコンパクトとしては出色レベル。山岳路におけるハンドリングも抜群で、ドライブの楽しさを大いに盛り上げてくれるものだった。

一方、アンジュレーション(路面のうねり)への追従性、路面のざらざら感のカットなど走りの質感に関わる部分は平凡でファミリーカーの域を出ないものだった。そのあたりの味付けがうまくいけばプレミアムセグメントっぽさが出せ、EVの宿命である価格の高さをある程度カバーできる可能性が出てくるのにと、惜しく思われた。

◆“やわらか系”の姿に似合わぬ走りのよさ

モーターやバッテリーのエネルギー効率、充電設備の状況については別稿に譲り、クルマ単体についての特性を見ていこう。

走りの前に佇まいについて。今回借りたリーフの広報車のボディカラーは2015年12月に追加された新色「タンジェリンオレンジ」で、さらにルーフやミラーを「スーバーブラック」に塗り分けた2トーンカラー。日産ディーラーで充電中、発売されたばかりの『ノートe-POWER』のオレンジと並ぶ機会があったが、同じような色だと思いきや、彩度にかなりの違いがあった。リーフのものはギトギトした彩度の高い色ではなく、少しシックな感じの中間色だ。

ドライブ中、落葉の進む初冬の福島・奥喜多方をはじめ、あちこちの自然の中に置いてみたが、自然とけんかせずによく調和する色だった。また、いささか大衆車的にすぎるデザインのリーフを一段上等なクルマに見せる効果もあるやに思われた。

次に走りについて。ロングツーリング性能で最も重要となるクルマの動きについては、Cセグメントファミリーカーとしてはエクセレントと呼べる水準に達していた。高速道路やバイパスなど速度域が比較的高いクルーズ時では多少深い轍を踏んでもステアリングを取られにくい直進性の良さが、山岳路では回頭性の良さとロール時の踏ん張り感の良さが光った。とくにコーナリング性能は抜群で、履いているタイヤは低燃費志向のエコタイヤなのに、まるでスポーツカーのごとく弱アンダーを保ったままオンザレール感覚で不安感なしに山岳路を疾走することができた。

その素晴らしいテイストは、たとえば筆者が昨夏に4000kmドライブをしてみたフォルクスワーゲンのプラグインハイブリッドカー『ゴルフGTE』のようにサスペンションストロークをたっぷりと取り、レスポンスの良いショックアブゾーバーのフリクションバランスを絶妙に取って実現したようなものとは異なる。リアサスペンション形式も独立式ではなくシンプルなトーションビームだ。ドライブしていてもロールしているときにショックアブゾーバーが車体の揺動をきっちり押さえ込んでいるという機械的な高性能感は薄く、四輪が路面に粘りつくようなフィーリングでもない。

にもかかわらずハンドリングがきわめて良好で、かつクルマの状態を把握しやすく安心感を持てたのは、ひとえに床下に重量物を集中配置して重心を低く設計できるというEVの特性によるものと推察された。見た目はやわらか系の格好をしているリーフだが、その姿に似合わぬ走りの良さである。

◆運転のしやすさは大きな美点

もうひとつ印象的だったのは、市街地での取り回しの良さ。試乗したGグレードの最小回転半径は5.4mと、このクラスとしては標準的な数字だが、ヘッドラップがサイドミラー周りの風切り音低減のために飛び出ているのがボンネットの見切りの良さにつながっており、山形・米沢の旧市街地のような狭い道でもすいすいと走ることができた。この運転のしやすさはリーフの大きな美点と言える。

低重心は乗り心地の良さにも寄与していて、基本的には良好だ。また、現物を直接比較したわけではないのであくまで印象論だが、初期型に比べて静粛性が少なからず向上しているような気がした。ネガティブファクターはざらついた路面での振動抑制や、路面のうねりに対するホイールの上下動の追従性が平凡なこと。もう少し高いスペックのショックアブゾーバーやタイヤを使い、ブッシュを含めたトータルでのシャシーチューニングを丁寧にやってここを滑らかにできれば、高級車ジャンルであるプレミアムCセグメント的な乗り味になって、顧客に価格の高さを納得させる要素が一つ増えるのになあなどと、ないものねだりをしたくなったのも確かだ。基本がいいだけに惜しい。

ロングツーリングにおけるもうひとつの重要なファクターである疲労軽減については、リーフの場合まず問題とならないだろう。なぜならば、航続距離の制約によって疲労が蓄積するほど連続運転ができず、一定のインターバルで必ず充電による大休止を取ることになるからだ。少なくとも2時間程度の連続運転で疲れがたまるような粗悪な作りではないことは保証できる。

◆エコのための我慢大会だった従来モデル

パワートレインはデビュー当時と同じ、最高出力80kW(109ps)の交流同期モーター。数値的には1.5リットル級ガソリンエンジン程度だが、とくに中低速域ではスロットルを踏んだ瞬間からフルパワーないしそれに近い出力を得られるため、加速はとても良かった。日本は公道の制限速度が低いため、市街地からバイパスまで幅広いシーンでその恩恵をフルに受けられる。高速道路は相対的に苦手だが、それでも電力消費率の落ち込みを気にしなければ優速な流れに乗ってクルーズすることも十分可能だった。

ただ、このパワートレインには欠点もある。それはあまりに静かすぎることだ。リーフはモーター、インバーターの音が小さく、また車速による音程の変化もはっきりしないため、音を頼りに速度を保つことが難しい。大げさに言えば、60km/hでも100km/hでも同じような走行感なのである。ゆえにクルーズコントロールを使っていないときは、スピードメーターをよく見ておかないとしばしば速度が速すぎたり遅すぎたりということになる。このあたりの味付けは、実はルノー日産連合の傘下に入った三菱自動車が得意とするところ。『i-MiEV』はインバーターの音が車速に伴ってシュイーンというターボファンエンジンのような音が連続変化する。ドライビングインフォメーションを的確に与えるために、意図的にそういうふうにしたのだとエンジニアは語っていた。次回作においてそういう三菱自の知見が加味されると、より走り味の良いクルマに仕上がるのではないかと思われた。

これらの特性はリーフがデビューした頃から基本的に変化していないことなのだが、リーフ30で大きく変化したのは、溜め込める電力量が増えたことで余裕が増したことだった。冒頭では距離のことだけを書いたが、それ以上に素晴らしく感じられたのは、エコのための我慢大会をせずにすむようになったことだった。

ドライブしたのは昨年の初冬。福島の喜多方ではまだ紅葉が残っていたが、峠のトンネルを越えて山形の米沢側に出るとすでに冬景色という季節で、とくに往路は気温がマイナス2度~3度、しかも湿度が高く、雨やみぞれが終始降りしきるという悪天候の中でのツーリングであった。低温環境はEVが一番苦手とするシーンなのだが、従来の24kWh版であれば航続距離残を心配して暖房をつけず、ひざ掛けを使ったりして寒さに打ち震えながら走るのと同等の距離を、リーフ30は最も電力を食うデフロスター暖房を豪勢に使いながらぬくぬくと気持ち良く走れるのだ。これで俄然、クルマらしくなったと言える。

ドライブ中、試しに低温下でエアコンOFFで走ってみたらどうなるだろうと思い、道の駅での充電がてら米沢の上杉神社を参拝した後、しばらくひざ掛け+シート&ステアリングヒーターモードで運転してみた。が、低温かつ高湿度であったため、フロントウインドウがすぐに曇る。乾燥した布で窓をきゅっきゅっと言うまで拭いたりしながら懸命に視界を確保したのだが、そんなことで到底追いつくものではない。

充電後60kmあまり、天童市を走行中にふと市街地の光が自分の吐く息が真っ白なのを照らし出した瞬間、「八甲田山ごっこをやってる場合じゃない」と馬鹿馬鹿しくなってデフロスター暖房をONにした。鬱陶しい窓の曇りがたちまち消え、室内は気持ちの良い暖かな空気に満たされた。そのときに感じた熱源への有り難味といったら!!「やはりクルマはこうでなくちゃね」と、無性に嬉しくなった次第だった。

◆商品力的には長足の進歩をとげた

まとめに入る。リーフ30はEVとしての走りの良さはそのままに、蓄電量の増加によってEVをより普通のクルマらしく運用できるようになったという点で、24kWh版に比べてスペック的には本当に小さな、しかし商品力的には長足の進歩を遂げたと言っていい。

もちろん、寒気の中でエアコンをフルに稼動させると80%充電で100km程度しか安心して走れないというのでは、クルマとしてはまだまだ半人前。それを補っているのが日産が提供する、急速充電スポットを今どきのスマホのように料金定額制でいくらでも使えるというサービスだ。自動車ディーラーは街道沿いに店を構えていることが多く、道すがら立ち寄って自由に充電できるのならいいかという気分にさせられる。また、このシステムは走りたいだけ走っていいですよと言ってもらっているようなもので、それが生む“フリーダム感”はクルマで旅をすることの楽しさを何倍にも広げてくれる。

EVと言えば、それほど距離が長くない決まったルートを走るのに向いているのだが、この料金定額制を日産が提供し続けるかぎりにおいては、クルマで旅をするのが好きで、かつ旅の途中で頻繁な充電に時間を取られても大丈夫なくらいのヒマもあるというユーザーにとっても、リーフ30はとても魅力的なツールになるだろう。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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