【池原照雄の単眼複眼】スバル吉永社長、あえて顧客層は広げない…新社名でブランドに磨き

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SUBARU 吉永泰之社長
SUBARU 吉永泰之社長 全 4 枚 拡大写真

目指すは持続力伴う高収益体質

SUBARU(スバル)は4月6日、新社名での第1弾モデルとなった新型『XV』を披露した。この発表会見で吉永泰之社長は、顧客層を「広げ過ぎないこと」と、自らにも言い聞かせるように新社名でのブランド方針の一端を語った。規模追求のリターンが大きい自動車産業で、顧客層拡大と一線を画す生き方はなかなか難しく、日本の自動車メーカーで成果を収めた例は見たことがない。スバルは目下のところ、世界でも最高レベルの利益率を確保している。ブランド強化策は、業績好調が続く今こそ、高い収益性に持続力をつけるための挑戦となる。

スバルは今年、前身の中島飛行機(当初は飛行機研究所)の設立から100周年の節目にも当たる。旧社名の富士重工業は1953年からで、ブランドとしての「スバル」は、58年に自動車部門で軽自動車のスバル『360』を発売して以来、使用してきた。吉永社長は社名変更の背景や狙いについて、「世界中でスバルブランドを認めていただいたという確かな前進があったから社名とブランドを統一することとした。さらにブランドを磨く活動を加速し、スバルを魅力あるグローバルブランドに成長させていきたい」と述べた。

2つの「選択と集中」を原動力に

実際、ここ10年近くスバルは「確かな前進」を続けてきた。とりわけ、最大の販売と収益を稼ぎ出す米国では2016年までの8年間、連続で過去最多の販売を確保している。16年の販売実績は61万5000台で、記録更新が始まる前年の08年比では約3.3倍にものぼる。こうした躍進を基に16年の世界販売は101万台(前年比3%増)と、日本の乗用車8社では唯一届いていなかったミリオンセラーにも初めて到達した。

もともと、「100万台」は11年度から15年度にかけての中期計画策定時に「今後10年以内」の目標に掲げていた。20年代初頭というイメージだったので大幅な前倒しとなった。その後、14年度に定めた20年度までの中期経営ビジョンでは20年度に「110万台以上」と見直している。ただ、17年暦年の世界販売計画が109万台(8%増)なので、これもすでに射程内に入っている。

こうした成長は、00年代半ばから主力の北米市場を優先したモデル開発に舵を切ってきたことや、08年に決断した軽自動車の開発・生産からの撤退(12年2月の商用車『サンバー』の生産終了で完了)という2つの「選択と集中」が原動力となった。米国での快走に円安効果が重なった14年3月期の連結売上高営業利益は13.6%と、同社の連結業績としては初の2ケタに乗せ、終わったばかりの17年3月期まで4期連続で2ケタを確保している。

市場の2~3割の顧客層に的を絞る

ここは、一気呵成に業容拡大の好機と判断してもおかしくはない。だが、吉永社長は冒頭に示すように、顧客層を絞ることで高収益をもたらすブランドに磨きをかける方向への舵取りを選択している。ダイハツ工業からのOEM調達に切り替えた軽自動車を除く自社開発の登録車分野では、もともと「市場の全部を相手にするブランドではない」と、繰り返してきた。今回のXVの発表会見では「(顧客層を)広げ過ぎてコモディティーに行くと、スバルの魅力は減ってしまう。市場全体の2割から3割くらいのお客様の層を狙っていきたい」と、より具体的な数値でターゲット層を示した。

逆にいえば、登録車市場では7~8割の顧客層は意識しないということだ。スバルが狙う層を車両価格で区切ると、中価格帯以上になろう。目指すブランド像を「安心と愉しさ」に定め、「アイサイト」などによる安全技術、そして水平対向エンジンとAWD(前輪駆動)というスバルの走りの特質に共感するユーザーに明確に的を絞っていく。

ただし、成長を軽視するわけではない。全面改良したXVは従来の2リットルエンジン主体から、求めやすくなる1.6リットルタイプも加えた。吉永社長は「お客様の層は、過去よりは少しずつ広がっていく」とも付け加える。そこからは、強いブランドと持続力のある収益体質を築くには、「ゆるりとした成長」しかないという割り切りが伝わってくる。

《池原照雄》

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