世界中の人が自由にクルマで移動できる社会を…移動“格差”解消の伝道師

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ニコ・ドライブの代表を務める神村浩平氏
ニコ・ドライブの代表を務める神村浩平氏 全 26 枚 拡大写真

10月半ばの雨の日曜日、神奈川のカーディテイリングショップ「アスナル」が開催するセミナーに取材に訪れた筆者。ふとプログラムに目を落とすと、そこには見慣れない内容が。

「クルマで障がい者の自立した移動手段を ハンドコントロールについて」

と題されたセミナーは、カーディテイリングとはかけ離れた意外性とともに、筆者の興味を大いに引いた。

さて、セミナープログラムの最後に登壇したのが、車イスで現れた一人の男性。川崎市内にあるニコ・ドライブという会社の代表を務める、神村浩平氏だ。
時間になると、その落ち着いた雰囲気のまま話を始めた。


神村氏は現在33歳、16歳の時に乗っていた原付バイクでクルマと事故を起こし脊髄を損傷した。以来、下肢障がいとなり、足は動かず歩けない生活を送っているのだという。

「クルマに乗れる人を一人でも増やすことで、社会参加する喜びを理解してもらいたい」と移動格差解消への強い“想い”を語る神村社長。その想いを実現するため、現在、「ハンドコントロール」という運転補助装置を取り扱い、「移動格差を解消する会社」をスローガンに全国各地で拡販と普及活動を続けている。

画期的な運転補助装置「ハンドコントロール」とは

同社が開発、販売する「ハンドコントロール」は、運転補助装置として画期的と言っても言い過ぎではないだろう。一般的に運転補助装置と言えば、通常の車両に大掛かりな改造を施して、その人専用にクルマを作り上げるイメージだ。ハンドコントロールはその名の通り、手の動きだけでアクセルとブレーキを操作する装置で、驚くべきは、取り外しが自由で取り付け工事も不要という点だ。見た目は自転車の“空気入れ”のようでコンパクト。折りたたみもでき、何より持ち運びができるという大きな特徴がある。重さもたったの900gで、運転補助装置という言葉の印象からは、いい意味で程遠いツールだ。
中でも最も画期的と言えるのが、ほとんどのクルマに対応することで、クルマを選ばずに使えることにある。つまり「ハンドコントロール」さえ持っていれば、いつでもどこでもどんなクルマの運転にも困らないということだ。



セミナーの終わりには、神村氏本人が車イスから自家用車に乗り込む所から、ハンドコントロールを取り付け、運転するまでの実演を行った。クルマを動き出させるまでに3分とかからず、手軽に使えることを実証した。また、押すとブレーキ、引くとアクセルというシンプルで直感的な動きは、筆者も実際に操作させてもらったが、「動作を意識しなくても、感覚で操作ができる」自然な操作性で安心感がある。また、そのシンプルさ故、安全性を心配する人も多いというが、世界で最も厳しいと言われるオーストラリアの法律の基準をクリアしているので、信頼性においても問題が無い。



◆障がい者にとって、クルマとは

このような商品が生まれる背景には神村氏が語る、障がい者にとってクルマの運転がいかにハードルが高いものかということがある。身体障がい、特に足が悪い人にとってのクルマは無くてはならないもので、どこかに行く時には必ずクルマを使う。例えば、足の障がいを持つ人は30万人ほどいるが、その6割の人は免許を取得し、自分のクルマを所有、運転して移動をしている。だが、残りの4割の人は、自動車の購入そのものや改造費が高額ということ、免許を取ること自体が難しく運転を諦めざるを得ないというのが現状だ。

特に、身体障がい者が免許を取れる環境を整えている教習所というのは、全国1,300箇所のうちわずか1%しか無く、対応していない教習所では、自らで車両を購入し、持ち込んで教習するしかないのだという。購入するにしても、改造車は残価を設定するのが難しく、購入の仕方の選択肢がほぼ無い。

また、購入した後も「自分専用」のクルマなので、事故や車検などの整備、修理でクルマを預ける際の代車(レンタカー)がなく、預けている間、タクシーで通勤したりしなければならなくなる。



◆自由に好きなクルマに乗れる喜び

これらの問題を“ひとつの製品”で解決するために開発されたのがハンドコントロールだ。この製品のおかげで、就職や起業といった社会参加を果たした人が増えていると話す神村氏。例えば、二種免許を取ってタクシードライバーになったりする人もいたりと、身体障がい者の新しい働き方の提案につながっている。

加えて、現在では、ハンドコントロールを教習所やクルマの販売店、レンタカー店舗など、60近い店舗で利用できるまでになった。また、障がい者のために会社を作ったが、ケガなどで足が動かせない、リウマチで足がしびれる、糖尿病で足がしびれる、それでも通勤でクルマを使うといった人の需要もあり、最近では健常者の購入が3割を超えているのだという。

神村氏自身、「振り返ってみると、私が障がいを持ちながらも楽しい青春時代を送って来れたのも、18歳の時にクルマの免許を取れたからだと思います」と、その想いのルーツを語る。そして、「身体障がいなどの移動格差を無くし、世界中の人が自動車を使って自由に出かけられる社会を一緒に作りましょう」そう繰り返し話す姿には、温厚の語り口の中にも普及活動への情熱を感じさせた。
目指す姿を実現するため、汗を流して今日も奔走する。

【あの名物社長に聞く】世界中の人が自由にクルマで移動できる社会を目指す…移動“格差”解消の伝道師「神村 浩平」

《滝澤 俊次郎》

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