大型観光バスのフロントガラスにプロテクションフィルムを貼る!

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真剣な表情で作業を進める山田代表
真剣な表情で作業を進める山田代表 全 26 枚 拡大写真
大巨人に人間が立ち向かう大人気マンガといえば『進撃の巨人』があるが、今回、潜入した現場では、大きな乗り物に立ち向かう人々を追うことができた。

その相手の正体は「観光バス」。

見上げると首が痛くなるほどの大きなバスに、身体一つで向き合うショップ店主の取り組みに密着し、その様子をお届けする。この話には、普通の乗用車に乗る多くの一般ユーザーにも耳寄りとなるアイテムが登場するので、そちらもぜひご注目を。

題して『進撃の大型バス』(?!)。ぜひ、ご覧ください。

◆観光バス会社で注目を集めるアイテム

栃木県栃木市にあるTCB観光。栃木インターチェンジのほど近くにあり、観光バスの管理・運行を行う同社から依頼を受けたのが、東京都江戸川区に店舗を構えるディテイリングショップ「マキシム」の山田輝実代表だ。





目の前にあるのは40~50人程の収容力を誇る、大型バス。そして、施工部分となるのが『フロントガラス』だ。普通のクルマのガラスの10倍ほどあるのではないかという部分を眺めながら、一緒に作業を行うスタッフと入念な打ち合わせを行う山田代表。ここから一体、何が始まるのだろうか。



その施工内容は、「フロントガラス用のプロテクションフィルム」を貼るというもの。飛び石などの影響で、“パリッ”とガラスが割れてしまう被害を抑えるための施工が今回の依頼となる。



実は今、大型バスを運行する観光会社で、このアイテムがにわかに注目を集めているのだという。

◆1枚交換すると80~120万円!

大型バスは、高速道路を走行する時間が格段に長いことに加え、フロントガラスが垂直に立つ構造となっている。

飛び石が当たりやすい環境下での長距離走行を余儀なくされるうえに、構造上そのダメージをもろに受けやすい。そのため、フロントガラスが割れる危険性は、一般車のそれとは比にならないほど大きくなる。同社の佐橋智美副社長によると「何も処置をしないと、最低でも年間で5~6枚は交換している」ということだった。



さらに厄介なのが、そのお値段。

クルマの全体台数に対して、バスが占める割合はとても小さい。そのため、ガラスの大量生産が難しく、1枚1枚の価格は相当なものになる。その額、1枚交換するだけで80~120万円というのだから驚きだ。台数の規模が大きい会社では年間2000万円ものお金がガラス交換に費やされる…なんてことも。ちなみに、こちらも一般車に比べると大きなガラスを使用するトラックは、台数自体が多いため、1枚交換する額は10万円にも満たないとのこと。いかにバスが特別なものかが分かる。



さらに、交換を待つ間、運行は休止。3日間程度は動かないことを見込まないといけない。コストや売り上げの面ももちろんだが、運行スケジュールにも大きな影響が出る。これらを考えると、バス会社が抱える苦悩たるや想像に容易い。

そして、そこで白羽の矢が立ったのが、フロントガラス用のプロテクションフィルムというわけだ。

◆大きなバスに手作業で立ち向かう

では、どのように巨大なフロントガラスにフィルムを貼っていくのか。その方法は、ずばり「手作業」。地道に1枚1枚貼っていくしかない。





作業場は高さ1メートル50センチほどの足場の上。その上を右へ左へと、施工位置に合わせて移動していく。著者も足場に立たせてもらったのだが、これがなかなかの高さだ。恐怖心のあまり、移動するだけでも精一杯。ここで何か作業をすると考えると…思わず足がすくんでしまう。





その足場をスイスイと移動しながら施工する山田代表。時に無理な体勢をとりながら、目の前のガラスにフィルムを貼っていく。さらに、これほど大きなガラスになると、フィルム1枚で全体を覆うことはできない。依頼内容に応じて、ガラス全体を数カ所に分け、その形状ごとにフィルムを形づくる。一度フィルムを貼り、サイズを測った後に、剥がして、切る。それを、改めてキチッと貼るという一連の流れを、手慣れた様子でこなしていく。









サイズにもよるが、だいたい1台の施工時間は、準備から仕上げまでで2~3時間程度。その間は、施工後にフィルムが浮いてきたりしないよう、集中した作業が続く。そして、パッと見では特段変化があったようには見えないが、確実に強固となったフロントガラスが完成する。







◆最初は苦労の連続だったバスへの施工

普段は一般ユーザーへの施工を中心に行っている山田代表が、バスのフロントガラスへの施工を始めたのは約4年前。この日も使用していた「Clear Plex(クリアプレックス)」というフロントガラス用のフィルムで、バスにも適用できる商品を見つけたことに起因する。「普通のクルマに施工するのと、要領は同じだろう」と思って始めたものの、いざ施工を開始するとあまりの勝手の違いに驚いたという。

「初日は、全く貼れずに、形にもならなかったです。すぐにリベンジの機会をもらって、そこで色々やり方を試しました。最終的に何とか貼れたのですが、朝から始めた作業が終わったのは、午前2時でした」

その後も依頼を受けるのだが、何せ前例が無い作業。ノウハウを1から作る必要があった。失敗したらやり直すため、材料費はかさむ(バス専用のフロントガラス用フィルムのため、材料費が普通のものより高いそうだ)。きちっとできたと思っても、数日後にはクラック(ひび割れ)や、浮いてきたというクレームが舞い込むことも。「普段の作業とは全くの別物。理由も分からない」という状態のなか、試行錯誤が続いたという。



それでも、興味を持った会社からの依頼が絶えることはなかった。完成していなかった技術にオファーが舞い込むのは、裏を返すと、バス会社がこの技術に大きな期待を寄せていたことのあらわれともいえる。そこからは現場でより良い施工方法を模索しながら、技術をブラッシュアップしていった。そして、施工方法が確立された今では、山田代表のもとには最低でも月に1~2回程度の依頼が舞い込み、各地を飛び回る日々を送っている。



◆“難敵”の冬場を見越して

佐橋副社長に導入後の効果を聞くと、施工前は年間5~6枚割れていたガラス被害が、今は「1枚あるかどうか」だそう。しかも、「リペアで修理がきくレベル」になったのだから、効果は絶大なようだ。当然、社内での評判も良く、「他の会社にもオススメして、そこが実際に施工を依頼するというケースも増えているみたいですよ」と同業者への“口コミ”も行うほど、その恩恵を感じている。

実際、山田代表はこれまで、張り替えも含め約250台の大型バスにフロントガラス用のプロテクションフィルムの施工をしているが、貼った後に割れたケースは3、4台ほどだという。また、米国のクリアプレックス社も、同様のケースは「全体の2~3%」と回答している。

もちろんこのアイテムは、バスに限らず、一般ユーザーにも大きなメリットを生み出す。その現状を、山田代表はこう語る。

「(2012年の)保険料率改訂によって、飛び石によるガラス交換の等級据え置きが廃止され、これまでのように気軽にガラス交換ができなくなりました。そこから、一般ユーザーに対する施工が増えています。また問い合わせも以前より多くなっており、ヒビが入ることや、割れることを未然に防ごうと考える人が増えていることを実感します」

さらにこれからの時期は、ノーマルタイヤに比べて溝が深いスタッドレスタイヤに履き替える人も増えるため、飛び石による被害の割合も増えてくる。実際、TCB観光が今回の依頼をこの時期に出したのは、「スタッドレスタイヤに履き替え、毎年ヒヤヒヤしていた冬場に間に合うように」というのも理由の一つにあるそうだ。

◆最後まで楽しい旅行を!

もちろん魔法をかけているわけではないため、すべての飛び石被害をゼロにすることは不可能だ。しかし、キズや軽度の飛び石に高い効果を発揮し、さらに「ヒビが広がることを抑制する効果もあるため、ガラス交換を回避することは可能」と、山田代表はその効果に太鼓判を押す。愛車を守るアイテムとして、今後より多くのユーザーに広まっていく可能性も十分に考えられる。

著者はよく大型の音楽フェスなどに行くのだが、これらのイベントではチケットの購入が少しでも遅れると、「駐車券付きチケット」が売り切れてしまうため、高速バスで会場入りすることもかなり多い。つまるところ、なかなかのヘビーユーザーなのだが、今回の取材ではこれまで気づかなかった発見や、思わず「へぇー」と頷く場面が多かった。

なかでも驚いたのは、やはりフロントガラスの値段だったのだが、それに関して、こんな“こぼれ話”を耳にした。酔っ払った乗客などが、ごく稀にフロントガラスを割ってしまうというトラブルがあるらしいのだが、そうなった時は全額弁償というケースもあるのだそう。そして、その請求書を見た時の表情といったら…何となく想像がつくだろう。

今回はフロントガラス用のプロテクションフィルムの有効性だけでなく、楽しかったはずの旅行が、一瞬で“悪夢”に変わる可能性もあるほど、バスのフロントガラスが高価なものだということも併せて覚えておきましょう! そして今までとは別の視点でバスを眺めていると、皆さんを乗せて走るまでに多くの人々の力が結集しているんだな。そんなことを痛感する取材となった。



【潜入レポート】身体一つで大型の◯◯に立ち向かうカーディテイラー…一般ユーザーにも“効果大”のアイテムが活躍!

《間宮輝憲》

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