夜ごと繰り返されるリニアの「準備」…JR東海、品川駅の工事を初公開

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東海道新幹線の品川駅構内で行われた工事桁設置工事。リニア中央新幹線の地下駅設置に向けた準備工事だ。
東海道新幹線の品川駅構内で行われた工事桁設置工事。リニア中央新幹線の地下駅設置に向けた準備工事だ。 全 26 枚 拡大写真

JR東海は11月25日未明、東海道新幹線の品川駅(東京都港区)構内で行われている工事を報道陣に公開した。2027年の品川~名古屋間開業が予定されているリニア中央新幹線の工事の一環。都内のリニア工事が公開されるのは初めてだ。レール下の石(バラスト)と枕木が、わずか数時間で仮設の鉄桁(工事桁)に入れ替わった。

今回公開されたのは、東海道新幹線品川駅の23番線で行われた工事桁の設置工事。設置範囲の長さは10mほどで、列車の停止位置では8号車付近になる。作業員の総数は約100人に及んだ。

11月24日の営業運転が終了し、日付変わって25日の0時過ぎに工事が始まった。まずは工事桁を設置する範囲のレールを切断。その後、作業員がかけ声でタイミングをあわせながら、レールを1本ずつ東京方に移動させた。

この間、ショベルカーらしき物体が設置範囲の両側で、いつの間にか1台ずつ待機していた。よく見ると、バケットが手前側に向いた「バックホウ」と呼ばれる建設機械。軌道上の走行に対応した車輪も付いている。

レールの撤去作業が終わると両側のバックホウが設置範囲に近づき、枕木周辺のバラストを押しのける。その後、枕木をアームにくくりつけて撤去。残ったバラストはバックホウのバケットですくい、隣接する22番線にやってきた工事用列車の無蓋車に放り込んでいった。

バラストが全て取り除かれると、設置範囲の両側には「受架台」と呼ばれるコンクリートの塊と、受架台を防護していた木のブロックが姿を現す。受架台は工事桁を支える台で、今回の作業の前日までに設置されたものだ。

23番線の名古屋方では、台車に載せられた工事桁、そしてその奥にはクレーン車が既に待機していた。一つの作業が行われている間に次の作業のための建設機械や工事用列車が続々と姿を現し、息つく暇がない。クレーン車はドイツ・キロフ社製の鉄道クレーンで、長さは在来線の旅客車より少し短い19m。重さは約130tで、最大80tの物体をつり上げることができる。クレーン前方の工事桁は長さ12.4m・幅3.0m・高さ0.6mで、重さは約26tある。

工事桁がアームにくくりつけられて台車が取り外されると、鉄道クレーンは工事桁をつり上げた状態でゆっくりと進む。工事桁が設置範囲の真上に入り込んだところで停止。微調整を行いながら少しずつ下ろされ、受架台に設置された。

時刻は2時を少し過ぎたところ。工事桁の設置が完了した段階で、報道公開は終了した。JR東海が事前に示したスケジュールによると、この後のレール復旧作業は3時からの予定だったから、工事は順調に進んだことになる。レール復旧後は「確認列車」と呼ばれる試運転列車を運転した上で、営業開始時刻の6時を迎える。

■「準備のための準備」を事前に実施

中央新幹線の品川駅(中幹駅)は、地上にある東海道新幹線品川駅(海幹駅)の地下約40mに建設される。駅施設の長さは全体で約800m。南側は上下2本の線路と上下線をつなぐ渡り線が設けられる。北側は長さ約400m、幅約60mの範囲に島式ホーム2面と線路4本が設置される計画。2016年1月に工事が始まった。

地下駅の工事としては一般的な開削工法を採用しており、地上から下へ掘り進んで中幹駅の施設を構築する。しかし、中幹駅の上には営業中の海幹駅がある。真上から掘削するのは不可能だ。しかも、中幹駅の建設範囲には、既に設置されている海幹駅の基礎もある。このため、海幹駅の脇から中幹駅の掘削工事を段階的に進めつつ、海幹駅の基礎を中幹駅に干渉しない範囲で新たに建設していく必要がある。中央新幹線では南アルプストンネルに並び、難工事ポイントの一つとされる。

工事はまず、中幹駅の建設範囲を囲むようにして鉄筋コンクリートの壁(土留壁)を構築。これと並行して、海幹駅の基礎を新しいものに受け替えるための準備を進める。今回公開された工事桁の設置工事も、基礎を受け替えるための準備の一環だ。

土留壁が構築されたら掘削工事に入るが、地下約10mまで掘削した段階で一時中断。海幹駅の新しい基礎を構築して受け替える。その後は地下約40mまで掘削しながら中幹駅の施設を構築して完成。この段階で海幹駅の工事桁はバラストと枕木の軌道に戻される。

工事を難しくしているのは、中幹駅の上に海幹駅があるためだけではない。東海道新幹線は6時から24時まで営業列車がひっきりなしに運行されているため、工事桁を設置できるのは0時から6時まで。営業開始の6時までに確認列車も運行しなければならず、実際の作業時間は約4時間に限られる。

この短い時間内で設置を完了させるためには、受架台をあらかじめ設置しておかなければならない。「準備工事を行うための準備工事」も必要というわけだ。それでも、10mほどの工事桁を一晩で一つ設置するのがやっと。「準備のための準備」も含めると、一つの工事桁を設置するのに一週間前後の期間が必要だ。今回の工事桁は六個目の設置になるが、全体では123個の工事桁を設置しなければならない。気の遠くなるような作業が、今後も続くことになる。

いっそのこと、東海道新幹線を長期運休して一気に工事桁を設置できないかとも思う。しかし、日本の三大都市を結ぶ東海道新幹線の1日平均通過人員(旅客輸送密度)は、2014年度で24万8560人。長期運休となればJR東海の経営だけでなく、日本経済にも大きな影響が生じる。

JR東海中央新幹線建設部の林保弘担当部長は「(長期運休は)ありえない。新幹線を止めるということは、たぶん許されないだろうと思う。必ず止めない、営業を通常通り続ける。それを前提に施工計画を決めた」などと話し、工事に伴う東海道新幹線の運休は行わない考えを示した。

《草町義和》

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