第6回カーデザインコンテスト開催…皆の目標となる作品を目指して

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第6回カーデザインコンテスト表彰式
第6回カーデザインコンテスト表彰式 全 16 枚 拡大写真

公益社団法人自動車技術会が主催し、そのデザイン部門委員会が企画する第6回カーデザインコンテストの表彰式が開催された。このコンテストは次世代のカーデザイナーを育てる人材育成プログラムの一環として開催されている。

◇“創造人づくり”の大切さ

現在クルマを取り巻く環境が100年に一度といわれるくらい大きく変化しており、革新的な技術も登場している。「こうした技術革新は、我々の生活の中でのクルマのあり方、使い方を大きく変えるといわれており、新たな時代における将来像を作り出すことが必要になって来ている」とは、デザイン部門委員会人材育成ワーキンググループリーダー、トヨタの山和紀久子氏の弁。

特に、「変化が大きく先が見えにくい時代では、進むべき未来の方向性や、目標をイメージ出来る自由な発想力や想像力に優れた人たちを育てていくことが大切。これが“創造人づくり”だ」と述べる。中でもデザイナーは、「まだ世に存在しないものを絵やモデルなどのイメージで見せて、目標をみんなで共有させることが出来るとても重要な役割」という。

一方、カーデザインを取り巻く状況では、「クルマ離れ、モノ離れの傾向や、新興国の台頭という懸念とともに、教育の中で創造する喜びに気づく機会が減りつつある」と指摘。そこで各社のカーデザイナーがメーカーの垣根を越えた組織、自動車業界デザイン部門委員会をフルに活用し、「創造する喜びが学べる場づくりを推進することにした。それが次世代カーデザイナーの人材育成プログラムだ」とこのコンテストの背景を語る。

そこで、「感受性の強い思春期の中高生に焦点を当て、自分は何をやりたいのか、これからどんな仕事をしていきたいのかを考え始める時期に、創造する楽しさへの気づきを通じて、成長を支援する“カーデザインに挑戦”というホームページを制作した」と述べる。ここには3つの扉があり、“学習の扉”では、カーデザインという仕事のやりがいや必要な能力、 絵を描くまでが学べ、“進路の扉”は、学校や就職の方向性を紹介。そして“コンテストの扉”がこのコンテストになる。「この3つの相乗効果で、自らが学べる機会を提供している」という。

そして、「この活動を通じて、カーデザインという仕事に興味を持ってもらい、成長を促し、最終的には世界をリードするすごいカーデザイナーの誕生につなげていきたい」と思いを語った。

◇今回は253作品が応募

第6回のデザインテーマは前回と同様、“10年後の暮らしを楽しくするクルマのデザイン”で、「現在のクルマにとらわれず、全く新しい発想のオリジナリティ溢れる革新的なデザインを募集した」と山和氏。

応募資格は全国の中学生をA部門、高校生・高専生の1年生から3年生までをB部門とし、応募期間は昨年の11月1日から本年の1月20日までの約3か月。

審査基準は、自分が考えているイメージや機能が絵に表現されているか。新規性、進歩性、独創性があるかを、デザイン部門委員会の全委員とエンジニア、総勢31名で厳正に行われた。

賞の種類は4つある。まずトータルに最も優れた作品であるカーデザイン大賞。これは A部門B部門合わせて1名。次にイメージや機能が最も優れて絵に表現されているカーデザイン賞。そして工学的な工夫に優れた作品であるダビンチ賞。この2つの賞は、 A・B部門1名ずつそれぞれ2名に。最後は創造性に優れた審査員特別賞1名が入賞となり、最終審議に残った作品を佳作としている。

今回の応募総数は253案あり、一次から三次審査を経て最終審議へ進んだ27案が佳作以上とし、それら全案に対しデザイン部門委員会の委員から一人一人にアドバイスレターが送られる。

◇5案が受賞、大賞はなし

今年は以下全5案が受賞し、それぞれのデザイン部門委員会デザイン振興ワーキンググループ、本田技術研究所の田村健司氏により以下のようにコメントされた。

・ダビンチ賞A部門:三浦萌さん 神戸市立広陵中学校2年 『未来の消防車』

危険な火事現場を想定し、消防車の中に自動で動く一輪車を搭載。その機動性を活かし、危険な火事現場へ消防隊員を送り込まずに、技術で解決したいという優しい思いが形に現れている。さらにこの一輪車はホースで繋がるので水を供給出来るという細かいアイディアまで盛り込まれている素晴らしい案。もうひとつ空からドローンで放水するというアイディアもあるが、このドローンへの水の供給や、消防車本体のデザインにも一工夫あるとさらに良くなった。

・ダビンチ賞B部門:高木海斗さん 熊本県立大津高等学校2年 『Smart7』 

ドライビングを楽しむスポーツカーで、都市部の駐車場事情も考えクルマを小さく折りたたむというのは大胆な発想だ。しかもこの折りたたみ機構はアシストモーターを使ったもので、その一生懸命考えたアイディアが絵に具現化されている。クルマがどのような使われ方をするかを絵に表現するのがデザイナーの仕事で、それがとてもよく表現されている。例えばローアングルからの迫力あるスケッチで、車高が高く見え、さらにタイヤパターンを描き込むことでオフロード走行をイメージさせるものになっている。ただし、たたまれた時のデザインが、名前の通りスマートだったらさらに良い提案になっただろう。

・カーデザイン賞A部門:沖林和幸さん 神戸市立広陵中学校3年 『air(エアー)』

外観はすごくきれいでシンプルだが、複雑なメカニズムを備えており、ひとつのパッケージにコンパクトにまとめあげたデザインは素晴らしい。さらにそのメカニズムのレイアウトまで書き込まれた力作である。工業デザイナーはメカニズムやその役割、そして材料を理解してデザインすることが求められる。この作品はターボエンジンを使っているようだが、その構造も具体的に図で説明しているのはとても良い。どんな乗り味なのかワクワクする楽しい提案に仕上がっており、まさに今回のテーマである10年後の暮らしを楽しくするクルマのデザインになっている。

・カーデザイン賞B部門:岩片智さん 東京都立工芸高等学校1年 『癒バス』

日本古来の畳がすごく似合うスクエアな内装デザイン。しかも移り変わっていく景色を絵画に見立てるように額縁で見せ、これを大胆に配置した内装デザインに対し、一見デザインしていないようにも見えるが、すごく絶妙なバランスの大きな窓が特徴だ。この窓枠などのバランスを取るのもデザイナーの大事な仕事なので、それがスケッチに上手に表現されている。未来の移動がすごく楽しくなる、魅力的な提案だ。

・審査員特別賞:鈴木優里香さん 女子美術大学付属高等学校2年 『SKETCH』

クルマをスケッチブックに見立て、乗る人の気分によってボディカラーが変わるというアイディアが絵にとても表れている。コンセプトボードも丁寧に書かれており、文字一つ一つもきちんとレタリングしてあり素晴らしい。このアイディアは企業の宣伝カーや営業車にも応用出来るのですごくいいアイディアだ。また、絵の苦手な人のためのカメレオン機能や巨匠機能など、乗る人がワクワクするようなアイディアがたくさん盛り込まれている。親しみが持てる外観の可愛らしいデザインと、クルマの楽しさ、新しい価値を表現している魅力的な提案だ。

◇一番ではなく目標となる作品にしたいという思い

第6回のカーデザイン大賞は該当作品なしとなった。その理由について山和氏は、「応募作品全部の中から一番優れた作品を大賞とするのではなく、このコンテストに応募する人たちの目標となるレベルに達しているかどうか、それで判断することにした」とコメント。

その大賞に求めるものは、「トータルに優れているもの。具体的には、特徴や機能がどんな楽しさや嬉しさに結びついているのかが説明出来、考えたことが形や絵に表現されていること。形がある塊を持って美しく表現されていること。そして、発想に新しさやオリジナリティがあり、また、未来を感じさせること」という。この全てを高いレベルで揃えることはプロのデザイナーでも難しいことだ。しかし、「例え中高生であっても大賞ではこれらのことが、人の心を動かす程に達成出来ているかだと考えた。今年の大賞作品の候補もとてもよく考えられていると思う。しかし残念ながら心を打つというところが足りなかった」と苦渋の決断だったことを明かす。

そして、「自動車産業が大きく転換する時代において、未来の理想型を目に見える形にするデザイナーの役割はますます重要になる。そのやりがいと厳しさに挑戦し続ける人になってほしい。大賞は皆の目標となるものであってほしい」と語る。

もうひとつ山和氏は、「このコンテストには何度でも挑戦出来るもの。何回も挑戦して上の賞が取れることもあれば、前よりも良い賞を取れない時もあるかもしれない。しかし大事なことは結果が良い時だけが成長しているのではなく、新しいことにチャレンジして上手くいかない、それも成長なのだ。今、目標を見える化出来るデザイナーの能力が様々な分野で求められ、その期待はますます大きくなるだろう。10年後の皆さんに素晴らしいデザイナーになってもらうために、我々の決断を受け入れてほしい」と今回の全応募者にコメントした。

◇もっと考える練習を

デザイン部門委員会委員長、本田技術研究所の高嶋晋治氏は、「自動車産業を取り巻く環境は大変化している中で、デザインが果たす役割はますます重要になりつつある。単に格好良く見せたいとか、形を整えるという概念から、新たな時代の価値を生み出すための全体設計まで、デザインの領域が広がっている」とし、「色々な思いをひとつの形として描く視覚化したスケッチは、その考えを多くの人と瞬時に共有化出来、それを具現化するために色々な議論を導き出すステップにつなげることが出来る手段。絵を描く、表現するという表現力は非常に重要だ」と話す。

しかし、「そのスタートは自分がどうしたいか、そういう思いだ。世の中や社会、色々な人たちのために自分はどうしたいか、そういう考える練習も絵を描く練習とともにやってもらいたい。そして、未来をこうしたいという思いをひとつに固め、リード出来るようなデザイナーになってもらいたい」とエールを送った。

今回もこれまで同様、表彰式の後に現役デザイナーが全受賞者一人一人についてデザイン講習会が行われ、用具の使い方やスケッチの方法など具体的なアドバイスが行われた。それを受けダビンチ賞A部門受賞者の三浦萌さんは、「自分が思ったことを具体的な形に表現することの難しさに気づいた。今までは自分が思った通りそのまま自由に描いていたが、プロダクトデザインだと使う人のことをきちんと考えてデザインすることも大事。形としての美しさも大事だということを学べたのでいい経験だった」とコメントし、会場にいるデザイナー全員を沸かせた。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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