【新潮流カーライフ】「クルマの”賃貸”という”新しい当たり前”をつくりたい」ナイル高橋飛翔社長インタビュー

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ナイル株式会社高橋飛翔社長
ナイル株式会社高橋飛翔社長 全 10 枚 拡大写真

トヨタ自動車の豊田章男社長は「自動車業界は100年にいちどの大変革の時代に入った。」と社内変革に力を入れている。業界だけでなくユーザーのカーライフも大変革の時代に突入しつつある。以前から言われている「若者のクルマ離れ」も近年の個人向けカーリースの急拡大もその予兆とも言えないだろうか。

そんな中、1月に公開されたサービス「カルモ」も、新しいカーライフを提案するサービスのひとつだ。“マイカー賃貸”を掲げるサービスは、車種の選定から審査申込手続きまでを全てオンライン上で完結し、月定額でマイカーを保有できるのが特徴だ。そう、サブスクリプション契約に近いマイカー保有のスタイルを打ち出している。

立ち上げたのは、企業のウェブマーケティング支援事業などで知られるナイル。自動車事業へは新規参入となる。なぜ今、IT企業が「クルマ」なのか? 同社の社長、高橋飛翔氏に事業背景や想い、展望から自身の生い立ちまで聞いた。


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クルマの“賃貸サービス”=カルモ

---:クルマの新しい保有方法として話題を集めているカルモですが、まずこの事業が目指すものを教えてください。

高橋飛翔氏(以下、敬称略):「クルマの保有」を、ユーザー目線に立って考えていきたい。これが、カルモの根底にある想いです。クルマを保有する時に感じる手続きの多さ、時間的心理的な高いハードル。それらを緩和することを目指しています。

---:確かにクルマの購入や所有は満足度が高い反面、面倒なことも多いですね。

高橋:ユーザーはクルマについてすごく分断された購入体験をたどっています。クルマの購入から維持、管理に至るまで、ひとつの窓口で済まなくて色々と手間がかかりますよね。一日ディーラー巡りをして、ローンを組んで購入。さらに保険に加入して、税金を払って、整備やメンテナンスをして…。ここを一気通貫して、ある一社とやり取りをしていれば全部最適に手配してくれる。それだけでも相当、保有に関する抵抗は緩和されると思っています。

---:これまではディーラーが手続きのワンストップステーションの立場を長年担ってきましたが、今は必ずしもその体験を提供する存在ではなくなっているのはなぜでしょう。

高橋:ネットとの分断が大きいと思います。我われ世代にとっては不自由にさえ感じられます。ネットでクルマを選んで、出かけても同じ説明をどのディーラーに行っても聞かされます。保険も自分に合ったものを即座に案内して欲しいし、メンテナンスだって、自分がクルマに乗る期間に応じて、スパッと月額定額でリンクされたら楽です。こんな“滑らかな購入体験・保有体験”を作りたい。それにはスマホやPCのネット活用がポイントになるはずです。

---:“滑らかな体験”はどのようなところで感じることができますか?

高橋:例えばIDOM(旧ガリバー)さんと提携させてもらい。現在、クルマを所有している人が”賃貸”申込をした場合、買取と納車が普通に同日行われるようなサービス設計を行っていきます。今後も様々なバリューチェーンの代表企業と手を組み、ユーザーにとって最適な購入体験を創出することを、やっていきたいです。

「新しい当たり前」を生み出すチャンス

---:ナイルという会社は、もともとどのようなビジネスモデルで成長したのですか?

高橋:当初は、リスティング広告やサイト制作など、色々と展開していたのですが、2010年からSEO事業に一本集中して売り上げが伸びました。その後メディア事業を行い、今回カルモを立ち上げたという経緯です。

---:カルモはメディア事業の一環ということなのでしょうか?

高橋:メディアとは全く別の試みです。私たちは、カルモを「モビリティサービス」と考えています。

---:それはどういうことでしょうか?

高橋:これからクルマの領域は、EVやコネクテッド、シェアリング、自動運転と、ネットの世界で起きたスマートフォン級のイノベーションがどんどん進みます。10年後では、モビリティ領域は全く異なったものになっていくでしょう。こういう変化が大きい分野こそ、我々みたいなベンチャー企業にとってのチャンスがあると思います。変化が大きいからこそ「新しい当たり前」を作ることができる。それを自分がやっていきたい、そんな想いで始めました。

---:モビリティの変化の中、「クルマの保有」という部分に注目したのは?

高橋:いま、クルマを日常的に利用するにあたっての、「所有」と「共有」という2つの大きな選択肢が見えています。でも、所有と共有の“中間”と言えるサービスは、まだまだ顕在化しておらず、そこに着目しました。現在の多数である所有の人たちが、共有に移ってゆく流れが生まれるとしたら、所有に近いけれど共有の要素も含むサービスを求める人が増えるのではないかと予想しています。所有と共有の中間地点にある「賃貸」という部分に、「新しい当たり前」が生まれるチャンスがあると考えたのです。


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政治家志望から一転、起業家の道へ

---:それでは、少し高橋社長自身のお話を聞かせてください。東京大学法学部出身で現在32歳ということですが、もともと起業家としての道を思い描いていたのですか?

高橋:小さい頃の夢は政治家だったのですよ。『世の中に残るようなものを作って死にたい!』って考えていました。ところが、大学2年の時に、東大生の家庭教師派遣事業を始めました。その後、オンラインで東大生が勉強を教える予備校「Web予備校楽スタ」というコンテンツも立ち上げました。

---:総理大臣になりたかった?

高橋:そう、首相になって、すごい政策を立て、みんなを幸せにするために、どうするべきか? そう考えて、一番首相を輩出している東大を目指しました。

---:優秀だったのですね。

高橋:いや、それが、むしろ高校では下から数えた方が早いぐらいの成績でした(笑)

---:急に親近感が湧いてきました(笑)

高橋:当時の僕の学力からすると東大合格は遥か遠い目標という感じで、浪人も経験しました。でも、もともと大きな目標を立てると燃える性格なのです。

---:そこまで努力を積んで、政治家への目標に近づいたのに、どうして起業家の道へ?

高橋:入学後は、大学の先輩の政治家や官僚の方などと話す機会が結構あったのですが、既存の枠組みの中で、やれることの少なさというものを感じました。「これは目標を達成するまでに時間がかかるな」って感じる中で、自分が経営者になって世界中にインパクトを与えられる事業を作る方が、アグレッシブで楽しいと思ったのですよね。

---:在学中から起業してしまいます。行動が早いですね。

高橋:座学だけの授業を受けているだけでは、つまらなすぎて大学に行かなくなるっていう予感がありました。当時、起業サークルに在籍していたのですが、空いた時間でビジネスをやりたいっていう想いが強くなって。「余った時間を無意味に過ごすよりはいいかな」というのが、当時の気持ちでした。

---:それで、今に至るというわけですね。

高橋:本当は、卒業したら就職しようと考えていました。でも、実際にやってみると全く結果が出せなくて。「Web予備校楽スタ」が大失敗したんです。負けっぱなしで終わるのが嫌だったのですね。卒業後も事業を続けることにしました。

ユーザー視点で「滑らかな購入体験」作りをする

---:大きな目標を立て続けてきた高橋社長ですが、カルモの今後についてはどのような青写真を描いていますか?

高橋:現在、オンラインでクルマを選んで、お申し込みができるのですが、最終的には契約まで全てオンライン上で済むようにしたいと考えています。保険も、数クリックで加入が完了するようにしたいですね。駐車場を探して、それをシェアリングすることで資産運用ができるモデルなど、まだまだやれる事は多いと思っています。

---:クルマに必要になる部分を全てカバーしてくれるようになると、ありがたいですね。

高橋:そしてその先で、『車両の共同賃貸』や『賃貸車両のシェア』など個人の負担を減らしてゆくようなサービスを組み合わせてゆく、といったサービスを実現していきたいです。

---:サービス開始から2か月ほど経ちますが、反響はいかがですか?

高橋:ウェブサイトのアクセス数は想定よりも多く来ています。継続的に色々なメディアで取り上げて頂いており、注目度の高さを感じています。申し込みは累計で数百件の規模です。

アクセスログを解析すると最初のサイト閲覧でいきなりお申し込みをされるというよりは、何度か来訪し、検討された上で申し込む方が多いですね。料金のシミュレーションまではかなり気軽にやって頂いていて、複数の車を比較検討して申込みをされる感じです。このあたりは単価の高い商材ならではだと思います。

年齢層は30代中盤~40代中盤のユーザーがボリュームゾーンとなっており。その次が20代中盤~30代中盤です。マイカー賃貸という名前のためか、やや若めな層に受け入れられている印象です。

---:想定したターゲットとの相違はありましたか?

高橋:年齢層や家族構成を見てもファミリー層という私達の仮説と現在はほぼ近いと感じています。なぜファミリー層なのかというと、一世代古い中古車と較べて最新のクルマは自動ブレーキなどの先進安全装備が充実しているため、家族の安全を考えると新型車が気になる層だと考えました。また、燃費と装備を重視する一方で走行性能はそれほど重視しているわけではない、つまり試乗の必要性が減っているのではないか。だからネットで十分なのではないかというストーリーもファミリー層をターゲットに想定した理由です。

---:いま見えてきた課題とアプローチをお聞かせください。

高橋:もっと、カルモでの申し込みに踏み切るに足るだけの安心感をお客様に感じていただくことが大事だと痛感しています。そのためにはもっと運営サイドからの情報発信を強化していこうと考えています。また、LINEで事前相談を気軽にしていただく環境は良いと思っているので、そこでのやりとりもカジュアルかつ安心感を与える接客を心がけたいと感じています。

まだカルモは始まったばかりです。仮説は持つべきものではありますが、固執することなく、柔軟に変化してユーザーにとって最適な形でサービスを提供したいと考えています。

---:ありがとうございました。


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《滝澤俊次郎@JCR》

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