「プラモデル離れ」に危機感…激震の模型業界、中心はアジアに

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ホビーショーに展示された、塗装が施された状態で組み立てることができるプラモデル。メーカーはあの手この手を繰り出すが…
ホビーショーに展示された、塗装が施された状態で組み立てることができるプラモデル。メーカーはあの手この手を繰り出すが… 全 8 枚 拡大写真

去る5月10~13日までの4日間、静岡のツインメッセで開催された「第57回静岡ホビーショー」において、各メーカーの首脳が集まった記者会見が催された。

冒頭、静岡模型教材協同組合代表で、タミヤ模型社長の田宮俊作氏から、模型業界の現状について話があった。驚いたことに、プラモデルだけに関していえば、静岡ホビーショーは今や世界で最も充実したショーであるという。これまではドイツのニュルンベルクで開催されている、シュピールバーレン・メッセが世界一のホビーショーと言われて生きたが、プラモデルに関しては、主として南ヨーロッパの経済停滞などが理由でこのところは精彩を欠いているそうだ。これに対して静岡ホビーショーは、このところ著しい伸びを示している東南アジアからのバイヤーが多く集まることによって、最早長年開催されてきたツインメッセではキャパシティー不足が生じているほどの盛況なのだという。

中国や日本を含めたアジア市場は、今、活況を呈しているようだ。そしてホビーショーは中国でも上海や北京などで開催されているそうだが、メーカー相互の不信感があってショーに新製品を展示しない為、東南アジア諸国の多くのバイヤーは、この静岡に集まるのだという。それが静岡ホビーショーを世界一のショーに押し上げる原動力なのである。

確かに世界的にプラモデルのショーとしては世界一の見本市なのだろう。それに、ミニチュアカーを見ても、中国を中心に数多くのブランドが日本市場に進出している。だが、プラモデルにしてもミニチュアカーにしても、曲がり角に来ていることは間違いない。

◆プラモデル業界に激震
ズラリと並んだ静岡模型教材協同組合のお歴々
模型業界の大きなニュースとしては、北米の大きなディストリビューターであったホビコという会社が2018年1月に会社更生法の適用を申請、事実上売却された。これに伴って、日本のメーカーでは株式会社ハセガワが、このホビコを通じて全米にプラモデルを輸出していた関係で、少なからず打撃を受けている。さらにハセガワが日本市場への輸入元となっていたプラモエルの老舗、レベルは、前述したホビコに買収されていた関係で、こちらも2018年4月に生産をストップ。現在レベルは、金型などをすべてドイツ・レベルに移管しているという。

というわけで現状、アメリカのプラモデルメーカーとしては、ラウンド2傘下のAMTをはじめとした数ブランドが生き残っているのみ。果たして今後アメリカレベルがどうなっていくかは先が見通せない状況なのである。

因みにレベル傘下には、60年代に日本でも一世を風靡したモノグラムというブランドも含まれている。これに対してヨーロッパでは、ドイツレベルを筆頭にモデルメーカーは存在しているが、例えばイギリス最大のホビーメーカー、ホーンビー(傘下にプラモデルブランド、エアフィックスを持つ)も、2017年にフェニックスアセットマネージメント社に株式を売却し経営が変わっているし、フランスのエレールも幾度となく経営が変わり、現在は2016年に新しいオーナーの元に経営が続けられているといった状態で、先細り感が甚だしいのである。中国、特にマカオに新興プラモデルメーカーが存在し、とりわけマカオに金型工場を持つトランぺッターというブランドの躍進が目立ち、日本のメーカーを脅かす存在に急成長している。

日本市場でも、ラジコンで市場を席巻した京商が経営悪化し、全株式を新生銀行系の投資ファンド、レンブラントHDに売却し、再生を図ることになった。事業そのものは継続している。

◆先細りするホビー需要
レジン製のミニチュアカーは金型が不要なため少量生産が可能だが、ドアの開閉などはできない
ミニチュアカーの世界も変革が目立つ。それはかつてのようにミニカーが売れなくなって、1車種の生産に対し、金型を作るとその金型代金が償却できるほど売れない状況に陥っている。この為、金型が必要なダイキャストモデルに代わって、レジンモデルが幅を利かせてきているのだ。

ダイキャストとレジンを比較した場合、レジンでは例えばドアを開けたり、ボンネットを開けたりといったダイキャストでは可能だったギミックを作れない。それに経年劣化で変形の恐れもある。しかしその分少量ロットの生産が可能なので、多くのメーカーがレジンモデルに目を向けているのが現状である。特に最近ではレジンの品質が劇的に向上していることと、3Dプリンターの登場によって、その生産方法も変わってきている。勿論メーカーに言わせると、ダイキャストに大きな魅力を感じているそうだが、現状では採算割れの恐れがあって、おいそれと手が出せないということらしい。

ご存知の通り、プラモデルも射出成型で金型が必要で、その償却には一定以上の数を作らなくてはならないのだが、それをクリアすることが難しく、ミニチュアカーに関していえば新金型を起こして生産されるプラモデルが少なくなっているのが現状なのだ。

消費者の嗜好も変わってきた。いわゆるモノ作りに興味を示す子供が少なくなっていることは確か。田宮理事長もホビー業界の消費者が高齢化している事実を認めている。ホビーショーを見ても、エンドユーザーの多くは中年以上の年配が多くを占めていることは顕著。このまま、モノを作り上げるホビーが廃れてしまうのか、今、本当の曲がり角を迎えている気がするのである。

《中村 孝仁》

中村 孝仁

中村孝仁(なかむらたかひと)|AJAJ会員 1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

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