【特別寄稿】エンリコ・フミアが語るカーデザインの20年…レスポンス20周年に寄せて

エンリコ・フミア氏
エンリコ・フミア氏全 7 枚

『レスポンス』のロゴをデザインしたのはエンリコ・フミア。ピニンファリーナやランチアで活躍し、そののちに独立して、デザイン活動を続けているイタリア人デザイナーだ。『レスポンス』(当時は『オートアスキー』)20周年を記念して、20年間の世界のカーデザインをふりかえってもらった特別寄稿。…………

【画像全7枚】

スタイリングは発展せず後退している

この20年間は新しい世紀、新しいミレニアムの夜明けとも言える時代でした。

2013年の寄稿文で私はこう述べました。

「自動車の使用方法が変わりました。日本で誕生したハイブリッドシステムは確実に世界市場でのシェアを上げてきています。電気自動車も同じ道を辿ることでしょう。技術上の革命とも呼べるものですが、その余波はデザインには全くみられません。この10年間にカーデザインは革新のチャンスを逃してしまっただけでなく、個性や美的センスといったデザインの品質向上も見られませんでした。最新の技術によりボディやランプにはあらゆるデザインを被せることが可能なはずですが、どのモデルも似たり寄ったりです。デザインに品質がなく、行き当たりばったりのライン、ロジックに欠ける表現ばかりが目に付きます」。

あれから6年が経ちましたが、私の評価は変わっていません。如何に機能的または個性的であるかという点において、車体構造やスタイリングに進歩が見られないのです。アルファロメオ164(フミア氏がデザインに参画)アルファロメオ164(フミア氏がデザインに参画)

外寸は大きくなっても中は小さいまま、安全装備も疑問

エクステリアのサイズは確実に大きくなりましたが、シート周りと荷室は小さいままです。これでは無意味なサイズアップです。実際に多くの4ドア車では、後部座席への乗降性がとても悪くなりました。アクロバティックな動作で何とか乗り込めたとしても、レッグスペースは殆ど残されていません。

フロントシートも同様で、インパネ、コンソール、サイドパネル(ドア部分)などにより身動きが取れないくらい狭いのですが、これはほんの一例に過ぎません。インパネのデザインは概してまとまりがなく、乱雑な印象です。ただでさえ危険なタッチパネルは、誤ったレイアウトによる光の反射で見にくい上、ドライバーを更なる危険に追いやるものとなっています。

また安全のための装備が逆に危険要因となっているものとして、エアバッグや分厚いフロントピラーなどがあり、前方視界の悪化による事故発生リスクを高めています。後方視界に至ってはカメラ頼みの状況です(だがバックギアの時しか機能しない!)。結論を言えば、自動車のアーキテクチャーは80年代から90年代をピークにゆるやかに退化しているのです。

個人的な意見ですが、スタイリングは発展せず後退してしまっていると感じます。デザインの標準化が進み、かつてない程に各モデルが似てきてしまいました。スタイリストやデザイナーの創造性の欠如が問題なのではなく、創造力のないマーケティングリーダーに原因があります。競合の真似をするばかりで、新しいことを恐れる人々です。競合といってもうわべだけで、実際には少数の巨大グループに整理統合された多くのブランドが、あたかも競合しているかのごとく存続しています。同一の車両が、僅かなデザインの違いだけで別のモデルとして成立しています。アルファロメオGTV(フミア氏がデザインに参画)アルファロメオGTV(フミア氏がデザインに参画)

新しいデザインは、強い意志と能力を必要とする

それぞれのブランドが伝統的に持っていたお国柄も失われてしまいました。ランボルギーニ、ロールスロイス、ベントレー、ジャガー、ランドローバー、MINI、ブガッティ、オペル、ボルボ、シュコダ、セアト、ダシアなどが良い例で、フィアット、アルファロメオ、ランチア、そしてマセラティまでもが国籍喪失の危機に瀕しています。

ブランドの国籍が変わることを責めているのではありません。いくつかのブランドを管理する立場の人々は、デザインから個性を奪い取ってしまいました。他ブランドとの差別化が難しくなり、ブランド価値を大きく下げてしまったことの責任は重大です。分かりやすい例としては、他社のセダンやSUVと区別がつかなくなってしまったジャガーの現状があげられます。またPSAグループに属するDSの各モデルは、かつてのシトロエンDSの栄光を踏みにじるナンセンスデザインだと言えます。

日本や韓国からも新しいデザインの風が吹いてくることはなく、欧州ブランドに肩を並べることにむしろ注力しているように感じます。日本車の技術や信頼性が世界トップレベルであることを考えると、デザインで出遅れていることが残念でなりません。

ただし、日韓のいくつかのブランドがようやくファミリーフィーリングを導入し、少なくともフロントフェイスにおいてブランドの区別が付くようになりました。イメージを変えるための多大なる努力は評価したいのですが、やりすぎてしまいオーバーデザインとなってはいけません。フロント、サイド、リアのデザインには一貫性が必要です。エレガンス、洗練性といった要素が欠けているのです。中国メーカーについての評価は時期尚早といったところ。アメリカの各ブランドは良くも悪くも、お国柄を良く残せているようです。ランチアY(イプシロン。フミア氏がデザインに参画)ランチアY(イプシロン。フミア氏がデザインに参画)

電気自動車から新しいフォルムやレイアウトの提案がない

自動車のデザインとアーキテクチャーにおいて、残念ながら直近20年間には革新的なことが起こりませんでした。車のデザインコンセプトが一人のスタイリストやデザイナーに任されることがなくなってから、優に20年以上経ちます。妥協を重ねた結果、個性が失われてきたのです。他者に追随せず、流行の先駆けとなるような強いアイデンティティが、どのモデルにも見いだせなくなったのです。今日、自動車のフォルムは複数の人の手により形作られます。競合他社と距離を置くことなく、追随し肩を並べることを唯一の目標として。

メーカーのインハウスデザイン部門にも問題があることに触れておきます。蔓延する利己的な保身主義により、外部デザイナーやカロッツェリアの助言が排除されるのです。この傾向はイタリアで特に強くみられ、結果としてスマートフォン、テレビ、PC、冷蔵庫、洗濯機などの家電製品同様に、全て同じデザインがもたらされます。デザインイメージにあるブランドロゴ(バッジ)部分を隠したり入れ替えてみると一目瞭然です。イメージからバッジを外すだけで誰もどのブランドかわからなくなり、一方で入れ替えられたブランドロゴに気付く人もいません。

電気自動車からも新しいフォルムやレイアウトの提案がありませんでした。テスラの没個性的なデザインが良い例で、非常にもったいないです。私であれば「新生シトロエンDS」をイメージし、一目見て新しい技術から生まれたクルマだということがわかるような、革新的なデザインを目指します。新しいデザインは、そこに到達しようとする強い意志と能力を必要とします。まさに真のデザイナーが求められているのです。エンリコ・フミア氏エンリコ・フミア氏

エンリコ・フミア|カーデザイナー
1948年トリノ生まれ。弱冠16歳にしてベルトーネの新人コンクールで優勝し、76年にピニンファリーナに入社。スタイリングからエンジニアリング、試作モデルの制作などに携わった後、技術研究所のモデル試作部長を経て、88年には同社のデザイン開発部長に就任。91年にフィアットに移籍してランチアのデザインセンター所長に、96年には同社のアドバンスデザイン部長となる。99年に独立、2002年にはデザイン開発やエンジニアリングのアドバイザリーとしてフミア・デザイン・アソチャーティを設立した。2009年からはフミア・デザイン・スタジオとして、現在でもカーデザイン/インダストリアルデザインの活動を続けていながら、執筆や講演で多忙な日々を送っている。2015年には自叙伝『autoRITRATTO』を出版した。フミア氏の自叙伝『autoRITRATTO』フミア氏の自叙伝『autoRITRATTO』


《エンリコ・フミア (日本語訳:光岡英明)》

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