【ホンダ ステップワゴン 600km試乗】ヴァカンスに使ってこそ華、万能ハイウェイクルーザー

ホンダ ステップワゴン G・EX Honda SENSING。エンジンは1.5リットルターボ。スパーダ ハイブリッド G・EX Honda SENSINGとの価格差は71万円と、結構大きい。うっすら雪化粧の川場村にて。
ホンダ ステップワゴン G・EX Honda SENSING。エンジンは1.5リットルターボ。スパーダ ハイブリッド G・EX Honda SENSINGとの価格差は71万円と、結構大きい。うっすら雪化粧の川場村にて。全 36 枚

ホンダの全長4.7m級ファミリーミニバン『ステップワゴン』で600kmあまりドライブする機会があったので、インプレッションをリポートする。

筆者は昨年、ステップワゴンスパーダのハイブリッドモデルで3500kmツーリングを行っているが、今回はノーマルのガソリンエンジン。メインタスクは群馬北方の山村、川場村でのりんご狩りだ。昨年も同様のドライブを行っており、そのときの“りんごエクスプレス”は日産自動車『セレナNISMO』だった。

昨年のドライブと違うのは、往復とも6名乗車で、かつ帰路にはりんごが加わること。2列目に3名が座れるのがマストということで、2列目キャプテンシートオンリーのハイブリッドは自動的に落ち、ガソリン仕様というチョイスになった。

試乗車は新車価格291万5000円のノーマル系トップグレード「G・EX Honda SENSING」8人乗り仕様。試乗ルートは東京~群馬のツーリング約350kmと東京での都市走行と茨城周遊約250kmの2つ。道路比率は市街路3、郊外路2、高速5、山岳路未走。乗車人数は前者が2~6人、後者が1人。天候は晴れ時々雪。エアコンAUTO。

では、ステップワゴンの長所と短所を5つずつ挙げてみよう。

■長所
1. 大人数と大荷物の併載を可能にする秀逸なシートアレンジメント。
2. フル積載に近い状態でも良好な乗り心地と操縦安定性。
3. 4.7m級ミニバンの中では随一の高い静粛性。
4. やはり便利な横開きバックドア「わくわくゲート」。
5. 低回転域でフレキシビリティに富む1.5リットルターボエンジン。

■短所
1. 高速道路の登り勾配などではエンジンパワーがもう一息欲しい。
2. 少人数乗車だとフルロード時に比べて快適性が落ちる。
3. カーナビの画面が小さく、少し見にくい。
4. シートやトリムにもう一歩質感が欲しい。
5. 凝った構造のバックドアを持つため価格が少し高い。

ハイウェイクルーザーとして光るステップワゴン

では、インプレッションに入っていこう。人、貨物を満載した状態でのステップワゴンのパフォーマンスは、全般的に素晴らしいものがあった。乗り心地が良く、静かで、安定性は高く、ロングドライブにはうってつけだ。荷室は絶対容量、積載性とも優れていた。エンジンチューンやトリムの質感等々、「こうだったらもっといいのに」と思う部分もあるにはあったが、取り立てて気になる不満点、ライバルに負けているというウィークポイントが見当たらないのも特徴だった。多人数でのハイウェイクルーザーとしてはこれで十分という仕上がりと言える。

ツーリングのスタートは第一集合地点である東京・世田谷。フルロードに近い走行ということで、タイヤのエア圧を規定の2.4kg/cm2から2.8kg/cm2へと17%ほど上げて臨んだ。燃料を満タンにした後、関越自動車道で昼食予定地点の前橋の群馬県庁舎、その後さらに高速道路で北上して川場村のりんご農場へと旅を進めた。

ステップワゴンのパワートレインは150ps/203Nm(20.7kgm)を発生する1.5リットル直噴ガソリンターボにCVT(無段変速機)という組み合わせ。このクラスのミニバンには2リットル自然吸気エンジンもしくはハイブリッドパワートレインがセットアップされるのが常で、ダウンサイジングコンセプトはちょっと斬新だ。

ホンダ ステップワゴン G・EX Honda SENSINGの正面。群馬・川場村にて。ホンダ ステップワゴン G・EX Honda SENSINGの正面。群馬・川場村にて。
そのパワートレインだが、最高出力150psというスペックを越えるようなパワー感があるわけではなく、速さ自体はライバルの2リットルモデルと似たり寄ったり。ここ一発の加速力では2モーター式の「i-MMD」システムを搭載するハイブリッドモデルに大敗するというイメージ。

が、絶対性能とは別の、独特の良さもあった。それは低回転域における力感の豊かさで、一般的な2リットル自然吸気に比べるとゆとりがあった。カタログ上は1600rpmで最大トルクを得られることになっているが、実際に運転していても、ブーストのかかりはかなり敏捷。CVTはスペック違いの同形式エンジンを積む『シビックセダン』と同様、エンジン回転を一定に保つよりは加速Gを一定に保つような制御ポリシーを持っていた。スロットルを開け閉めするとタコメーターの針は結構揺れ動くのだが、踏んでも加速しないといったラバーバンド感は少なく、欲しい加速を安定して得られるような感じだ。

この特性は高速道路のクルーズをとても気持ちよいものにした。往路は3車線区間の第2走行車線をクルーズし、前車に追いついたら追い越し車線に出るという、ぶっ飛ばしはしないが比較的高いクルーズスピードで走ったが、普段は1800rpm前後、じわっと追い越す感じであれば加速してもエンジン回転数が2000rpm台前半のところでゆらゆら動くという感じで、滑らかで静かに悠々と巡航できた。

渋川伊香保を過ぎると、沼田インターまでは登坂車線のある長い登り勾配。6名乗車でこの区間というのは、さすがにエンジン回転数も上がらざるを得なくなる。シビックセダンのような173ps/220Nmエンジンだったらもう少し余裕が出るのではないかと思ったが、ミニバンは車両重量が重いため、過給圧を高めると燃費とのトレードオフがきつくなる可能性もあり、これでよしとすべきなのかもしれない。

シートアレンジ&わくわくゲートで楽々積載

収穫したりんごをおおむね松竹梅の3段階に分類。収穫したりんごをおおむね松竹梅の3段階に分類。
川場村のリンゴ園に到着したのは西日が差し始めた頃。昨年は曇りだったのに対し、今年は絶好の晴天で、青空に紅いりんごが実によく映えた。秋に大きな台風が襲来し、群馬でも随所で大雨になったためどうなることかと思われたが、幸いにもほとんど被害はなかった。しかも温暖な日々が長く続いた後に寒さが押し寄せたため、りんごの甘味が一気に深まった感があった。

収穫したりんごのうち、鳥が端っこをついばんだ実をその場で割り、皆で食べてみた。木からもいだばかりの実は皮を剥くだけで果汁がボタボタと垂れるくらいみずみずしい。ただでさえ美味しいのだが、鳥に食べられたりんごは格別で、蜜の入りっぷりたるや、すさまじいレベルであった。

もぎたてのりんごはひと味違う。皮を剥くだけで果汁が滴り落ちるほどで、翌日にはもう味が少し変わってしまう。もぎたてのりんごはひと味違う。皮を剥くだけで果汁が滴り落ちるほどで、翌日にはもう味が少し変わってしまう。
全部の実がそうというわけでなく、大きければいいというわけでもない。鳥に詳しい同行者によれば、鳥は美味しい実を見分ける能力を持っているのだとか。鳥についばまれた実は売り物にならないが、その味にハズレなしということは、今回のりんご狩りで確認できた。鳥に食べられた実をまとめて「鳥センサー厳選!!お早めにご賞味下さい」といった感じで道の駅で売ってくれればそれを積極購入したいくらいであった。

今回の収穫はキズ物まで含めて約550個。川場村のりんごの木オーナー制度は1本あたり2万4000円。1個あたりの原価はそれを他のクルマでやってきた人も含め、11人で分け、いよいよステップワゴンに積み込み開始。……が、ここでちょっと拍子抜けする事態が。収穫の現場から宅急便で遠方発送を行うというサービスが登場したため、知己へのおすそわけをそこから発送するという人が続出。クルマに積むのは当初の予定の半分強となった。昨年、セレナで3列目を丸々潰して運んだ時よりむしろ少ないくらいである。

わくわくゲートの横開きドアを開放したステップワゴン。わくわくゲートの横開きドアを開放したステップワゴン。
ステップワゴンの3列目シートは左右分割式だが、通常の3列ミニバンのように左右に跳ね上げるのではなく、床下に収納することができる。つまり、左右のシートの大きさをそろえる必要がないため、それほど偏ってはいないが左右非対称なのである。3列目の片側だけをシートとして使う場合は、荷物が多ければ分割割合の大きな左側を、少ない場合はシートの小さな右側を折り畳む……と、用途に応じたアレンジメントが可能だ。

りんごの輸送量が当初想定より少なくなったが、それでも荷室にしたのは左半分。こちらがわくわくゲートの横開きドアの側だからだ。果たして積み込んでみると、広い側を荷室にしたのは大正解。荷物量は少なくとも、段ボールの大きさがそこにぴったりはまるくらいの大きさだったので、意味はあった。すべて積み込んでみると、折り畳まれたシートなどが存在しない荷室上方にはまだまだ空間がたっぷりと残されていた。荷崩れ対策をしっかり行えば、今回の倍量も十分に行けそうだった。

最も得意なステージは「ゆったりクルーズ」

6人+りんご輸送の図。6人+りんご輸送の図。
川場村で1泊し、帰りは6名プラスりんごでのドライブ。行きと異なり、実測値100km/hにこだわらず、メーター読み100km/h(実測95km/h)でホンダセンシングの前車追従クルーズコントロールとレーンキープアシストを効かせ、ほとんど第2走行車線に張り付いたままのんびりと巡航。赤城サービスエリアから東京まで無休憩で一気に帰った。

ゆったりクルーズはステップワゴンにとって最も得意なステージだった。もっとも好感を持てたのは、フラット感の高さと路面のザラザラ、段つきなどの吸収性の良さ。タイヤは205/60R16サイズのブリヂストン「トランザ ER33」。バランスの良いモデルだが、乗り心地がゴワゴワとしたものになりやすいのが欠点だ。が、そのタイヤをメーカー指定値より高めの内圧で使ったにもかかわらず、乗り心地は同じホンダのセダン系と比べてもむしろ滑らかであるようにすら感じられた。高速道路でよくある長周波のアンジュレーション(路面のうねり)が続いてもロール、ピッチの両方向でぐらつきは少なかった。

市街地でも十分に乗り心地はいいが、1、2名乗車時はタイヤのエア圧を規定値まで下げてもフル乗車時に比べてざらついた路面でのゴワゴワ感などが増した。ここは同じトップグレードでもパフォーマンスダンパーを装備するハイブリッドモデルに後れを取るところだ。が、それでも絶対的には優れているので、気にするほどのものというわけではない。

ウィークエンドやヴァカンスに使ってこそ華

ホンダ ステップワゴン G・EX Honda SENSINGのリアビュー。群馬・川場村にて。ホンダ ステップワゴン G・EX Honda SENSINGのリアビュー。群馬・川場村にて。
燃費は前面投影面積の大きさ、車両重量等を考慮すると、十分に満足の行く数値であった。世田谷発着のりんご狩りツアーのマイレージは339.7kmで、消費したレギュラーガソリンは23.57リットル、満タン法による実測燃費は14.4km/リットル。高速道路が7割を占める恵まれたコンディションだったとはいえ、6名乗車で帰路にはりんごも積んでこれだけ走れば御の字というものだろう。

パワートレインの効率面では、直噴ダウンサイジングターボの特徴がかなりハッキリ出た。6名乗車からシングルドライブと、さまざまなシチュエーションでいろいろ踏み方を変えて瞬間燃費計や平均燃費計の推移を観察していたが、スロットルをドーンと踏むと効率が落ちる傾向が顕著。といって、もったいながってスロットルを絞りすぎてもかえって効率が悪くなるようで、チンタラ走行は他車に迷惑をかけるばかりで見返りは小さかった。

一番効率が良かったのはメリハリをつけた運転。過給圧で言えばゼロから軽い正圧くらいの領域での燃料消費はきわめて優秀で、帰路、メーター読み100km/h巡航で走ったときにはガーンと燃費が伸びた。市街地、郊外路などの一般道でもパワーの盛り上がりに合わせて踏み込みをぐっと深めていくようなスロットルワークを念頭に置いておくと、過剰なエコランをせずともかなり経済的に走れる。

ハイブリッドには劣るものの、1.5リットル直噴ターボ+CVTの燃費は予想より良かった。運転の仕方によって差が大きく出そうな半面、郊外を大人しく走れば相当燃費を伸ばせそうでもあった。ハイブリッドには劣るものの、1.5リットル直噴ターボ+CVTの燃費は予想より良かった。運転の仕方によって差が大きく出そうな半面、郊外を大人しく走れば相当燃費を伸ばせそうでもあった。
アイドリングストップはバッテリーが劣化していない限りかなり有効で、平均車速が10km/h台前半というみっちり渋滞に遭った時以外は区間燃費計表示で10km/リットルを割ることがなかった。

かくして、6名+りんごのプチロングドライブは無事終わりを告げた。4.7m級ミニバンは長年、日本のファミリーカーの主役級であり続けてきたが、子供の送り迎えやお買い物程度の用途なら、トヨタ『シエンタ』、ホンダ『フリード』など、格下のBセグメントミニバンで十分。このクラスはウィークエンドやヴァカンスに折を見て今回のように大勢で遠くへ出かけるような使い方をしてこそ華というものであろう。

ステップワゴンは快適性、ユーティリティ、経済性、疲労耐性等々、バランスが優れており、そういう用途にはなかなかいい車ではないかというのがドライブを終えての感想であった。

群馬北部の川場村へりんご狩りに出かけた。クルマはホンダ『ステップワゴン』。群馬北部の川場村へりんご狩りに出かけた。クルマはホンダ『ステップワゴン』。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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