【エンジニア視点】電動化でS-AWCが「もっとスーパーになる」…三菱 4WD&EV制御エンジニアが語る

三菱自動車 百瀬信夫氏(左)と澤瀬薫氏(右)
三菱自動車 百瀬信夫氏(左)と澤瀬薫氏(右)全 16 枚

三菱車を象徴する「四輪駆動」と「電動化」技術

三菱の自動車作りは、三菱造船時代の1917年(大正6年)に三菱A型乗用車を製作したことにはじまる。そこから数えれば、102年の歴史が積み重ねられてきた。

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戦後は、1953年に米国ジープのライセンス生産により、三菱ジープを製造し、その後段階的に完全国産化がなされた。『パジェロ』に乗り2002~03年とパリ~ダカール・ラリーで2連覇を果たした増岡浩氏は、自宅にあった三菱ジープを運転し四輪駆動車の魅力にとりつかれたと懐古する。

三菱は、『ランサーGSR』で1970年代からオーストラリアのサザンクロス・ラリーやケニアのサファリラリーへ挑戦し、73年にサザンクロスで、74年にサファリでそれぞれ初勝利を挙げた。また、四輪駆動(4WD)となった『ランサー・エボリューション』では、96~99年の4年連続でフィンランドのトミ・マキネンがタイトルを獲得している。そのうち98年は、三菱がメーカーチャンピオンにもなった。

三菱 ミニカEV三菱 ミニカEV
三菱の電気自動車(EV)開発の歴史も古く、1966年の三菱重工時代に電力会社向けとして開発された。1970年代の排ガス浄化への取り組みの中で、『ミニカEV』や『ミニキャブEV』が存在する。それらは鉛バッテリーを用いたものであったが、90年代に入るとニッケルカドミウム(通称ニッカド)バッテリーを使った「リベロEV」などが開発されている。そして世界初の市販EVの『i-MiEV』が、2009年にまず法人向けとして発売され、翌10年には広く一般向けに発売されるのである。

4WDを発端とした駆動力制御と、EVを基本とした電動化は、三菱車を象徴する技術となり今日に至る。それらの技術は、運転支援や自動化、また共同利用などの時代へ向けどのように花開いていくのか。それぞれの技術開発を牽引する、澤瀬薫氏(EV・パワートレイン技術開発本部チーフテクノロジーエンジニア)と、百瀬信夫氏(EV/パワートレイン技術開発本部チーフテクノロジーエンジニア・電動技術担当)に、その背景と未来を語ってもらった。

4つのタイヤの性能を最大に引き出すための四輪駆動

三菱自動車 澤瀬薫氏(EV・パワートレイン技術開発本部チーフテクノロジーエンジニア)三菱自動車 澤瀬薫氏(EV・パワートレイン技術開発本部チーフテクノロジーエンジニア)
----:まず駆動力制御に至る経緯を振り返っていただけますか?

澤瀬:やはりラリー活動が背景にあり、それを通じて運動性能に注目したクルマの開発をしてきた経緯があります。その過程で、四輪駆動がいいという経験をしてきています。もちろんそれはモータースポーツに限らず、未舗装路(グラベル)や雪道、あるいは乾燥舗装路などあらゆる条件下で、自由自在にうまく走れることを目指し、そのために4つあるタイヤの性能をうまく引き出すことが一番大事だというところが発想の原点となっています。

----:四輪の駆動力制御が商品となって世に出たのはいつでしょう?

澤瀬:1987年の6代目『ギャランVR4』に採用した「オール・ホイール・コントロール(AWC)」が最初です。4WDは、未舗装路でしっかり前へ進めるのが基本ですが、AWCは、4つのタイヤのバランスをコントロールすることにより、うまく曲がって、キレイに止まれるようにする。タイヤの摩擦円や、加速・旋回・減速のGの変化、Gボールを切れ目なく走る能力を高めることにより、どのような路面状況でも、どのような技量の運転者でもうまく走れるクルマにすることを目指しています。

----:どのような技術で、それを実現しているのでしょう

澤瀬:ギャランVR4の時代は、「ビスカス付センターデファレンシャル・フルタイム4WD」といって、世界ラリー選手権(WRC)の競技車両から市販車へ展開していった技術です。当初は、機械式制御でしたが、そこから電子制御になり、単に前後の駆動力配分だけでなく、駆動力制御もできるようになっていきました。さらに、左右の駆動力配分も制御する「アクティブ・ヨー・コントロール(AYC)・デファレンシャル」を、ホンダとほぼ同時期に世界に先駆けて世に出しました。

WRCで活躍した三菱 ギャランVR4WRCで活躍した三菱 ギャランVR4
そこからさらに、前後左右の駆動力配分をするためブレーキも一体で制御するように進化させたのが、2007年のランサー・エボリューションX(テン)で実現した、車両運動統合制御の「スーパー‐オール・ホイール・コントロール(S-AWC)です。こうして、エンジン車でやれる駆動力制御はすべてやり尽くしたといえます。

----:高性能車だけでなく他の車両への広がりはどうでしょう

澤瀬:より多くの人が使える車両運動統合制御として、『エクリプスクロス』のS-AWCがあり、また環境や燃費の側面から電動車両にも使ったのが『アウトランダーPHEV』のS-AWCになります。

----:永い歴史の中で、駆動力制御という技術開発が継続された理由は何でしょう

澤瀬:開発の仕事をするのは人であり、私が入社した1987年より前から先輩たちが研究してきた思いが、社内に伝承されているからだと思います。ラリーといった競技の場だけでなく、誰が運転してもうまくクルマが動いてくれないと安心して走れるようになりません。私自身も雪国出身なので、身をもって経験し、そこからクルマの走りはこうあるべきということを常に考えています。

またそのことは、たとえ自動運転の時代となっても、雪上や吹雪など悪い条件では機械だけに任せることが難しくなるため、やはり人間が最後は任されたとき、誰もが思い通りに走れないと事故につながってしまいます。2WDから4WDとなることで前へ進むことができても、総合的なバランスが良くなければならないという話は、社内でよく議論しています。また、単に机上の議論やシミュレーションだけでなく、設計や実験、運転技量の優れたトップドライバーを含め北海道など現場へ行って走り、人間の感覚的なところも共有しています。それにより方向性が明確になり、結果、操縦安定性に対する三菱ならではの伝承がもたらされているのだと思います。

三菱 エクリプスクロス三菱 エクリプスクロス
----:その伝承は、制御部門だけでなく、車両開発全体に及ぶのでしょうか

澤瀬:車体やシャシー開発の部署も同じです。ハンドルを切った通りにクルマがついてくるとか、無駄な動きをしないとか、基本技術や基本の操縦安定性の担当者も、どこでも誰でも乗りやすい特性にし、条件が悪いほど三菱は楽しいねとお客様に言って戴けるように、作り手の我々もお客様と同じ思いを共有しているつもりです。

----:自動運転の時代を迎えても、そこは変わりませんか

澤瀬:実は、人工知能(AI)が運転しやすいクルマとは、人が運転しやすいクルマでなければならないのです。学生時代にメカトロニクスを学びましたが、機械がよくなければ制御でよくなることは無いと経験しました。どのような条件下にあっても、対応できる機能を作り込むところは、どのような時代となっても三菱の強みになると思っています。

技術者根性として「プロダクト・アウト」につながっている

三菱自動車 百瀬信夫氏(EV/パワートレイン技術開発本部チーフテクノロジーエンジニア・電動技術担当)三菱自動車 百瀬信夫氏(EV/パワートレイン技術開発本部チーフテクノロジーエンジニア・電動技術担当)
----:次に、EVについてです。かなり昔から取り組んでいますね

百瀬:1960年代からやっていたのだと、いま振り返っても驚きます。その当時から、開発の思いは一緒で「きれいな空気を」ということです。一例として、71年の広報誌に「青い空を」と言い、きれいな空気の実現にはEVが必要だとの考えを示しています。

----:他の自動車メーカーを含め、EV開発は波がありましたね

百瀬:大気汚染の予防では、排ガス触媒が実用化したことでEV開発が一時停滞気味になりました。その後、90年代に米国カリフォルニアからゼロ・エミッション・ヴィークル(ZEV)法案の話が出て、同時にその頃から二酸化炭素(CO2)の排出量削減の意識が世界的に広がりはじめ、EV開発が盛り上がります。今日では、エネルギー問題が国の安全保障にもつながる時代になりました。

----:時代の変化が大きい中で、三菱はなぜEV開発を続けることができ、また世界初の量産EVを市場導入できたのでしょう

百瀬:三菱の姿勢として、「プロダクト・アウト」の考えが強いところがあります。技術開発や商品化に波が起こるのは、市場の変化を見るからで、その時に一番売れるものを出そうという考えになります。しかし三菱は、愛知県岡崎市にあるR&Dの技術者が、これが必要だと思うとその思いを持ち続け、時代が動いても粛々と研究開発を続けるので、技術者根性としてプロダクト・アウトにつながっているのだと思います。そこは、4WDなど駆動力制御も同じだと思います。

三菱 ミニカEV三菱 ミニカEV
----:そうした中で、リチウムイオンバッテリー開発への熱意も高かったと記憶しています

百瀬:1992年に、電子技術部の中にEV開発グループが立ち上がり、もはや鉛バッテリーには限界が見え、またニッカドやニッケル水素もメモリー効果があるなど利用上の制約があるため、次世代はリチウムだとの判断がありました。私が87年に入社した当時から鉛バッテリーのEVがあり、ずっと経験を積んできたからでしょう。そして素人ながら、リチウムイオンバッテリーの研究組織を作り、会社まで立ち上げてバッテリー研究をしました。それが、i-MiEVにつながっています。技術者のしつこさと、技術や物に対する強い思いが、電動化につながっています。

----:いまだにEV市場が形成されるのか疑問を呈する声もありますが、よく市販へ持ち込めましたね

百瀬:そこは、経営陣が二度支援しています。一度は、ダイムラー社と提携した際、燃料電池車(FCV)を彼らが開発しているので、EVは必要ないと言われたときです。次は、ダイムラー社との提携が解消されたあとですが、その際も経営側が技術者の話を聞いてEV開発継続の後ろ盾となってくれました。

----:それが、EVとSUVを三菱の柱にする経営方針の選択と集中につながっていくのですね

百瀬:会社がちゃんと判断して、物づくりを大切にしてくれたことが一番大きいです。

----:EVかFCVかといった議論も当時はあったと思います

百瀬:判断するうえで大事なのは社会基盤(インフラストラクチャー)で、電力網は国内に行き渡っており、電気はどこでも手に入るのでそれを活用する方がよいと、そこは技術者が判断しました。

----:それでも、自動車メーカーの基本はよりよい製品を作ることが主体であり、いわばガソリンスタンドの経営を心配するようなインフラへの視点は、なかなか持ちにくかったのではないでしょうか

三菱 i-MiEV三菱 i-MiEV
百瀬:三菱は、「開拓者でなければならない」という企業の立場によるのだと思います。大手であればすでに勝てる土俵を持っているので、変える必要はありません。しかし我々は積極的に変化を受け入れていかないと勝機がありません。外界を見て状況に合わせて変わることが大事で、またEVや電動化については世の中がそちらを向いてくれたのも幸運だったと思います。続けることで、風も吹いたということでしょうか。

----:i-MiEVが発売されたあと、アウトランダーPHEVが商品化されました。当初から描かれた道筋だったのでしょうか

百瀬:発売前の2008年にi-MiEVの実証実験がはじまったころ、EVの課題も認識していました。とくに走行距離や暖房の問題です。その課題をいかに解決するか、EV開発の責任者から「次を考えるように」との指示がありました。解決策は部品単位ではなく車両として考えてもかまわないというところから着想したのがプラグインハイブリッド車(PHEV)です。PHEVであれば、近距離を走る日常はEVとして使え、遠出をする際にはハイブリッド車(HV)として距離の制約を意識せず、それでいて燃費はエンジン車に比べ少なく抑えられます。

電動化でS-AWCが「もっとスーパーになる」

三菱 アウトランダーPHEV三菱 アウトランダーPHEV
----:次に、駆動力制御と電動化の相性のよさを教えてください

百瀬:電気は応答がいいので、澤瀬が考えた駆動力制御をすぐ実行できます。エンジンがトルクを出すには、運転者がアクセルペダルを踏んでから燃料を噴射し、点火し、燃焼が起こり、ピストンが押されて力が生まれ、そこからタイヤへ伝達されるという過程を踏みます。しかしEVは、電気が流れるとすぐモーターが回転して力が生まれます。また、電気は数式で書くことができ、数値によりモデル化できるので、制御対象として扱いやすい素材です。一方エンジンは、流体と燃焼が関わるのでモデル化しにくいのです。

----:電気の速さは、エンジンに比べるとどれくらいといえるでしょう

澤瀬:モーターの応答の速さは一桁以上で、二桁近い差です。また、制御の精度はエンジンの10倍優れています。

百瀬:わかりやすく言えば、速さも精度もエンジンに比べモーターは10倍よいといえるでしょう。

澤瀬:エンジンでトルク配分を可変制御する場合、一つのエンジンから生まれたトルクを歯車や湿式多板クラッチを使って行うため、摩擦制御が難しくなります。しかしモーターなら、個数が多くなる課題はあっても、複数搭載すれば前後でそれぞれ制御することができ、制御理論と知見があれば狙い通りに配分できます。

トルク配分の理論は30年前からあって、そこにエンジン車で近づけるのは大変でした。モーターなら理論通りに制御できます。また、モーターは狙った通り性格に性能を出すことができ、それは数学の理論に近い正確さです。一方、摩擦のような工学でちょうど0という値の実現は不可能で、かなり狙いに近いとはいっても必ずプラスマイナス0.1というような許容の幅が生じます。

三菱自動車 百瀬信夫氏(左)と澤瀬薫氏(右)三菱自動車 百瀬信夫氏(左)と澤瀬薫氏(右)
----:相性のよい駆動力制御と電動化によって、三菱車は今後どのような商品体系になっていくのでしょう

百瀬:全体の概論的な答えになりますが、小さなクルマは走行距離において遠出の心配があまりないのでEVになり、i-MiEVはまさにその象徴です。大きなクルマはお客様も遠出をしたいとの希望もあるので、PHEVを中心に展開していくことになります。大きくはその二つの路線があり、三菱は主要な車種にすべて電動化を配置していきます。

澤瀬:S-AWCは、4WDに特化した統合制御システムです。それを2WDへも活かすため、18年12月のエクリプスクロスのマイナーチェンジで、ブレーキを活用したAYCを採り入れました。三菱が目指すのは、どこでも誰でも安心して走れる技術への思いと、開発です。S-AWCは、人にクルマの限界を知らせる制御でもあり、路面が変化しても補正する制御を入れているので、どこでも誰でもを実現することができるのです。

そこに電動化が入ることにより、将来的にはたとえばアウトランダーPHEVでも、i-MiEVのような軽い動きができるようになります。S-AWCがもっとスーパーになることを目指しています。そうした要素技術は、2WDや小さなクルマへも応用できるので、電動化をやってくれて本当によかったと思っています。

----:これまで何十年も続けてきた開発が、今後もより幅広く展開されていくわけですね

百瀬:「継続は力」ですね

澤瀬:理論だけでなく実体験を持つことが大切で、それが伝承として浸透し、そうした成果がよい面として最近とくに出てきていると思います。

百瀬:プロダクト・アウトのよさが出ていますね。コンピュータによる開発(CAE)や理論だけでなく、物を作って、人が乗って、感じるという、プラン・ドゥ・チェック(PDC)をいかに効率よく回していくかです。

澤瀬:そこが三菱の強さであり、現場力に負うところが大きく、日本古来の武道のようなところがあります。

■インタビューの様子をYoutubeでも公開中

《御堀直嗣》

御堀直嗣

御堀直嗣|フリーランス・ライター 玉川大学工学部卒業。1988~89年FL500参戦。90~91年FJ1600参戦(優勝1回)。94年からフリーランスライターとなる。著書は、『知らなきゃヤバイ!電気自動車は市場をつくれるか』『ハイブリッドカーのしくみがよくわかる本』『電気自動車は日本を救う』『クルマはなぜ走るのか』『電気自動車が加速する!』『クルマ創りの挑戦者たち』『メルセデスの魂』『未来カー・新型プリウス』『高性能タイヤ理論』『図解エコフレンドリーカー』『燃料電池のすべてが面白いほどわかる本』『ホンダトップトークス』『快走・電気自動車レーシング』『タイヤの科学』『ホンダF1エンジン・究極を目指して』『ポルシェへの頂上作戦・高性能タイヤ開発ストーリー』など20冊。

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