【ホンダ N-ONE RS 800km試乗】顔が自然とほころぶ、本来のホンダらしさがある[後編]

ホンダ『N-ONE RS』で紅葉真っ盛りの国道352号線檜枝岐~奥只見ルートを行く。
ホンダ『N-ONE RS』で紅葉真っ盛りの国道352号線檜枝岐~奥只見ルートを行く。全 32 枚

ホンダの軽自動車『N-ONE RS』での800km試乗。後編ではツーリング感、パワートレイン、ユーティリティなどについて述べる。まずはツーリング感から。

【画像全32枚】

田舎道のドライブを浮き浮きとさせるもの

発売からかなりの年月が経過し、先進安全システムをはじめいろいろな部分が時代遅れになってきたN-ONEだが、登場当初から持ち合わせていたロングツーリング向けのキャラクターはこのRSでも健在。今回の国道352号線のような田舎道をドライブしていると、何となく浮き浮きとした気分になるのである。

その要因はいくつか考えられるが、一番効いているのは軽セダンでありながら窓、とりわけフロントウインドシールドが広く、視界が良いことではないかと思われた。N-ONE RSでドライブをしていると、前方が空までよく見える。コスト制約と軽量化の面からウインドシールドが狭い低コスト軽セダンとも、ルーフが頭上よりかなり前まで被っているスーパーハイトワゴンとも異なる、パノラミックな視界だ。

奥只見湖岸の紅葉は尾瀬界隈とは異なる色合い。奥只見湖岸の紅葉は尾瀬界隈とは異なる色合い。
前編でも少し述べたが、国道352号線の会津~小出区間は日本屈指の山奥ルートのひとつだ。道路の整備状況は良好でアクセスは容易だが、沿線は壮絶な過疎地。只見川を挟んで福島側の檜枝岐村は今年11月現在の人口密度が1.41人/平方kmと、全国で最も人口密度の低い自治体。只見川を渡った先は新潟県魚沼市だが、奥只見シルバーライン入口から県境の鷹ノ巣地区までは全道路が冬季閉鎖されるため、定住人口ゼロ。お互いが「秘境檜枝岐」「秘境奥只見」と掲げ合う仲である。

檜枝岐を出発すると、奥尾瀬御池までの上り。最初は一面の紅葉だが、高度が上がるにつれて次第に落葉となり、御池付近はすでに冬景色。山は冬が山頂から下りてくるのが常だが、それを走りながら体感できるのはこういう標高差の大きなルートならではである。

御池を過ぎると、そこは日本有数のアネクメーネ(居住不能)地帯。日本の深山ルートは一見、とんでもない秘境に見えても道端に電信柱が立っており、その粗末な道がインフラであることを意識させられるものだが、奥尾瀬から只見川の県境までは電信柱すらほとんどない。特別豪雪地帯に指定されているこのエリアは長年、徒歩で通過する道しかなかった。国道352号線が自動車用のルートとして全通したのは1970年代と歴史が新しいが、それも本当に通り抜けるためだけのものだ。

そういう場所だけに、自然の息吹は直接的だ。このドライブをした時は、紅葉が最も美しい散り際ジャスト。冬の訪れを告げる強い北風が吹きつけるたびに空一面に色づいた葉が舞う。路面も場所によっては枯葉で覆われている。陽が差し込むところでは、黄色い葉が金色に輝くようだ。数日で山が装いをガラリと変える、まさにその瞬間である。

広いフロントガラスからめいっぱい自然を楽しめる

金色の紅葉トンネルを走る。金色の紅葉トンネルを走る。
景色に誘われてクルマを降りると、落ちたばかりのブナや白樺、ナラの葉の香りが濃密に立ち込め、息をするだけで歓びが湧き上がる。こういう雰囲気の中では、人工物であるクルマはできるだけ存在感がないほうが走らせるほうとしても嬉しいもの。柔和で、かつ意外に控えめなデザインのN-ONEは、そういう景色にぴったりだ。オレンジ色のソリッドカラーはカメレオンの保護色のようで、それもまた楽しいものに思えた。

県境の端を渡ると、そこからは総貯水量日本2位の巨大なダム湖、奥只見湖の湖岸道路だ。道は少し悪いが、ツーリングマニアがよく使う“酷道”という感じではなく、秘境道路としてはかなり走りやすいほうだ。もちろん初心者でもドライブをためらう理由はない。拡幅されている箇所が至るところにあるので、速いクルマに後ろに付かれたらそこで先に行かせればいいし、すれ違いも路肩に寄って上手な人が通過してくれるのを待てばOK。注意すべきことがあるとすれば、落ち葉が吹き溜まったコーナーにオーバースピードで突っ込まないことと、深くえぐれた洗い越し(路面を小川が流れている場所)では十分にスピードを落とすことくらいだ。

ダム湖岸道路と言っても水辺を通るわけではなく、湖面からかなり高い箇所が多い。道路の整備状況は全般的に良好だが、断崖絶壁でガードレールが切れている場所もある。真っ直ぐ行ったら50~100mくらいは簡単に落ちることができるので気をつけるべし。ダム湖岸道路と言っても水辺を通るわけではなく、湖面からかなり高い箇所が多い。道路の整備状況は全般的に良好だが、断崖絶壁でガードレールが切れている場所もある。真っ直ぐ行ったら50~100mくらいは簡単に落ちることができるので気をつけるべし。
奥只見から魚沼への山越えは、素掘りのトンネルが延々続く奥只見シルバーラインがメインルートだが、このときは国道352号線枝折峠を通った。30年前はガードレールのない未舗装路、しかもグラベルですらない完全なダートで、道端の至るところに「転落死亡事故多発 連絡方法なし」という注意書きが立てられていた。が、今は全線舗装。檜枝岐から小出までの区間の中では一番道が悪いが、昔を思えば上等すぎて涙が出るくらいだ。かくして一週間後には長い長い冬季閉鎖(道が悪かった時代よりなぜか閉鎖期間が長くなった)を迎える紅葉真っ盛りの国道352号線と別れを告げた。山岳路へのとりかかりからここまでの100km余ですれ違ったクルマは十数台にとどまる。

視界と足が良く、車幅が狭いN-ONE RSは、こういう道を走るのには言うことなしだった。見通しのきくところではキュンキュンと気持ちよく走ることができるし、ときたまやってくる対向車とのすれ違いも何の気遣いも不要である。そして前述のように、広いフロントガラスからめいっぱいネイチャービューを楽しめる。退屈などするはずがない。

MTが欲しくなる

N-ONE RSのエンジンは旧世代だが結構力強く、活発に走れる。低い回転数ですでに最高出力64ps近くを発生しているような感じだった。N-ONE RSのエンジンは旧世代だが結構力強く、活発に走れる。低い回転数ですでに最高出力64ps近くを発生しているような感じだった。
次にパワートレイン。N-ONE RSのターボエンジンは現行『N-BOX』などに搭載されているものより1世代前のユニットだが、パフォーマンス的には特段の不満はない。ターボと言ってもしょせんは0.66リットルということで、絶対的な動力性能はそう大したものではない。が、中低速から結構力感があり、急勾配でもそれほど回転を上げずぐいぐいと登るし、スロットルレスポンスも良好だった。最高出力64psの発生回転数は6000rpmだが、それよりかなり低い回転数でほぼ最高出力に達するようなフィールだった。

変速機は擬似7速ステップ制御を持つCVT。その擬似ステップをパドルシフトでコントロールすることができ、峠道を固定変速比で走りたいときには有効だった。もっとも、個人的にはCVTより遅くてもいいからよりダイレクトなフィールを楽しめるMTが欲しくなった。5速でいいからラインナップされていればいいのにというのが正直な気持ちだった。

ツーリング燃費はまずまず。668.7kmを走行して給油量は32.91リットル、満タン法による実測燃費は20.3km/リットルだった。国道352号線や国道17号線三国峠など、標高差の大きな区間を連続して走ったことを考えると、十分に受け入れられる数値であろう。ただし、平均燃費計の推移を観察するかぎり(瞬間燃費計は未装備)、パワーをが出ているときの効率は最新のエンジンに比べると一歩劣る印象だった。渋滞を含む都市走行オンリーの実測燃費は17.8km/リットルだった。

ツーリングを十分に楽しめるパッケージング

後席は座面高、足元空間ともにまったく不満なし。後席は座面高、足元空間ともにまったく不満なし。
パッケージング、およびユーティリティは、ミニマムトランスポーターとしては十分。猫も杓子もだだっ広く作られている軽自動車の中ではスペースはまあまあといったところだが、いくつか特筆すべき点があった。

ひとつは後席のヒップポイントが前席に対して十分高く取られており、後席からの眺望がとても良いこと。今回は1人ドライブであったため実際に走って確かめることはできなかったが、ドライバーやナビゲーターの肩やヘッドレストに視界が遮られず、前方や斜め前を肩越しに見渡せそうであった。3名、4名乗車のツーリングでも皆が楽しめることウケアイである。

ドア開放状態。強度を保ちつつこれだけ急角度にドアが開くよう設計するのは大変なこと。開発陣の苦労がしのばれるところだ。ドア開放状態。強度を保ちつつこれだけ急角度にドアが開くよう設計するのは大変なこと。開発陣の苦労がしのばれるところだ。
もう一点はドア開口部が広く、かつドアの開閉角度がとても大きく作られていること。これは地味なことだが、お年寄りなどを乗せるときには非常に好都合であろう。前席まわりに収納スペースが多いのもツーリングカーとして見逃せない美点だった。

室内はこの種の軽自動車の常として、前席を一番前に出し、ヘッドレストを外してシートバックを倒すことでフルフラットにできる。今回は寝袋を持参し、檜枝岐で車中泊を行ったが、そのさいにこのフルフラット機能を重宝した。難点を挙げるとすれば、フルフラット時に前席のシートベルトのバックルが飛び出たままになること。寝返りのさいにそれを踏むと異物感で目が覚めてしまう。ちゃんと収納できればもっと快適に寝られたのにと、惜しい気がした。

運転支援システムは最大の弱点だが

枝折峠界隈にて。この日は霧が出ていたためスロー走行。昔は全線がマッド&ダートで、道幅もこんなに広くはなかったし、ガードレールもなかった。世の中進歩するものである。枝折峠界隈にて。この日は霧が出ていたためスロー走行。昔は全線がマッド&ダートで、道幅もこんなに広くはなかったし、ガードレールもなかった。世の中進歩するものである。
先進安全、運転支援システムはN-ONEの最大の弱点だ。前編でも述べたように用意されているのは30km/h以下でのみ機能する追突軽減ブレーキのみ。しかも標準装備されているのは特別仕様車だけで、常時販売グレードはこのRSも含め、サイド&カーテンレールエアバッグとのセットオプション扱いと、現代のクルマとしてははなはだ不十分である。

クルーズコントロールも前車追従式ではなく単純な設定速度維持方式で、バイパスでも使う機会はなかった。せめて単眼カメラ式でもいいから、今日基準における最低限の先進安全システムを装備してほしいところだ。

唯一好印象だったのはヘッドランプ。光源は最近流行りのLEDではなくディスチャージ管(アーク放電管)。可変配光はおろか、ハイ/ロービームの自動切換えも持たないという原始的なユニットだが、光量、照射範囲、色温度すべてOK。とくに重宝したのは照明のまったくない夜間の山岳路走行で、ハイビームにするとはるか先まで何があるかがくっきりと見え、コーナリング時もコーナーの奥までしっかり照らされるので、安心して走ることができた。

ユニセックスなキャラクターは貴重

ホンダ N-ONE RSのフロントマスク。デビュー以来大きく変わってはいないが、ボンネットにプレスラインが入るなど、当初の純粋性は希薄になった。ホンダ N-ONE RSのフロントマスク。デビュー以来大きく変わってはいないが、ボンネットにプレスラインが入るなど、当初の純粋性は希薄になった。
デザイン考。N-ONE RSは車高1550mm制限のある立体駐車場に停めたいというニーズに応えるためモデルライフ途中で追加されたローダウンというタイプがベースになっている。利便性は高くなったのだろうが、それと引き換えにいささか損なわれた感があったのは、オリジナルのN-ONEが持っていた、コロッとしたユニセックス的な可愛さである。完成されたデザインの屋根を後から大幅に低く整形しろという無理な注文にデザイナーは最大限の努力で応えているとは思うが、どうしても押し潰されたようないびつな感じが残る。

もう一点、これはRSやローダウンだけでなくN-ONE全体の話なのだが、ボンネットフードも変わった。デビューした頃はプレスラインゼロの美しい三次曲面が特徴的だったが、現行モデルはノーマルもローダウンも余計なプレスラインが入ってしまった。コストを考えれば致し方ないのかもしれないが、細部にまでこだわった当初の味が若干ながら損なわれたような気がした。

とはいえ、N-ONEは今でも全体としてはなかなかいい味を出している。漫画チックな可愛さではなく、高い実用性がパッケージングされた骨格にちょっぴり上質な仕立ての内外装を被せることで生まれるユニセックスなキャラクターは、今の時代では結構貴重だ。

N-ONEの魅力は登場から8年目に入った今も消えていない

N-ONE RSはこと、自由な旅でクルマを使い倒したいというツーリング派のユーザーには依然として魅力的な軽自動車だった。走りが良く、疲れが小さい、そこそこ経済的といった基本的な資質を持ち、そのうえでクルマを走らせているだけで目の前の景色を楽しむ気にさせられる独特のツーリング感もある。乗る人の顔が自然とほころぶようなキャラクターという点では、本来のホンダらしさを持つクルマとも言える。

そんなN-ONEだが、デビュー当初こそスマッシュヒットとなったものの、2013年に後部座席のスライド機構を備えた『N-WGN』がデビューすると顧客は一斉にそっちに流れ、さらにダイハツが2015年に発売した競合モデル『キャストスタイル』にも客を取られた。対してN-ONEのほうはローダウン追加とパワートレインの小改良があっただけで、付加価値狙いのモデルに必須な限定カラーの投入、先進安全システムの追加など、適切なアップデートが行われなかった。これで防衛ができるはずもなく、今では月間平均1400台弱を細々と売っている状況だ。

ホンダ社内の事情を見ても、N-ONEは愛情を注いでもらえない、かわいそうなモデルだった。開発を指揮したのはF1畑出身で、今もF1用パワーユニットの開発責任者を務めている浅木泰昭氏。発売当時、浅木氏は「Nシリーズをやろうということになった大本のモデルはN-ONE。いちばん大事なモデルだし、デザイナーからエンジニアまでが自分からやりたいという気持ちで取り組めたクルマだと思う」と、熱弁を振るっていた。

後で知ったのだが、発売前からN-ONEの立場は良いものではなかった。発売予定の商品を社長や役員が見て回る社内イベントにN-ONEが出たとき、当時の伊東孝紳社長は「俺はこういうクルマには興味がないんだよ」と言ってN-ONEの前を素通りしようとした。慌てた幹部が「そんなこと言わないで見てあげてくださいよ」と言い、渋々少しだけ見た…ということがあったという。ガチガチの縦社会である自動車メーカーでトップに愛情を示してもらえなかったその瞬間、N-ONEの運命は商品力以前の問題で決定付けられていたと言える。

だが、クルマとしてのN-ONEの魅力は登場から8年目に入った今も消えていない。実用性が高く経済的で、足が良く、ちょっと凝ったデザインを持ち、軽の小ささゆえに舗装されてさえいれば大抵の道に分け入っていける。そんなN-ONEのいくつかのグレードの中で走りに最も最適化されたRSは、ベビーツアラーで旅をするのが趣味というオーナーの愛着に十分応えてくれるだろう。

筆者が得た情報によれば、ホンダ社内の2021年までのロードマップにN-ONEの改良は全面、部分ともない。2021年の衝突軽減ブレーキ義務化までに、ディスコンとなる可能性が高い。このカタチを新車で手に入れるなら、そろそろラストチャンスか。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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