【MaaS体験記】ニュータウンの移動をシームレスに…町田市のオンデマンド交通「E-バス」の実証運行

町田市山崎町周辺を走るオンデマンド交通「E-バス(町田)」
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今回の取材は、町田市山崎町周辺において実施するオンデマンド交通による実証運行だ。このエリアは、小田急・JR横浜線「町田駅」と路線バスとで結ばれ、幅広い年代層が居住する。高齢者も多いこのエリアでは、朝夕の通勤・通学に加えて日中の買い物や通院などでの移動需要を検証する。

今回は、MaaSアプリ『EMot(エモット)』を利用して実際にE-バスに乗車し、居住者にも意見も聞くことができた。

オンデマンド交通「E-バス」とは

本実証実験は、東京都が公募した「令和2年度 MaaS 社会実装モデル構築に関する実証事業」に選定された取り組みだ。同エリアでは2020年11月から約1か月間、無償での実証運行をしており、今回はサービス実用化に向けて有償での実証運行となる。

車両は、町田市から提供されたトヨタ『ハイエース』2台で、運転手は小田急グループの神奈中タクシーが担当する。配車システムは、NTTドコモの『AI運行バス』を活用し、MaaSアプリ「EMot」から予約することができる。

昨年の実証運行時には19k所だったミーティングポイント(乗降場所)を今回26か所に増やした。路線バスからの乗り継ぎをシームレスにするため、バス停からの乗り降りを可能にしたのが理由だ。そのため、今回から神奈中バスの一部バス停には「E-バス」の案内標識を見つけることができる。

バス停の「E-バス」案内標識バス停の「E-バス」案内標識

オンデマンド交通「E-バス」の実車体験

町田駅から2両編成の「ツインライナー」に乗り、山崎団地センターのバス停まで向かった。向かう途中にMaaSアプリ「EMot」からデマンド交通「E-バス(町田)」を予約する。今回新たにミーティングポイントに追加されたバス停から、次の目的地までデマンド交通を利用するためだ。

MaaSアプリ『EMot』での配車予約MaaSアプリ『EMot』での配車予約
MaaSアプリ「EMot」を開くと画面上部の「デマンド交通」を見つけることができる。今回から出発地・目的地の選択を、地図に加えて番号から選べるようになった。現在地からの検索があるとさらによさそうだが、利用者からのフィードバックを反映させて昨年からアップデートされている。また、今回から有償になるため、支払い方法を「車内でお支払い」「事前決済(クレジットカード)」から選べるようになった。

バス停で降りると、すぐに予約したオンデマンド交通「E-バス」が到着。今回は車体が水色のラッピングカーなのですぐ目につく。乗車すると、QRコードを読み取り、予約番号をドライバーに見せる。支払いを車内にしていたため、ICカードリーダーにスマホをかざして支払った。

利用者は、30代くらいの子連れのお母さんから50代や60代の方が多いとドライバーは話す。年配者にはやはりQRコードはわかりづらく、読み込みがうまくいかないケースもあると言う。5分程度で目的地のバス停に着いた。

車内にあるICカードリーダー車内にあるICカードリーダー

路線バスの間を結ぶ交通手段が必要

このエリアでは、路線バスがエリアの北側と南側に2本走っている。その間は高台となっており、その傾斜を利用して棟がいくつも建っているいわゆるニュータウンだ。エリアの北側にある「上山崎」のバス停で待っているときに、近くに住む高齢者から話を聞くことができた。

「山崎高校の前を通って山崎団地センターまで行くコースで行きたい」と話す。孫に会いに行くために、自宅からバス停まで遠くて歩くのが辛いという。北から南に行きたいということだが、直接結ぶ路線バスがないので、このオンデマンド交通が使えないかと思案していたらしい。

スマートフォンは持っていないようで、電話で予約ができることを説明したら喜んでいた。バス停にある案内標識だけだと、オンデマンドであることがわかりにくく、QRコードが目立っていて電話番号も小さい。そもそも路線バスとの違いについての説明が必要なことも痛感した。住民の方にはチラシを配布する予定ということなので、その反響がどれくらいだったか今後の検証に期待する。

「E-バス」での移動中、歩いている高齢者や車椅子で移動している方を車窓から見かけた。このエリアは高台になっているためアップダウンが激しい。それを考えると、今回のような路線バスの間を結ぶような移動手段が簡単に利用できることは、高齢者にとって願ったり叶ったりのように思えた。

駅から続く路線バスのバス停駅から続く路線バスのバス停

公共交通機関とセットで住民を支援する

町田市は、これまで路線バスが運行されてこなかった「交通空白地区」の解消に向けた取り組みを進めている。今回の山崎町周辺では、小田急電鉄といっしょに場所の選定から検討を進めたという。「これまで駅から放射線状に広がる移動手段は路線バスで提供できていたが、その間を取り持つような移動手段はなかった」と町田市交通事業推進課の須田課長は話す。

今回のように、駅から路線バスに乗り、さらにオンデマンド交通に乗り継ぐユースケースは、駅から数えると三次交通にあたる。これまでであれば、駅から路線バスに乗り、バス停から徒歩で帰宅する人が多かったため、バス停からオンデマンド交通の利用ができるようにして、公共交通機関とセットで自宅まで利用できるようにしている。今回の実証運行から、小田急・JR東日本の各公式アプリから「リアルタイム経路検索」で路線バスの情報が見れるようにもなった。

昨年の実証運行は、朝の通学・通勤や夕方の帰宅時の利用より、日中の利用者のほうが多かったと神奈中タクシーのドライバーは話す。医療や介護、福祉施設が並ぶ「グランハート町田」など、通院や買い物をされる方の送迎が多かった。ミーティングポイントに、「スーパー三徳」のほか今回から「ミニストップ(コンビニ)」も追加されているため、朝や夕方に寄り道をするような利用方法も考えられるのではないだろうか。高齢者が多く坂道が多いこのエリアでは、短距離移動の需要は高いと言える。

「グランハート町田」にあるミーティングポイント「グランハート町田」にあるミーティングポイント

シームレスな移動サービスとして

いわゆる「ニュータウン」と呼ばれる場所には共通する問題がある。高台に建っている団地には、坂道が多く高齢者が多い。路線バスは駅から放射線状に広がるコースしか持ち合わせておらず、間を埋めるような交通手段はとくになく、マイカーでの移動を前提にしていることが多い。したがって、居住者はちょっとの距離なら歩くしかない。自転車なども考えられるが、高齢者にとっては車のほうが楽だろう。

そうした問題に対して、駅からの路線バス、路線バスからデマンド交通といったシームレスな移動サービスを自宅まで引き伸ばすことにより、居住者にとって有効な移動手段という認知を広げることが急務となる。今回の実証運行は、居住者に対してオンデマンド交通の利便性を紹介するとともに、ちょっとの距離でも楽に移動できる手段を提示し多くの方に利用してもらうことだと言える。

そのためには、居住者が簡単に利用できて、高齢者でもすぐに利用できる仕組みが課題となる。今回のMaaSアプリ「EMot」での予約手続きはまだまだ改善点が多く、ITリテラシーが高めの人でも離脱してしまう可能性がある。一方で、電話で配車予約ができるようになったことは高齢者向けサービスとしては大きな前進と言える。今回の取材中に感じた、電話予約へのアクセス方法や、オンデマンド交通の説明、往復や繰り返し利用への対応など今後のさらなるアップデートに期待を寄せる。

バス停で待つ居住者バス停で待つ居住者

■MaaS 3つ星評価
エリアの大きさ:★☆☆
実証実験の浸透:★☆☆
利用者の評価:★★☆
事業者の関わり:★★☆
将来性:★★★

坂本貴史(さかもと・たかし)
株式会社ドッツ/スマートモビリティ事業推進室 室長
グラフィックデザイナー出身。2017年までネットイヤーグループ株式会社において、ウェブやアプリにおける戦略立案から制作・開発に携わる。主に、情報アーキテクチャ(IA)を専門領域として多数のデジタルプロダクトの設計に関わる。UXデザインの分野でも講師や執筆などがあり、2017年から日産自動車株式会社に参画。先行開発の電気自動車(EV)におけるデジタルコックピットのHMIデザインおよび車載アプリのPOCやUXリサーチに従事。2019年から株式会社ドッツにてスマートモビリティ事業推進室を開設。鉄道や公共交通機関におけるMaaS事業を推進。

《坂本貴史》

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