蘇るスカイライン伝説…『400R』は操安性を知り尽くした日産のスーパーセダンだ

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日産 スカイライン400R
日産 スカイライン400R全 36 枚

日産『スカイライン』に最強のモデル、「400R」が加わった。と聞いてスカイライン、とくに『GT-R』ファンの多くは、「往年の400R」が蘇ったのかと思うに違いない。 

往年の400Rとは何か、それは1995年まで遡る。当時のR33型『スカイラインGT-R』をベースに日産のレース部門であるNISMOがエンジン、ボディ、シャーシ全てに手を加えたチューンドコンプリートカーを完成。それが『GT-R NISMO 400R』だった。

海外レースでも使われる直列6気筒2.8リットル(標準は直列6気筒2.6リットル)は、ボア/ストロークの拡大によりパワー/トルクは400ps/47.8kgmにまで高められ、低速トルクの太さから、回転レスポンスに勝り、軽快なダッシュ力は、GT-Rが1.6リットルクラスかと思うほど低回転から7000rpmまで淀み無く回った。アンダーステアとは無縁のハンドリングは旋回する事を楽しくして、一般公道を自在に操れるサーキットの雰囲気に変えてしまった。

筆者は1990年、R32型スカイラインGT-Rのデビューから程なくしてレース仕様のGT-RでN1耐久(現在のS耐)シリーズに参戦して、「GT-R使い」のひとりに名を連ねる。1992~93年にはALTIA FALKEN GT-Rで2年連続のN1耐久シリーズチャンピオンに輝いた事も、レーシングドライバー人生最大の勲章として残る。

ありとあらゆるスカイライン、GT-Rに乗った者から見ても、当時市販車最速のGT-Rであった往年のNISMO 400Rからは、あらゆる意味で刺激を受けた。だからこそ、と言うべきか現代に蘇った400Rもまた、特異な存在に映るのだ。

その名と同時に、スカイライン伝説も蘇った

日産 スカイライン400R日産 スカイライン400R
さて現代に蘇った400Rは、スカイラインとしての最強グレードになる。一見、何の変哲もないセダンだが秘めたる強心臓と、運動性能の高さから「羊の皮を被った狼」と形容される、スカイライン伝説も同時に蘇った。

EV、シリーズハイブリッドのe-POWERと、次々に未来のパワーソースを量産市販する日産にあって、内燃機関ターボの決定版を世に示そう!! と、エンジニアが頑張った賜物がVR30DDTT型エンジンである。

と、言うのはボクの勝手な思い込みだが、直列6気筒ツインターボの究極が当時のNISMO 400Rに搭載された2.8リットルのRB-X GT2だとすれば、スカイライン史上最強のV型6気筒3.0リットルツインターボは、400R専用にチューンを受けた最強のV6である。

日産 スカイライン400R日産 スカイライン400R
400Rのバッジが示すスペックは405psのパワーと48.4kgmのトルク!! 時代が違うとは言え、過去のNISMO 400Rのスペックを凌いでしまった。しかも過去はそれがGT-Rに搭載された。つまりそのエンジン出力を4輪に分散して駆動する“AWD”。これも日産が世界誇る4輪駆動制御技術のアテーサE-TSを介してタイヤから路面に伝達した事で成立した。

対して、スカイライン400Rは後輪駆動、リア2輪の“RWD” にエンジンパフォーマンスのすべてが伝わる。有り余るパワー/トルクのFR(フロントエンジン・リアドライブ)モデルのアクセルを床まで踏み込むとどう変貌するか、駆動方式の違いとエンジン出力の組み合わせを、過去に数多く経験して来た者にとって、それはもう想像するだけで身震いする!! 

エンジンパワーを引き出して、“羊から狼”に変貌する瞬間の変化を想像するだけで、そら恐ろしいと言う意味だ。

静々と流れる様に転がる400Rは、従順のひと言

日産 スカイライン400R日産 スカイライン400R
ドアを開けて乗り込んだ室内は、ブラックでまとめられたなかにホワイトのシートのコントラストが際立つ。オトコの仕事場的なスポーツの印象!? というよりも上質感が漂うといった感じだろうか。

低い着座位置を可能にし、アクセルとブレーキの2ペダルの位置と角度、ステアリングの角度と高さも自在に調整でき自然なドライビングポジションが造れるのは、スポーツカーも造り続けた日産の良識。外観は400Rのバッジと赤のブレーキキャリパーが一見で判る識別点だ。

スタートボタンを押して始動するエンジンには獰猛な印象はカケラも無い。トルコン式7速ATをDレンジに入れアクセルに軽く足を載せると、静々と流れる様に転がる400Rは、従順のひと言。

日産 スカイライン400R日産 スカイライン400R
市街地での乗り味云々はともかく、やはり郊外、特に峠道で400Rはどうかというと、「ダイレクトアダプティブステアリング」の操作に対する応答の早さと実際に曲る切れ味の鋭さが印象的。自分が意図した動きと、ほぼ同時に切れる、曲る感覚が400Rの特性。高速での直進性は、中立の確かさがレールに股がっているようだ。決してフラつかない微少なステア操作での応答の早さが絶妙な上手さである。

法定速度で走行する400Rは操作に対する応答性に鋭さはあるものの、従順そのもの。約100分の1秒の素早さでクルマの挙動を最適化するという「インテリジェント ダイナミックサスペンション」が効いているのだろう。高速道路の繋ぎ目の通過や路面のザラ付きに硬い感触はあるが、サスペンションのストローク感そのものはスムーズ。ランフラットタイヤの特性がそうさせるのだが、硬い突き上げ感を決して伝えないと言う意味で、ランフラットの特性をサスペンションが巧みに吸収していると思う。

「スポーツプラス」で解き放たれる野獣

日産 スカイライン400R日産 スカイライン400R
動力性能を確認する為、世界的に知られる最大斜度10%、平均7%の急勾配である箱根ターンパイクに行く。有り余るエンジン特性は急坂をモノともせず、後方から強引に背中を押し続けられて突き進む。走行モードをスポーツに切り替えると、全ての操作が俊敏になる感触。この上にはスポーツプラスが用意されて、恐いもの見たさで切り替えると、駆動トルクの伝わり方が明らかに早く強力になり、ホイールスピンも許すので、即効スポーツに戻す。

あっという間に法定速度に達するため、ここで400Rの実力を引き出す事など到底無理。そこでレスポンスのホームサーキットである袖ヶ浦浦フォレストレースウェイに向かう。

ここでスポーツプラスを選択すれば、まさに“解き放たれた野獣”。元々400Rは北米市場で「インフィニティQ50 RED SPORT 400」として先行されて、アメリカンのハートを鷲掴み。つまりスポーツセダンはアクセルONと同時にホイールスピンするもの、という認識が受け入れられる。400Rは、安定制御の介入を遅くすると245サイズのタイヤはいともカンタンに路面を掻きむしる。有り余るエンジン特性をフルに発揮するそれは、まさにアメリカンマッスルカーだ。

コーナーでも“じゃじゃ馬”な特性の片鱗が見えるが、パワースライドによるドリフトアングルをある程度許容してくれたところで車輌安定装置=VDCが介入、素早く安定したコーナリングを実現する。

日産 スカイライン400R日産 スカイライン400R
それならば、とあえてVDCをOFFにする。純ナマの405ps/48.4kgmが炸裂すれば、じゃじゃ馬どころか“暴れ馬”。正統派!? なパワースライドから、カウンターステアで修整しつつアクセルコントロールで姿勢を正す。その操作は最新のGT-Rよりもシビアでドライバースキルを要求する。

それは制御をOFFにしてわかった事だが、こうして400Rを様々なステージで試すと、機械に乗せられているのとは違う「クルマと対話しながら走る」というクルマの基本的な部分を思い返す。FRスポーツとして古典的だが、有り余るエンジン特性とV6が嘶くサウンドを耳にしながら、右足でドリフト量をコントロールする醍醐味は400Rでしか味わえないと思った。

400Rは決してサーキットを攻めるためのクルマではないが、もし速いラップタイムを希望するならVDCをONにしてスポーツプラスを選択すればそれは叶うだろう。

この時勢に400Rとして国内にリリースしてくれた事に、GT-R使いではあるが、ドリフトもカウンターステアも自在に行なえるモデルの重要性を知る者からすると「感謝」である。世界一優れたAWD、そしてFWDの操縦安定性も知り尽くした日産だからできるRWDのスーパーセダンである。

日産 スカイライン400Rと桂伸一氏日産 スカイライン400Rと桂伸一氏


桂 伸一|モータージャーナリスト/レーシングドライバー
1982年より自動車雑誌編集部にてレポーター活動を開始。幼少期から憧れだったレース活動を編集部時代に開始、「走れて」「書ける」はもちろんのこと、 読者目線で見た誰にでも判りやすいレポートを心掛けている。レーサーとしての活動は自動車開発の聖地、ニュルブルクリンク24時間レースにアストンマー ティン・ワークスから参戦。08年クラス優勝、09年クラス2位。11年クラス5位、13年は世界初の水素/ガソリンハイブリッドでクラス優勝。など、レーサー業も続行中。

《桂伸一》

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