コロナ禍の旅行業界、先行き悲観から事業を畳む「あきらめ廃業」増加へ…帝国データバンク

旅行会社の倒産や廃業、8カ月で過去最多更新 年間200件ペースで推移
旅行会社の倒産や廃業、8カ月で過去最多更新 年間200件ペースで推移全 3 枚

コロナ禍の長期化で観光業界が大きなダメージを受ける中、旅行会社の倒産・廃業が2021年に入って急増。帝国データバンクが調査した結果、2021年1-8月までの8か月間で判明した旅行会社の倒産・廃業が累計136件に達した。

コロナ禍初年の2020年通年の件数(129件)を既に超え、過去最多を更新。このペースが続くと、2021年の旅行会社における倒産・廃業累計件数は、初の年間200件超えが避けられない情勢となる。

コロナ禍による観光需要激減に直面した旅行業界は、昨年に実施された「Go To トラベル」で需要が一時的に持ち直したほか、金融機関による資金繰り支援策、持続化給付金など一連の手厚い支援を受けてきた。また、コロナ禍による行動制約の緩和を受けた海外では、観光需要が反動で増加している国・地域もあることから国内でも先行き期待感が高く、そのため2020年中の倒産や廃業は増加しながらも比較的抑制されてきた。

しかし、新型コロナ感染の再拡大によるGo To トラベル事業の停止に加え、今年も渡航制限や国内の移動自粛が続き、旅行需要は冷え込んだままとなった。さらに東京オリ・パラの開催で需要が見込めた海外観客の受け入れもできないなど厳しさが続き、大手旅行会社でも大幅な赤字決算、人員整理など、コロナ禍のダメージは深刻さを増している。その中で、経営体力に劣る中小旅行会社では、先行きの需要回復への期待感が薄れたことで事業に対する「あきらめ」ムードが広がり、倒産や廃業が増加する要因となった。

海外旅行を行う一般旅行会社で倒産・廃業が急増、 コロナ前から倍増している海外旅行を行う一般旅行会社で倒産・廃業が急増、 コロナ前から倍増している

海外旅行を取り扱う一般旅行会社はコロナ前から倒産件数倍増

種類・業態別の倒産・廃業件数で最も多いのは「旅行代理店」の74件で全体の半数を占める。また、コロナ前の3年間平均(2017-19年1-8月の平均)に比べると76%増加、2020年の同期間からも61%増加。新型コロナウイルスの感染拡大で国内外の旅行手配中止や顧客からのキャンセルが相次ぎ、ツアーパックの販売自粛も余儀なくされた。加えて出張や研修などビジネス利用も激減したことで、格安航空券などチケット販売も振るわず、売上が急減。一方で、代理店の多くは売上急減に家賃や人件費など固定費負担が追い付かず、倒産を余儀なくされたケースが多くみられた。

旅行会社の景況感は東日本大震災より悪化、 過去最低レベルが1年超にわたり続いている旅行会社の景況感は東日本大震災より悪化、 過去最低レベルが1年超にわたり続いている

コロナ前から最も増加したのは、海外旅行のツアー企画や募集が可能な一般旅行会社で、コロナ前平均から122%増と倍増。前年からも60%増となり、2021年に入って急増傾向が顕著となっている。コロナ禍以前は、利益率の高い海外旅行需要は総じて堅調だったことに加え、中国などからインバウンド客の取り込みに成功したこともあり業績を伸ばした企業も多い。しかし、昨年以降は海外旅行需要が消失し、Go To トラベルも国内旅行に限定されたことから、海外ツアー専門会社などでは資金繰りが急速に悪化。また、新型コロナの収束は見込みが立っておらず、海外旅行の制限緩和時期も見通せないことから、中小の総合旅行会社や、海外ツアー専門会社を中心に事業の継続を諦めるケースが増えている。

リーマンショックや東日本大震災を大幅に下回る旅行会社の景況感

帝国データバンクがまとめた企業の景気動向を示す景気DIでは、旅行業は緊急事態宣言下の2020年4月に過去最低の0.0を記録した。以降は、Go To トラベル事業の恩恵も追い風に景況感が回復傾向にあったものの、短期間のうちに停止へ追い込まれたことで再び悪化。21年6月時点で8.0にとどまり、大きく落ち込む状態が続いている。

景気DIの基準値は50で、それより数値が大きければ景況感がよく、逆に小さければ景況感が悪い。全国では、新型コロナの感染拡大、1回目の緊急事態宣言の発出から景況感が大幅に冷え込んだ。その後は、製造業や小売業で回復し、景況感は持ち直しつつある。一方で、旅行会社ではリーマン・ショックの影響が広がった2009年8月(17.7)、東日本大震災後の11年4月(14.1)をさらに下回る低水準が1年以上も継続。回復の糸口も未だにつかめない状態となっている。

旅行会社の今後は、コロナワクチンの接種普及による移動制限の緩和に左右されることとなる。現在も営業を続ける旅行会社では、海外同様に経済活動が正常化することで、これまで抑制されてきた旅行の反動特需を見込み、その間は新たな事業を模索するなどで耐え続ける企業が多い。ただ、帝国データバンクが今年6月に行った調査では、旅行会社約1600社の2020年度業績で9割超が前年から減収を強いられており、旅行需要が激減したまま出口が全く見えず、体力勝負を余儀なくされる厳しい状況が続いている。既に1年以上の忍耐を強いられていることもあり、中小規模の旅行各社で今後の需要回復の希望や実感が持てず、自ら事業をたたむ「あきらめ型」の廃業や倒産の発生ペースはさらに速まる可能性が高い。

《纐纈敏也@DAYS》

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