「電気か水素かHVか、そんな議論はナンセンス」揺れる自動車業界を、国際モータージャーナリスト清水和夫が読み解く

「電気か水素かHVか、そんな議論はナンセンス」揺れる自動車業界を、国際モータージャーナリスト清水和夫が読み解く
「電気か水素かHVか、そんな議論はナンセンス」揺れる自動車業界を、国際モータージャーナリスト清水和夫が読み解く全 5 枚

世界的なカーボンニュートラルの動きに加え、DX革命、コロナパンデミック等による社会様式の変容は、あらゆる業界への変革圧力となっている。自動車産業もその例外ではなく、メーカー、サプライヤー、ディーラーすべてが対応に迫られている。

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政府・市場・消費者、それぞれの動きが複雑に絡みあい、たとえば電動化や脱炭素といった課題にも落としどころが見いだせない状態だ。状況や情報を分析し、それぞれの立場、個社ごとに戦略を決めていくしかない。分析は困難で、対応策に「銀の弾丸」は存在しないと思ったほうがいい。

しかし、専門家や識者の意見や情報は意思決定の役に立てることができる。今回、レスポンスの兄弟サイトでCASEや最新モビリティ情報を発信する会員サイト「mirai.Response」が、国際モータージャーナリストで政府の専門委員も務める清水和夫氏にインタビューを実施。自動車業界を取り巻く状況を聞いた。

電動化がさまざまな業界の「横串」を通す

----:エネルギー問題から半導体不足と不透明な状況の中、自動車業界の分析は難しい局面だと思いますが、現在の状況をどう捉えていますか。

清水氏(以下同):脱炭素やカーボンニュートラルの課題は、国家戦略やエネルギー政策として考える必要があります。同時に、コネクテッドや自動運転、電動化といった視点では、さまざまなプレーヤーからの参入があります。全体を俯瞰できるような視点、網羅的な分析が重要だと思っています。

自動車産業は、ハードとしての車両の開発製造だけ考えていればいい時代ではなくなりました。エネルギーやIT、都市環境やモビリティなどかかわる領域が広がっています。ホンダや川崎重工が力を入れている航空機や空飛ぶクルマになれば、モビリティは3次元で考えなければなりません。いままでの業界視点ではなく、もっと全体をスコープする取り組みが必要でしょう。

いまよりひとつ上のビジョンやスコープで、複数の業界を横串で通す。業界をアップデートする意味でも、外からのバックキャストを増やせるようなしくみを作るべきではないかと思います。

ホンダのeVTOLホンダのeVTOL

----:トヨタは数年前から「モビリティカンパニーになる」と言っています。

清水氏:はい。直近のホンダもよい例だと思います。ホンダは、二輪、四輪の他ロボット、ドローン、飛行機やエネルギーまで、事業範囲でいえばトヨタより広い。ホンダは電動化を宣言していますし、MaaSについてもeMaasという言葉を使っています。じつは電気のほうが各業界の横串を通しやすいのです。

業界には電気か水素かハイブリッドか、のような議論が一部ではあります。そもそもそれぞれが対立することがナンセンスです。取り上げる要素が個々の技術でも、細かい業界や分野ごとの話だけで議論していては、おそらくまとまるものもまとまらないでしょう。産業構造が変わろうとしているので、日本がとるべき産業の全体像のような上位概念が必要な時に来ていると思います。

水素で発電する燃料電池車のトヨタMIRAI(ミライ)。水素で発電する燃料電池車のトヨタMIRAI(ミライ)。
ホンダもトヨタもこのことはよくわかっているはずです。ホンダは独立・独自路線のイメージがありますが、トヨタとも関係は深いですし、二輪のバッテリーパックでは国内外の企業と連携しています。自分の業界だけではなく、広く業界や市場をみた横串の動きといえます。

その一方で、トヨタはトラックもやっているがホンダはやってない、といった違いがあります。頂上までの「登山道」の違いがあるかもしれませんが、トヨタ・ホンダ・日産も目指す頂上は同じのはずです。

難しいのは、政府、消費者など社会や市場のニーズが必ずしも一致しないことです。自動運転やバッテリーなど政府は目標を設定しますが、ユーザーがそれを買わなければ絵に描いた餅でしかありません。デファクトとデジュール(事実上の標準と法規)の違いは、政府も認識すべきです。

CASEは単なる技術革新ではなく産業構造の変革

----:メーカーはその気になれば横ぐしを通しやすいポジションだと思いますが、サプライヤーはどうでしょうか。

清水氏:日本サプライヤーの場合、大手OEMとのつながりが強いのでTier1でもグループから独立した動きはしづらい部分があります。しかし、ボッシュやソニーなどの動きには注目しています。ソニーは完成車メーカーからすればデバイス供給などTier2といえますが、かえってひとつのメーカーに縛られず動きやすい面があります。

ソニーが発表した『Vision S』は、ソニーの強みであるカメラ・センサー技術のショールーム的な解釈もありますが、カメラ技術単体では、ただの部品サプライヤーになってしまいます。市場や発注元がどんな製品を求めているのか、どんな技術でそれに応えられるのか。それを知るため、バーチャルOEMになって車両技術や自動運転を広く研究しているのです。

CASEは単なる技術革新ではなく産業構造の変革なのです。

CES 2020で初公開されたソニー「VISION-S」CES 2020で初公開されたソニー「VISION-S」
----:それは業界再編がさらに進むということも意味するのでしょうか。

そうですね。自動車の販売ではKINTOのような形態が生まれたり、各社のオンライン販売を強化したり、ディーラー再編につながりそうな動きも見られます。TNH(トヨタ・日産・ホンダ)のようなくくり方も変わってくるかもしれません。

ただ、再編というより協調領域の拡大や枠組みを変えるという発想が重要です。たとえば軽自動車のエンジンは業界自主規制でスペックはほぼ横並びです。細かい差異はあるものの、エンジンの事業会社を作ってそこに集約すれば効率もよいし、技術開発も集中できます。エンジンはスズキ、ターボは三菱重工と得意分野の技術を集約できます。共通化すればサプライヤーも無駄が省けるのではないでしょうか。

TNHはもっと大きな領域で協調できるはずです。

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《中尾真二》

テクノロジージャーナリスト・ライター  中尾真二

アスキー(現KADOKAWA)、オライリー・ジャパンの技術書籍の企画・編集を経て独立。現在はWebメディアを中心に取材・執筆活動を展開。インターネットは、商用解放される前の学術ネットワークの時代から利用し、ネットワーク、プログラミング、セキュリティについては企業研修講師もこなす。エレクトロニクス、コンピュータのバックグラウンドを活かし、自動車業界についてもテクノロジーを中心に取材活動を行う。

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