日本再上陸のヒョンデとはこんなメーカー…昔とはちがう

ヒョンデ・アイオニック5(2022年日本導入)
ヒョンデ・アイオニック5(2022年日本導入)全 14 枚

日本の乗用車市場への再進出を発表した韓国の現代ヒョンデ自動車は傘下に起亜(キア)自動車を擁する世界の自動車業界におけるメガグループのひとつである。

創業は韓国が事実上の軍事独裁政権下にあった1967年と、自動車業界の中では比較的歴史が浅い。2021年のグループ世界販売は666万台と、GMを抑えて世界5位で、うちヒョンデは389万台、キアは277万台だった。

両ブランドの起源は別で、ヒョンデは三菱自動車、キアはマツダおよびアメリカのフォードの技術をバックボーンとして発展したが、1999年にヒョンデがキアを傘下に収めてからはヒョンデの技術に集約され、現在に至っている。

さて、そのヒョンデだが、世界でポジティブに評価されるようになったのはわりと近年のことである。三菱自の技術供与によって『ランサー』をベースとする初めての韓国オリジナルモデル『ポニー』を完成させたのは1975年のこと。そのポニーがフルモデルチェンジで第2世代となったさいにカナダ向けに同社初の輸出を行ったが、その評判は散々なもの。85年には三菱『ミラージュ』をベースにコンパクトカー『エクセル』を作り上げ、念願のアメリカ販売を実現(86年)させたが、これも悪評ふんぷんだった。実はキアも80年代、マツダが開発を行ったフォード『フェスティバ』のノックダウン版である『プライド』を作って輸出したことがあるが、これも品質評価はきわめて低かった。

これらの黎明期の大失敗は韓国製自動車のイメージを非常に悪いものにしたが、結果から見るとこの失敗があったからこそ今の韓国車のポジションがあるとも言える。世界各地に拡散した最悪の評価を払拭しないかぎり韓国の自動車産業に未来はない。それを成し遂げるために遮二無二技術を学び、先進国の自動車メーカーからデザイナーを招聘し、時には開発チームを丸ごと引き抜いたりと、欧米企業もびっくりの“肉食系”経営を行った。21世紀に入った頃からその取り組みがようやく実を結びはじめ、世界での評価が徐々に上がっていった。

そのヒョンデにとって日本市場は再チャレンジである。20年あまり前の2001年に小型セダン『エラントラ』を皮切りに、小型車『TB(本国名ゲッツ)』、高級車『XG』、中型セダン『ソナタ』などを続々投入。当時の仮名書きは「ヒュンダイ」だった。ブランドには世界一口うるさい日本での販売を成功させることで世界での地位をさらに高いものにしたいとの目論みがあったと言われる。が、このチャレンジは時期尚早もいいところで、日本のユーザーの興味をほとんど引くことができないまま2010年に商用車であるバスを残して撤退していった。

今回の日本市場への再参入は前回と異なり、世界有数のメジャープレーヤーとしてやってくる。欧州ではトヨタ自動車の上を行くアジアンブランド首位、アメリカではホンダを抜いてトヨタに告ぐアジアンブランド2位。またアメリカ市場では高級ブランド『ジェネシス』の展開も始めている。ジェネシスについては当初から無謀な挑戦との声が大勢を占め、実際苦戦もしている。が、顧客からまったく相手にされていないというわけでもなく、一定数が売れていることをプラスに評価する声も出始めている。これも失笑を買うことを恐れないヒョンデの“イケイケ”な経営スタイルの表れであろう。

その余勢をかって日本にやって来るわけだが、もちろん普通のクルマを売ったところで商品の選択肢の多い日本でわざわざそれが選ばれる可能性は限りなく低い。その開かずの扉を電動化という新しい波でこじ開けたいというのがヒョンデの思惑であろうが、果たしてその成否やいかに。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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