鶏と卵問題:世界はEVが先、充電器はあとから…日本の充電インフラ事情[インタビュー]

鶏と卵問題:世界はEVが先、充電器はあとから…日本の充電インフラ事情[インタビュー]
鶏と卵問題:世界はEVが先、充電器はあとから…日本の充電インフラ事情[インタビュー]全 1 枚

日本のEV市場は世界から5年遅れと言われる。その理由のひとつに日本の充電インフラの整備事情があるとされる。本当だろうか。

富士経済は、長年充電インフラの調査を続けており、2018年から毎年、各国のインフラのストック状況などの詳細なレポートを出している。7月7日開催のオンラインセミナー「欧米中日における充電インフラ最新トレンド」では、同社インダストリアルソリューション事業部 第二部 シニアリサーチャー 山田賢司氏が、世界および日本の充電インフラ最新動向をレビューする講演を行う。これに先立ち、山田氏に世界のインフラ整備状況と日本の違い、なぜ日本で充電インフラ整備が進まないのか、聞いてみた。

急速充電器の高出力化と中国の躍進が世界のトレンド

――まず、国内外の充電インフラの整備状況について整理したいと思います。2021年の各国の整備状況、トレンドはどうなっているのでしょうか。

山田氏(以下同):富士経済は、毎年2月に、その前年末の時点の充電インフラの整備状況を集計しています。調査対象国は欧州主要国、米中日にインド、アセアン諸国などを加えた17か国です。

充電器のトレンドをひとことでいえば、大出力化と中国の躍進となります。大出力化は欧州を中心に100kWh級の大容量バッテリーを搭載した車両が増えたことで、充電器の出力も200kW、350kWと大出力のものが求められ、増えています。北米でもリビアンやフォードなどのピックアップトラックに150kWh、200kWhというEVトラック並みのバッテリーが搭載され、市場投入が始まっているという状況から、高出力の充電ニーズが高まっています。中国は、国内標準規格であるGB/Tの関係で185kWがひとつの基準になっていましたが、ChaoJiで目指している900kW機の実用化に先駆けて、広汽埃安新能源汽車が自社グループのEV「AION」の専用充電器として480kW機の実設置を始めるなどの動きが出てきており、高出力化のトレンドは同じです。

――日本の状況はどうでしょうか。

日本は整備開始が早かったため、充電器の設置数では欧米に遅れをとっているわけではありませんが、10年の機器交換時期を迎え、廃止される充電スポットの増加が問題になっています。また、国内ではいまのところ高出力化のトレンドは起きていません。

日本の充電器整備が遅れた理由

――なぜ日本の充電インフラ整備は遅れているのでしょうか。

いろいろな要因が重なっているのですが、ひとつには国産EVのバッテリー容量が比較的少ないので、現在の市場に出回っているEV車両ならCHAdeMOで主流の50kW充電器で十分という状況があります。国産でもアリアやソルテラなど60kWh、70kWhのバッテリーを搭載した車種も増え始めており、90kWの充電器の設置も始まりましたが、高出力ニーズはそれほど高くありません。

――一部では、電力の料金体系や高電圧契約の手続き、コストの面でインフラ整備が進まないという声もありますが。

もちろん、その理由もあると思います。50kW以上の充電器を設置するための設備投資などのハードルはあります。ですが、世界の動向をみても、充電インフラは市場のEV車両のニーズ(バッテリー容量)に合わせて整備、強化されています。よくあるインフラが先かEVが先かという鶏と卵の議論でも、EVは車両の普及が先にくるのが世界の潮流です。インフラ先行型の投資は世界的にも主流ではありません。

日本は急速充電器の価格競争が起きていない

――日本では電力の逼迫や社会的な節電、停電への備えなどが議論されています。電力会社として発電や電力使用を抑えたいので、急速充電器は増やしたくないということはありますか。

電力不足は、EVの普及が本格的に進むとみられる2025年以降、問題となってくる可能性が高いですが、電力会社は、現時点ではニーズがあれば大出力の充電器を増やしたいと思っています。電気が足りないから充電器を設置したくないということはありません。V2GやV2Bの実用化に向けた取り組みも電力会社主導で展開されており、将来起こり得る電力不足問題への対処は怠りなく進められつつあります。

――なるほど。日本もようやくEV市場がたちあがり、輸入車含めて大容量バッテリーのEVが増えているので、需要に応じたこれからの整備に期待したいですね。

はい。アウディやポルシェなど輸入車ディーラーは150kW充電器の設置を始めています。最初は高速道路などに限られるかもしれませんが、今後は高出力充電器が増えてくると思います。ただ、国産の充電器は海外製品に比較して高価で、設置工事費を比較的抑制できても200万円前後、更地にゼロから配電・変電設備も含めて敷設すると一千万円超が必要となります。これまでの充電器が補助金に頼っていた面もあって、値段が下がらないので、設置コストがペイできないという問題もあります。

――補助金に依存したビジネスでは価格競争が起きにくいかもしれません。海外ベンダーの安い急速充電器が入ってくると状況は変わるでしょうか。

ABBがすでに高出力な急速充電器の日本展開を初めていますが、ハイエンドモデルがメインなので価格面への影響は起きていないと思います。

中国はEVの充電をどうしているのか

――これまでの話は、主に商業施設や高速道路PA/SAに設置されるDC急速充電器の話でしたが、高出力化はAC普通充電器も同様でしょうか。

はい。普通充電器は3kWから11kWくらいのものが世界で普及しています。中には22kW出力の普通充電器もあります。グローバルでは普通充電器も高出力のものが主流になりつつあります。EVメーカーが多く競争も激しい中国では、メーカーが積極的にAC普通充電器を車両購入者にばら撒くような戦略をとっています。

――普通充電器の場合、集合住宅では戸建に比べて設置が困難という問題があります。中国では爆発的にEVが売れているようですが、都市部のタワマンなど、集合住宅事情は日本の比ではないような気がします。中国のEVユーザーは自宅充電をどのようにしているのでしょうか。

中国のEVブームは、ガソリン車では取得が難しい登録ナンバーが取れるからという側面が過去はありました。2台目3台目が欲しい富裕層がEVを選んでいる場合があります。このようなユーザーは集合住宅でもあまり充電を気にしていないように見えます。それに中国の都市部の集合住宅では、駐車場に普通充電ポストの整備が進んでいます。公共施設や店舗でも同様です。駐車スロットごとにコンセントが設置してあることもあります。中国はEVブームの前に電動バイクが普及しました。そのとき整備されたコンセントがEV向けに流用しやすいということもあります。

――最後にセミナーではどのようなことをお話する予定でしょうか。

いまインタビューでお話した内容を、実際に我々が作成した調査レポートの数字やグラフなどを使って各国の充電インフラの状況をまとめたいと思っています。個別の事例や、急速充電器を中心に高出力化のトレンドと今後の方向性についても紹介できればと思っています。

山田氏が登壇するオンラインセミナー「欧米中日における充電インフラ最新トレンド」は7月7日開催。詳細はこちら。

《中尾真二》

テクノロジージャーナリスト・ライター  中尾真二

アスキー(現KADOKAWA)、オライリー・ジャパンの技術書籍の企画・編集を経て独立。現在はWebメディアを中心に取材・執筆活動を展開。インターネットは、商用解放される前の学術ネットワークの時代から利用し、ネットワーク、プログラミング、セキュリティについては企業研修講師もこなす。エレクトロニクス、コンピュータのバックグラウンドを活かし、自動車業界についてもテクノロジーを中心に取材活動を行う。

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