【どうするEU?】2035年以降もe-フューエル限定で内燃機関車を容認へ

内燃機関車が絶滅の危機から脱出できそうだ。ポルシェはe-フューエルの採用に向け積極的。(写真はイメージ)
内燃機関車が絶滅の危機から脱出できそうだ。ポルシェはe-フューエルの採用に向け積極的。(写真はイメージ)全 3 枚

EV普及が進む欧州で、内燃機関車が絶滅の危機から脱出できそうだ。となれば欧州以外でも、内燃機関車が生き延びる道が開けるかもしれない。

◆ドイツから「待った」

事態が急展開し始めたのは3月初旬、ドイツのヴィッシング交通大臣が、「CO2を排出するクルマの販売は2035年までとする」という、すでにEU各国が合意していた法案の決議に「待った」をかけたから。ヴィッシング交通大臣はCO2を排出しないe-フューエルの使用を認めるよう求めた。

もともと決議は形式的なセレモニーと思われていたが、ドイツの反対で法案が否決されるのを避けるためEUは決議を延期。イタリアなど数カ国がドイツに同調する姿勢を示し、行方が注目されていた。

EUの政策執行機関である欧州委員会で気候変動政策を指揮するティマーマンス副委員長が24日、Twitterに「将来のe-フューエルの使用についてドイツと合意を見出した」と投稿。それにヴィッシング交通大臣が「方法は明らかだ。ヨーロッパは技術的な中立を守る。CO2ニュートラルな燃料だけを使う内燃機関車は2035年以降も新車登録できるということだ」とリツイートした。

とはいえ、法案が撤回されるわけではない。ゼロエミッションはキープしながら、それを実現する技術を電気自動車に限定せず。e-フューエルで走る内燃機関車も販売できるようにするという話だ。

◆背景にポルシェ?

ここで言うe-フューエルは、大気から回収したCO2と再生可能エネルギーで生産された水素を合成して作る燃料のこと。e-フューエルを燃やせばCO2が発生するが、もともと大気中にあったCO2を大気に戻すだけだからCO2ニュートラルというわけだ。

ポルシェはシーメンス・エナジーなどと共にe-フューエル企業のHIFグローバルに出資し、チリ南端のプンタアレナスにe-フューエルを生産するパイロット工場をすでに稼働させている。1年を通して風が強いチリ南端は、CO2回収や水素製造(水の電気分解)に必要な電力を風力発電でまかなえるのがメリットだ。

ここで生産したe-フューエルは、まずはポルシェ・カップのレースカーに使用するが、2026年までに生産量を年間5億5000万リットルまで拡大。内燃機関を積むポルシェのオーナーがそれを使えば、CO2ニュートラルなポルシェ・ライフを継続できると見込む。

これがヴィッシング交通大臣の「待った」の背景にあったことは想像に難くない。連立のショルツ政権のなかで、ヴィッシング大臣は経済界寄りとされる少数派の自由民主党の所属だ。

◆バイオフューエルはどうする?

CO2ニュートラルな燃料にはバイオマス(生物資源)を原料とするバイオフューエルもある。日本で研究が盛んなミドリムシ(別名ユーグレナ)もそのひとつだが、ティマーマンス副委員長がツイートで言及したのはe-フューエルだけで、EUが今後バイオフューエルをどう扱うかはまだ不透明だ。

ティマーマンス副委員長の24日のツイートは、「我々は自動車規制のCO2基準ができるだけ早く採択されるように働く。欧州委員会はリサイタル11を履行するために必要な法的段階を迅速に進めるだろう」と続く。リサイタル11はEUが法案の文言を最終調整するプロセス。そこにバイオフューエルが含まれるかどうかが、次の焦点になりそうだ。

《千葉匠》

千葉匠

千葉匠|デザインジャーナリスト デザインの視点でクルマを斬るジャーナリスト。1954年生まれ。千葉大学工業意匠学科卒業。商用車のデザイナー、カーデザイン専門誌の編集次長を経て88年末よりフリー。「千葉匠」はペンネームで、本名は有元正存(ありもと・まさつぐ)。日本自動車ジャーナリスト協会=AJAJ会員。日本ファッション協会主催のオートカラーアウォードでは11年前から審査委員長を務めている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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