「ロータリー、今でしょ!」往年のマツダ『RX-8』に乗って見えたエンジンが生き残る道

ロータリーエンジンを搭載したマツダ RX-8
ロータリーエンジンを搭載したマツダ RX-8全 42 枚

今どきプッシュスターターでないステアリングコラムにつくスタータースイッチを捻る。冷間時にも関わらずエンジンはすぐに目覚め、コロコロと独特なサウンドを奏でる。

車両はマツダ『RX-8』である。初度登録が平成23年だから、もう13年が過ぎたクルマである。最終型のRX-8をマツダは今も広報車として存続させ、ジャーナリストへの貸し出しに対応する。他にも『ロードスター』は初代からすべての世代を広報車として持つ。マツダの見識の高さに改めて敬服する。

去る1月12日、マツダの毛籠社長は「東京オートサロン2024」でのスピーチで、ロータリーエンジンの開発チームを2月1日に立ち上げることを発表した。世の中が電気自動車になびき、多くのメーカーは内燃機関のエンジン開発を凍結する中での決断である。多くの人に「何故今?」という疑問符がついたのではないかと思うが、今回改めてRX-8を9日間借りて思ったことは、「ロータリー、今でしょ!」というものであった。

マツダ RX-8(スピリットR)マツダ RX-8(スピリットR)

◆動力源としての魅力は今も全く色褪せていない

私の勝手な推測に基づけば、恐らく内燃機関はなくならない。100%電動化は少なくとも突然変異のような画期的な電池が出現しない限り無理だと思うからである。そしてもう一つ、自動車は今後趣味の世界と実用の世界の二つに大きく分離していくだろうと予想していることも、前述した「ロータリー、今でしょ!」の理由である。

その前にロータリーエンジンについて少しお話ししたい。このエンジンが誕生したのはそれほど古い話ではなく、今からおよそ67年ほど前のことである。開発に成功したのはフェリックス・ヴァンケル博士と自動車メーカーのNSU。NSUは後にアウディと合併して今日に至るメーカーである。マツダは交渉の末このヴァンケルエンジン(開発者の名を取って当時はそう呼ばれていた)の技術を取得して独自の道を歩み始めた。とはいえ実用化には困難を極め、同じように技術を取得した他のすべてのメーカーは結局成功には結びつかず、開発から撤退し、マツダだけが残ったのである。

ロータリーエンジンはいわゆる動弁系のパーツが必要ないことや、回転運動のみで直接動力が取り出せることなどから極めてコンパクトな外形で、駆動用エンジンとして搭載した際の自由度が高かった半面、熱損失や摩擦損失が大きく結果的に燃費の悪さが仇となって表舞台から消えていくことになった。

そんなロータリーエンジンがレンジエクステンダー用の「8C型」エンジンとして『MX-30』に搭載され昨年蘇ったのは御存じの通りだ。最大の要因は発電用の動力源として定常運転をすることが多く、且つコンパクトなものだから搭載も容易であったことが大きな要素であったろう。

しかし、動力源としての魅力は今も全く色褪せていないことをRX-8に試乗して痛感した。

◆ロータリー開発に再び火を灯したマツダ

マツダ RX-8(スピリットR)マツダ RX-8(スピリットR)

個人的には1970年代に免許を取って2代目のクルマとして我が家が購入したサバンナ『RX-3』というクルマに乗って、その良さを十分に体験していた。どう良いかというと、とにかくスムーズなことである。往復運動がなく、回転運動だけだから振動が極めて少ない。それにシャープな回転フィールを持ち、高回転まで容易に回る。

RX-8はまあ昔のクルマだからギア比の関係もあるだろうが、100km/h時のエンジン回転は3250rpmとかなり高い。そんなわけだから加速の際のシフトアップは容易に5000rpmを超えることがある。最近のクルマはタコメーターすら存在しないものが多いが、まあ回っても6000rpmあたりがいいところ。ロータリーだとそのあたりは普通に使える回転域で、レブリミットは9000rpmだから、如何に高回転を許容するかわかると思う。半面、トルクフィールは脆弱で2000rpmを下回るとアクセルに対する反応は希薄になってしまう。

燃費は最新のガソリン内燃機と比べたらさすがに悪く、350kmほど走って7.24km/リットルであった。でも新しい「MX-30 ロータリーEV」の燃費はハイブリッド燃費ではあるものの、15.4km/リットルとほぼ倍。純内燃機関車として考えても当時のRX-8よりはよくなっているようだ。

敢えて今、マツダが再びロータリー開発に火を灯したことを考察すると、これも想像に過ぎないが、今ロータリーが使えそうだという可能性を見出したからだと思う。それもジェネレーターとしてではなく動力源としてだ。

◆フェラーリやポルシェになることができるか

RX-8に搭載された「13B型」ロータリーエンジンRX-8に搭載された「13B型」ロータリーエンジン

これまでICEの魅力でクルマを売って来たのはそのエンジンや性能を最大限の魅力としてきたブランドである。例を挙げればそれはフェラーリであり、ランボルギーニ、あるいはポルシェといったメーカーである。これらのブランドあるいはメーカーが作り出すクルマはどう考えても趣味の世界のクルマであって、実用の世界のクルマではない。

ポルシェなどは南米のチリに合成燃料の工場を作っている。しかし、その合成燃料の価格は安くなってもガソリンの5割アップという試算がある。つまり簡単に言えば富裕層相手のフェラーリやポルシェは、仮に燃料の値段が高騰してもクルマは売れるという判断なのだと思う。マツダはこのフェラーリにもポルシェにも作れないロータリーエンジンという大きな財産を持っているのだ。しかもそのスムーズネスは3ローターあるいは4ローター化すればガソリンエンジンの12気筒に相当するスムーズさを持ち合わせる。しかもサウンドチューンすれば、そのエンジンサウンドはV12をも凌駕する素晴らしいものだ。

合成燃料だけではない。ロータリーエンジンの大きなメリットは多様な燃料に対応できること。LPGやCNGさらには水素でも動かすことができる。そんなエンジンを放置しておくのは勿体ないことで、カーボンニュートラルに対応するソリューションとしてロータリーは間違いなくそのポテンシャルを持つ。

そして何よりも世界でマツダしか作ることのできないロータリーエンジンを使ったクルマを作ることで、白物家電的実用一辺倒の自動車ではない、趣味の世界の魅力的なクルマを生み出すことができる。マツダを支える大きなモチベーションはここにある。だからこそ「ロータリー今でしょ!」と思うわけである。

《中村 孝仁》

中村 孝仁

中村孝仁(なかむらたかひと)|AJAJ会員 1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

+ 続きを読む

【注目の記事】[PR]

ピックアップ

アクセスランキング

  1. 水平対向8気筒エンジン搭載バイクは世界唯一、中国長城汽車の「SOUO」ブランドが発表
  2. 6年ぶりビッグネーム復活!? 新開発のV12エンジンが搭載されるフラッグシップGTとは
  3. トヨタ『シエンタ』対応の「車中泊キット」一般販売開始
  4. VWの小型ミニバン『キャディ』、改良新型を生産開始…5月末ドイツ発売へ
  5. BMWの新型車、ティザー…実車は5月24日発表へ
  6. MINI ハッチバック 新型の頂点「JCW」、今秋デビューへ…プロトタイプの写真を公開
  7. 「トゥクトゥク通学」学生の問題意識から生まれたレンタルサービス、実証試験を開始
  8. スズキ スーパーキャリイ 特別仕様は“For Your Work Buddy”…デザイナーの思いとは?
  9. BMWが14車種の新型車を発売へ…『X3』や『1シリーズ』に新型 2024年
  10. 【メルセデスベンツ EQA 新型試乗】“EQ感”がより増した、シリーズ最小モデル…島崎七生人
ランキングをもっと見る