大型トラックの最高速度「時速90km」へ、引き上げの根拠と「物流2024年問題」【岩貞るみこの人道車医】

大型トラックの最高速度「時速90km」へ、引き上げの根拠と「物流2024年問題」(写真はイメージ)
大型トラックの最高速度「時速90km」へ、引き上げの根拠と「物流2024年問題」(写真はイメージ)全 2 枚

2024年4月1日、高速道路での大型トラックの最高速度が、これまでの時速80kmから時速90kmになった。このところの警察庁は、新東名、常磐道、東北道での一部区間で普通車時速120kmの区間を設けるなど、これまでのがちがちの守りから一転、攻めの姿勢をみせている。

とはいえ、大きく重く、衝突時のエネルギーがある大型トラックが事故を起こせば、被害は大きくなる。乗用車や二輪車を走らせる一般ユーザーの我々にとって、最高速度が引き上げられるのはちょっとした脅威だ。では、警察庁が引き上げを決断した根拠を見てみよう。

◆大型トラックの最高速度、引き上げの根拠

警察庁から発表されている調査概要によると、まず、大型トラックの事故がこの20年間で50%減っていることが挙げられている。これまで大型トラックの事故は全車種の事故件数に比べ多かったのだが、同程度まで下がってきているのだ。おそらくこれは、速度超過による事故が多数発生していた大型トラックに対し、時速90kmを上限とするリミッターの装着を義務付けた効果といえるだろう。また、燃料価格の高騰、二酸化炭素排出への社会的義務感などから、エコドライブを心がける企業やドライバーが増えたことも理由として考えられる。

とはいえ、今回、最高速度が時速90kmにまで上がれば、「時速100kmくらいまではつかまらないよね」というヨコシマな気持ちが出るというもの。車速は高いほうへ押し上げられてしまうのではないだろうか。実際、今の実勢速度は時速87km。制限速度に対して時速7kmほど上がっているのだ。ただ、時速90kmのリミッターが引き続き装着され続ければ、物理的にそれ以上は出ない。つまり、堂々と時速87kmで走ることができるほか、速度が上がったとしてもプラス、時速3km程度のちがいにとどまることだろう。

今回、最高速度を上げた根拠のもうひとつに、衝突被害軽減ブレーキ等の安全装置の性能が向上し、普及も進んでいることが挙げられている。ただ、これはちょっと疑問だ。

全日本運輸産業労働組合連合会が2022年6月に行った組合員に向けたアンケートによると、総重量20t超の車両は61.6%と高いものの、11~20tは50.4%、5~11tは29.6%という結果になっており、買い替えまで25年程度といわれているトラックへの装着率向上の難しさが見てとれる。衝突被害軽減ブレーキの装着は、増えてはいるものの、多くのクルマに装着できているから大丈夫と言えるほどではないと思う。私たちは、渋滞末尾で止まったときは、前方に十分なスペースをとり、ハザードランプをつけて後続車に知らせるクセをつけたい。

一方で、今回の最高速度引き上げにより、乗用車(軽自動車等を含む)との速度差が少なくなったことは、事故原因を減らすことにつながる。高速道路上では、車線変更を伴う追い越し行動で引き起こされる事故が多いからだ。2000年に軽自動車と自動二輪車の最高速度が時速80kmから100kmへと引き上げられた理由としても、このことは強く言われており、高速道路上にいる車両が、速度差のない状態で移動する安全効果に期待したい。

大型トラックの最高速度「時速90km」へ、引き上げの根拠と「物流2024年問題」(写真はイメージ)大型トラックの最高速度「時速90km」へ、引き上げの根拠と「物流2024年問題」(写真はイメージ)

◆時速90km以上に引き上げられる可能性は

では、大型トラックは設計上、時速90kmで走り続けて大丈夫なのだろうか。

現在の大型トラックは、時速90kmを前提に設計されているため、車両の安全性能は保証できるとのこと。ただ、それ以上になると、現在の車両を改良する程度では対応できないため、一から開発する必要があるらしい。つまり、今後、時速90km以上に引き上げられる可能性は限りなく低いということだ。

トレーラーについては、けん引部分の強度や耐久性が、時速80kmまでしか安全性能が確認されていないことを理由に時速80kmのまま、据え置かれている。

今回の、最高速度の引き上げは、物流業界における2024年問題に端を発している。車速を上げることで目的地までの到達時間を短くし、ドライバーの労働時間を削減していこうというものだ。ただ、ドライバーの拘束時間は、運転しているときだけではない。搬入時刻が指定されていれば、早く着いたところでどこか(多くは高速道路のSAPA、ひどい場合は本線上の路肩など)で待たなければならず、拘束されている時間は変わらない。

移動時間は、物流問題のほんの端っこであり、ドライバーの生活や、安全や、命を守るためには、もっと根本的な部分で物の流れを変えていく必要がある、のだけれど、会社の垣根を超えての合理化や、待機場所確保のむずかしさは、本当に大変なことも承知している。

私たちにできることといえば、宅配便の再配達をなくすことと、コンビニのパンは、日付が古くても気にしないとか、せこく些細なことしかできなくて心苦しい。だけど、高速道路を利用するいちドライバーとして、なくてはならない物流を担うトラックドライバーに感謝しながら、彼らが安全に走れるように、気配りした運転ができればいいなと思っている。

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家
イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。レスポンスでは、女性ユーザーの本音で語るインプレを執筆するほか、コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。著書に「未来のクルマができるまで 世界初、水素で走る燃料電池自動車 MIRAI」「ハチ公物語」「命をつなげ!ドクターヘリ」ほか多数。最新刊は「法律がわかる!桃太郎こども裁判」(すべて講談社)。

《岩貞るみこ》

岩貞るみこ

岩貞るみこ|モータージャーナリスト/作家 イタリア在住経験があり、グローバルなユーザー視点から行政に対し積極的に発言を行っている。レスポンスでは、女性ユーザーの本音で語るインプレを執筆するほか、コラム『岩貞るみこの人道車医』を連載中。著書に「未来のクルマができるまで 世界初、水素で走る燃料電池自動車 MIRAI」「ハチ公物語」「命をつなげ!ドクターヘリ」ほか多数。2024年6月に最新刊「こちら、沖縄美ら海水族館 動物健康管理室。」を上梓(すべて講談社)。

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