車名はまんま「12気筒」!添加物なしのV12搭載『12チリンドリ』にかけるフェラーリの「強さ」とは

フェラーリ 12チリンドリ(Ferrari 12 Cilindri)
フェラーリ 12チリンドリ(Ferrari 12 Cilindri)全 36 枚

フェラーリのフラッグシップたる12気筒は、果たして今後どのような扱いになるのか。

詳細画像:フェラーリの新型12気筒モデル『12チリンドリ』

『812スーパーファスト』の終焉と相前後して、巷では様々な噂が渦巻いた。その主因は昨今の環境性能適合的な課題で、『ラ・フェラーリ』が電動化の先鞭をつけたことや、『SF90ストラダーレ』や『296GTB』といったミッドシップラインがPHEV化を果たしていることを鑑みれば電動化は既定路線、或いは12気筒はごく一部のカスタマー向けの“スペチアーレ”になるのではとも囁かれていた。

答えが世に示されたのは5月3日のこと。その週末にF1が開催されるマイアミでお披露目されたモデルの名は『12 Cilindri(12チリンドリ)』。イタリア語では「ドーディチ・チリンドリ」と読む。その意は英語にすれば“12 Cylinder”、そして日本語にすれば「12気筒」。搭載するエンジンをそのまんま車名に…というわけだ。

ぶっきらぼうというか強気というか、その命名の裏には彼らの12気筒にかける意気込みの強さがある。

フェラーリ 12チリンドリ(Ferrari 12 Cilindri)フェラーリ 12チリンドリ(Ferrari 12 Cilindri)

◆「ミスター12気筒」を名乗るのは自分をおいて他にない

1947年、フェラーリを名乗る初のモデルとなった「125S」に積まれていたのはアルファロメオのエンジニアだったジョアッキーノ・コロンボが設計した60度バンクの1.5リットルV型12気筒だった。以来、フェラーリのロードカーには継続的に12気筒が搭載され続けている。ミスター12気筒を名乗るのは自分をおいて他にない。その想いは誰よりも強いだろう。

余談ながら、12気筒を量産的ロットで作り続けることが出来たメーカーは数少ない。ランボルギーニは目指すライバルがフェラーリだったからこそ迷うことなく12気筒の開発に没頭出来ただろうし、ジャガーもまたフェラーリやフォードからル・マンの勝利をもぎ取るために12気筒を企画した。そのエンジンは結局レースを走ることなく、後にサルーンやGTのために活用されたわけだが、スポーツカーやレーシングカーのフィールドで切磋琢磨しなければならないほど、昔は技術的ハードルも高かったわけだ。90年代に入るとドイツ車も12気筒の商品化に邁進するが、その品質が安定するのは00年代以降の話となる。

フェラーリ 12チリンドリ(Ferrari 12 Cilindri)フェラーリ 12チリンドリ(Ferrari 12 Cilindri)

一方で、12気筒はスポーツカーにとってパッケージ的には決して理想的なものではない。体積や重量、重心などの悪影響を回避すべく車体を作り込んでいくと、居住や荷室などの空間は二の次と割り切るしかなくなっていく。フェラーリも一時はリアミッドシップ専用ともいえる幅広な180度バンクのV型レイアウトを12気筒で採用するが、市販車としての体裁を整えるべくミッションをエンジン直下に置くなどした結果、全長は短いものの重心高に苦慮することになった。

以来、ミッドシップ12気筒は車格や装備の制約が小さいスペチアーレに、FR12気筒は創業来の伝統であるストラダーレにと、『F50』の登場以降、フェラーリは12気筒を二刀流で使い分けている。その両方の共有を前提に徹底した小型設計が施されたのが02年、『エンツォ』に初搭載されて以降、フェラーリの12気筒の歴史を支え続けているF140系ユニットになる。

◆最新型「F140HD」を搭載する『12チリンドリ』とは

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12チリンドリが搭載するのは、その最新型となるF140HD型だ。65度バンクの6.5リットル12気筒は812スーパーファストをベースとした812コンペティツィオーネの開発に合わせて大掛かりに手が加えられたが、そのF140HB型のハードウェアを活用するかたちで、まったく同じ830psのパワーを9250rpmでアウトプットする。レッドゾーンは9500rpmと、フェラーリのストラダーレとしては当然ながら最強のスペックだ。

一方でトルクの側は欧米中など仕向地の排ガス規制に対応すべくセラミック触媒が採用されるなど、排気系の仕様変更もあって数値的には僅かに減少している。が、8速DCTの採用によるレシオカバレッジの拡大、スポーツ走行時に多用する3~4速のトルクカーブを最適にマッピングするアスピレーテッド・トルク・シェイピングの投入など、ハードとソフトの両面から補完することで、体感上の力感はむしろ向上しているという。

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シャシー面ではアルミスペースフレーム形式を継承するが、鋳造部品の剛性や高精度化によって812スーパーファスト比で15%の捻れ剛性向上を果たしている。また、ホイールベースも20mm短い2700mmに設定されるなど、ディメンジョンやジオメトリーは別物だ。ミッションを後ろに置くトランスアクスルレイアウトにより、重量配分は48.4:51.6とハイパワーFRのセオリー通り、やや後ろ寄りとなっている。

ダイナミクスをサポートする電子制御デバイスは、全て最新のフェイズへとアップデートを受けた。彼らがバーチャルショートホイールベースと呼ぶ4WS、車体姿勢制御のサイドスリップコントロールといった既存のアイテムに、296GTBから採用されたブレーキ・バイ・ワイヤーシステムを活用するABS evo、そしてピッチやロールなどの動きも見定める6軸ダイナミックセンサーが加わり、これらがフュージョンすることでより細密で的確なボディコントロールが可能となっている。

◆今世紀最高の内燃機関と太鼓判を捺せる

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12チリンドリはクーペとスパイダーの両方が同時に発表されるという、フェラーリとしては例外的な展開となった。

フロント周りはプレキシグラスカバーのヘッドライトを持つ前期型「365GTB/4」を、フェンダー~カムテールのリア周りは「275GTB」などを思い起こさせるなど、部位ごとには懐かしいモチーフも垣間見える一方で、クーペの側はリアウインドウからリアデッキ周りをデルタウイング形状にブラックアウトし、立ち目線では斬新なグラフィックを感じさせるなど、斬新な提案も加えられている。対してスパイダーは812GTSからの流れを汲んで、2つのバットレスでオープン時のプロポーションもキープするクラシックな仕上がりだ。

示された回答は、添加物なしでド直球の自然吸気12気筒と、それは大方の予想を鮮やかに裏切る潔いものだった。恐らくフェラーリの中で数的にも最も成功した12気筒だろう、そして今世紀最高の内燃機関と太鼓判を捺せる、そんなF140系の系譜が途切れず継承されたことが、個人的には何より嬉しく思う。

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《渡辺敏史》

渡辺敏史

渡辺敏史|自動車ジャーナリスト 1967年福岡生まれ。自動車雑誌やバイク雑誌の編集に携わった後、フリーランスとして独立。専門誌、ウェブを問わず、様々な視点からクルマの魅力を発信し続ける。著書に『カーなべ』(CG BOOK・上下巻)。

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