【BYD シール】「売れるかは未知数」縮小する日本のセダン市場で、中国のEVはどう戦うのか

BYD SEAL AWD
BYD SEAL AWD全 24 枚

BYDオートジャパンは正規輸入第3弾のBEVセダン、『SEAL(シール)』の販売を開始した。価格は528万円から、さらに台数限定で495万円からの特別価格を設定するなど戦略的な値付けも注目だ。一方で、縮小する日本のセダン市場において、どのような戦略を描くのか。

◆航続距離は640km、バッテリー充電性能に強み

BYD SEAL AWDBYD SEAL AWD

シールは輸入セダン市場において、BEVの経済性とともに走りの楽しさを両立する「eスポーツセダン」という新たなポジションを確立するというコンセプトで導入された。そのキーとなるのはもともとバッテリーメーカーとしてスタートしたBYDの強みである「ブレードバッテリー」と、新たに採用されたプラットフォーム「CTB」(Cell to Body)によるところが大きい。

先行して日本に導入されている『ATTO 3』や『ドルフィン』で採用していた「CTP」(Cell to Pack)はフロアパネルにバッテリーパックを取り付ける仕様だが、それに対しCTBは、バッテリーとボディを一体化したもので、フロアパネルがなく、バッテリートップカバーがフロアパネルを兼ね備えた構造となる。バッテリーパックそのものが車体の構造体に組み込まれることで、「欧州プレミアムクラスと同等のボディ剛性を備えている」とBYDオートジャパン マーケティング部商品課の永井亮太さんは説明する。安全性の向上に寄与するだけでなく、ハンドリング性能も向上。実際に運転しても妙な低重心感がなく、極めて自然な走りが実現されていた。

航続距離は後輪駆動の「BYD SEAL」が640km(申請中)、全輪駆動の「BYD SEAL AWD」が575km(同)を実現しながら、充電性能の高さもシールの特徴だ。シールの車両側受け入れ可能充電性能は105kWhで、ドルフィンのロングレンジやATTO 3の85kWhよりも高性能となっている。

BYD SEALの充電性能BYD SEALの充電性能

他ブランドの輸入BEVと比べても優秀だとしており、シールでCHAdeMO規格の90kW出力(ブーストモードなし)による急速充電、比較車両の輸入BEVで海外規格の250kW出力の充電をおこなった(※)ところ、「どちらの車両も30分の急速充電で得られた充電量は42kWだった」(永井さん)。「シールは常に80kW以上をほぼ一定でキープ。気温変化にもよるが、ブーストモードなしの90kWの充電器を用いた場合、安定的な高出力充電はSOC85%程度まで継続するが、多くのBEVは時間とともに出力が下がる傾向にある。しかしバッテリー温度管理システムをさらに最適化したシールは、激しい温度変化を起こさずに適切に温度制御されていることが分かる」と充電性能の高さを強調した。

※充電条件は、急速充電の時間は30分。気温はSEALが15度、比較車両が23度でSOC30%でスタート

◆縮小する日本のセダン市場「売れるか売れないかは未知数」

BYD SEAL AWDBYD SEAL AWD

BYDのBEVが日本で販売を開始してから約1年半。コンパクトSUVのATTO 3、コンパクトカーのドルフィンに続き、第3弾としてシュリンク傾向にある日本のセダン市場にあえてシールを導入したのは何故か。まずはATTO3、ドルフィン、シールはグローバル戦略車という位置付けが要因のひとつだ。「コンパクト、SUV、セダンという基本的な3つのボディタイプを市場に投入することでBYDの技術や認知度向上の一助とする」とBYDオートジャパン ネットワーク管理部トレーニングマネージャーの鈴木聡さんは話す。

中国市場ではテスラやアウディ『A4』などのセダン需要が高く、高級車イコールセダンというイメージが強いことも大きな要因としてあり、それを黙ってみているわけにはいかなかったという事情もありそうだ。とはいえ日本市場とでは明らかに状況が異なる。鈴木さんは、「売れるか売れないかは正直、我々も未知数だ」と本音を吐露する。

一方でBYDオートジャパン 東福寺厚樹社長は「今後少なくとも毎年1車種ないし2車種の新モデル(改良含む)を導入する」ことを明らかにしており、鈴木さんも「基本的にはセダン以外も含めて全カテゴリーの車種を揃えたい。価格帯も200万、300万、400万、500万、600万、700万、1000万、1000万以上のそれぞれでクルマを揃えたい」と意気込みを語るように、出来るだけ選択肢を増やすことをまずは重視している。

BYDオートジャパン 東福寺厚樹社長BYDオートジャパン 東福寺厚樹社長

「日本に限らずグローバルでBYDは全車種、全カテゴリーあることを見せたい。確かに日本ではセダンは売れないかもしれないが、まずはスピード感を持って進めるのがBYDのコンセプト。チャレンジだが、まずはやってみる。売れなかったら別の方法を考えればいい」と述べ、モデルラインナップを拡大させ、同時に2025年末までに100店舗(現在仮を含めて55店舗)の目標も崩さずに進行させている。

購買ターゲットは幅広く捉えている。「我々はいかんせん新参者なので、いきなりターゲットユーザーを絞るのもどうかと考えているので、シールはマーケティングテスト的な意味合いもある。まずはあえて広く展開し、どこに刺さるのかを見極めながらターゲットを絞っていく。CMで長澤まさみさんを起用したのも、認知度が高く、世代性別を問わずアピールできるというのが背景。フラットショッパー(※)と呼ばれる方たちをまずはターゲティングした」(鈴木さん)。

※フラットショッパーとは、良いものは良いものとして買う。悪いものは買わない人たちを指す。

◆「お値打ち価格で、ちょっとコスパもいい」

BYD SEALBYD SEAL

しかしある程度の方向性は必要だ。そのためにはまずBYDというブランドのイメージをどう定義づけるかが重要だ。

鈴木さんは、「そこを見失ってしまったら、いまの状態が続き。結局BYDのイメージがなくなってしまうし、再購入につながらない」としたうえで、「BYDオートジャパンとしても正直、やりながら考え、冷静に分析をしている状況。ただし、機能装備も充実し、クルマとしてのクオリティも高い水準だと思う。我々の場合はクルマの8割が内製化しているという強みもあるので、お値打ち価格で、ちょっとコスパもいい。良いものを皆さんにお求めやすい価格でお届けする。それがブランドとしての考えとして間違いない」と話す。

同時にグローバルでは、「テクノロジー会社というイメージを持ってもらいたい」。その理由は、「(上記に加え)様々なインテリジェント機能も装備し、走行性能だけでなく、充電技術やバッテリー技術、モーターの技術など世界でも高い水準にあるのでBYDはテクノロジーの強い会社だというイメージを与えたい」と語った。

もともとバッテリーメーカーとしてスタートしたBYDだけあって、その分野の進化やニーズをつかむのは早い。今回も充電性能に着目し確実に進化を遂げBEVの世界でも躍進している。更にクルマ自体の完成度も高水準にまとめた。今後も続々と導入される「お値打ち価格で、ちょっとコスパもいい」新型車が、日本市場にインパクトを与えることができるのか。要注目だ。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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