国土交通省は、車内で運賃授受に現金を全く使用しない完全キャッシュレスバスの実証運行を実施する路線を選定し、8月30日に公表した。完全キャッシュレスバスはバス事業者のコスト削減を可能とし、その結果としてドライバーの確保や交通ネットワークの維持充実が期待できる。
国交省によると、すでにバス業界では、これまでの事業者による積極的な投資によってキャッシュレス環境が整備されているという。国交省では導入・普及をていねいに進める観点から、まずは実証運行を行なう。今般、事業者の申請に基づき、実証運行を実施する18事業者29路線を選定し、11月1日以降、順次運行が開始される予定だ。
●バスネットワークの危機的な状況
公益社団法人日本バス協会によると、バス運転者が2023年度で1万人不足している。またバス事業者の9割近くが赤字事業者だ。2023年度には減便の対象となった路線において2割程度便数が減少した。バス事業者の廃業も生じるなど、バスネットワークは危機的な状況にあり、国民の生活基盤に影響を与えている。
こういった状況を解消するためには、バス事業者の経営改善や供給力改善を図ることが必要だ。国交省では、経営改善や運転者の負担軽減が見込まれる完全キャッシュレスバス導入を進めることが効果的だという。
斉藤鉄夫国交相は「完全キャッシュレスバスの推進は、現金の管理コストや運転者の負担の軽減といったバス事業者の経営改善、定時運行の確保といった利用者の利便性向上、さらにはバスネットワークの維持充実に資する観点から、有効な取組だと考える」と言う。
●年間給与約1900人分の経営改善効果
国交省の試算では、主要なバス事業者において完全キャシュレスが全て実現した場合の経営改善効果は約86億3000万円/年になり、省力化、経営改善が期待できる。この金額はバス運転者の年間給与約1905人分になり、全国での不足分人数1万人の約2割に相当する。
●すでにキャッシュレス決済比率は88.4%
また主要なバス事業者におけるキャッシュレスの導入割合は92.3%、決済比率は88.4%で、完全キャッシュレスの環境は整いつつある。バスでの現金決済比率は10%程度となり、事業者によっては3%未満、路線によっては1%未満も存在する。
ただ斉藤国交相は「完全キャッシュレス化への移行にあたっては、バス利用者の理解を得ることが重要だ。そのため、まずは実証運行を進める」とする。